実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第32回 山口創司




実作講座「演劇 似て非なるもの」は「人と人が出会うところから始まる」と考えています。
でも今は人と接触することに、どこか恐れや不安を互いに感じてしまうような状況が続いています。
家族や職場の人たち、ごく限られた人にしか会わない生活をしている人も多いのではないでしょうか。
そんな中、みんな、どんなことを感じたり考えたりして暮らしてるのかなと思ってみたりします。
実際に会ってはいなくても、いろんな場所に信頼する人たちが居て、それぞれ日々の暮らしがある。
そのことを灯火のように感じています。

今回のリレーエッセイは山口創司さんです。
知り合ったのはかれこれ四半世紀くらい前のこと。
僕は当時ロス・アプソンというレコード屋のスタッフで、
創司くんはドランク・テクノのdotさんとテープス・クラーという音楽ユニットを組んでいました。
不思議なもので知り合った時の感覚は消えないので、今でも山口さんでも創司さんでもなく、創司くんなのです。
それはともかく彼はその後、某オーディオ・メーカーに就職して自身の音楽活動からは遠ざかったようですが、僕も含め多くのミュージシャン、アーティストたちが展示やライブで彼には多大なるバックアップをしてもらいました。
つい最近、彼のSNSを見たら、まだ幼い娘さんがシンセサイザー(Moog!!)を楽しそうにゴリゴリ演奏してる映像がアップされてまして、ほんと面白いものです。

(生西康典)


「場所の色」 山口創司

「いまどこにいる?」とのお題だったので、場所や地理について最近思うこと、というか思い出した事を書こうかなと思います。

子育てをする中で自分でも意外だったのは子供と過ごすと、遥か記憶の彼方にあった私自身の子供時代の感覚をたくさん思い出すという事でした。

私は宮城の矢本町(現在の東松島市)という小さな街で生まれ育ったのですが、幼稚園から小学校低学年まで昆虫採集に夢中でした。
当時私は昆虫採集を「虫捕り」と言っていましたが、虫捕りは私の中では野生と対峙する狩猟の様に全集中力を使って真剣に取り組んでいたので笑 誰かと行くと不要な音を立てて虫が逃げるのと、感覚に集中出来ないので主に単独で狩りに出かけていました(同級生と行く事もありましたが、それは僕にとっては単なるコミュケーションを重視したレクレーションでした←虫博士だったので捕まえた虫の解説などしていました)
毎日に昆虫図鑑を読んでは虫の習性を頭に叩き込み「あの辺りの空き地にお目当ての虫がいるのでは無いか?」「明日はあっちの方向を攻めてみよう」みたいな事ばかり考えていたせいもあってか、段々と方角に色の様なもの(様なものとしか表現出来ないのですが)を感じる様になって、「こっちの方角はこういう色だから虫はいないなとか」「こっちの方角の色はワクワクする」みたいな人には説明がし難い自分なりの地理的な身体感覚があり、虫捕りをしなくなってからもこういう感覚は中学くらいまではあった気がします。

と、そんな感覚があったことさえつい最近まで忘れていました。

子供の保育園で父母の初顔合わせがあった際、保育士さんに「自己紹介として学生時代の事や若い頃の思い出を話して下さい」と言われ(え!なんで?と一瞬思いましたが、多分テーマがあった方が話しやすいし打ち解けると思って保育士さんはそうしたのでしょう)
私は「東北の田舎街で生まれ育って10代の終わりに親元を離れて東京に出て来て以来、高円寺界隈に住んでいます。若い時はフラフラと好きな事だけして面白おかしく生活していた思い出ばかりなので(生西君ともその頃からのお付き合いです。色々楽しいことありましたね!)こんな高円寺みたいな環境で幼少期を過ごす感覚というのが全くわかりませんし、どんな影響があるのかも全く想像もつきません」みたいな事を話しました。

最近、子供と言葉で意思疎通が出来る様になってからは、休日などは散歩しながら会話するのですが、ある日子供が「いちごの公園に行きたい」と言い出して(そんな公園は無いのですが)彼女なりの地図感覚がある様で「あっちの方にあるんだよね」と説明してくれたり「この橋は好きなんだよね。だけどあっちの橋はキライ」(私には違いが分からない)とか、「ここ楽しいんだよね」と今まで入った事もない「野方文化マーケット」という終戦直後からある(調べたらそうらしい)バラック小屋の様なほとんどシャッターが降りているマーケットにある、いわゆるサブカルっぽい昭和小物のお店に急に入ってみたりと。。。

語彙がまだ少なく理解していないことは多いにせよ、この感覚的な方角や地理的な好き嫌いはどこから来るのか?どういう感覚で街を感じているのかなぁと考えていたら、不意に!そーいえば!!自分も子供の頃は、あまり言語化できない身体的な地理感覚や惹かれる場所、何となく嫌な場所とかあったなぁ!!!急に思い出したのでしたよ。

私が夢中になった昆虫図鑑はもしかすると彼女はYouTubeなのかもですし、私が虫捕りに夢中になった草むらは彼女にとっては高円寺界隈のカオティックなお店なのかもですし。。。ハッキリ言ってどんな感覚なのか想像もつきませんが、彼女と話していて子供の頃あった自分だけの方向感覚や地理感覚、身体感覚を思い出したというお話でした。

私はいま、妻と娘と犬と高円寺と野方のあいだくらいにいます。

(2021年5月25日)

山口創司 Yamaguchi Soshi

エンジニア•プランナー、楽器メーカー 株式会社コルグの技術開発部で音楽や音に関する新規製品、サービス開発、その周辺企画に従事しています。

リレーエッセイ『いま、どこにいる?』

第1回 植野隆司「トゥギャザー」
第2回 鈴木健太「交差点」
第3回 黒木洋平「もっと引き籠る」
第4回 武本拓也「小さなものの食卓」
第5回 冨田学「面白かった本について」
第6回 竹尾宇加「新しい日常」
第7回 ドルニオク綾乃「集えない」
第8回 冨岡葵「Letter」
第9回 岡野乃里子「体を出たら窓から入る」
第10回 奧山順市「17.5mmフィルムの構造」
第11回 千房けん輔「中間地点」
第12回 佐竹真紀「お引っ越し」
第13回 山下宏洋「休業明け、歌舞伎町に映画を観に行った。」
第14回 小駒豪「いい暮らし」
第15回 伊藤敏「鹿児島にいます」
第16回 コロスケ「無意義の時間」
第17回 嶺川貴子「空から」
第18回 加戸寛子「YouTubeクリエイターは考える」
第19回 いしわためぐみ「OK空白」
第20回 井戸田裕「時代」
第21回 Aokid「青春」
第22回 佐藤香織「ここにいます」
第23回 池田野歩「なにも考えない」
第24回 皆藤将「声量のチューニングに慣れない」
第25回 寺澤亜彩加「魂の行く末」
第26回 しのっぺん「歩きながら」
第27回 野田茂生「よくわからないなにかを求めて」
第28回 野口泉「Oの部屋」
第29回 瀧澤綾音「ここにいること」
第30回 鈴木宏彰「「演劇」を観に出掛ける理由。」
第31回 福留麻里「東京の土を踏む」


実作講座「演劇 似て非なるもの」 生西康典

▷授業日:週替わりで月曜日と金曜日 19:00〜22:00(6月から開講)
「演劇」は既成のイメージされているものよりも、本当はもっと可能性のあるものなんじゃないかと僕は思っています。それを確かめるためには、何と言われようとも、自分達の手で作ってみるしかありません。全ては集まった人達と出会うことから始めます。