実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第9回 岡野乃里子


実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ

リレーエッセイ 『いま、どこにいる?』第9回 岡野乃里子


撮影:岡野乃里子


実作講座「演劇 似て非なるもの」は「人と人が出会うところから始まる」と考えています。
でも今は人と接触することに、どこか恐れや不安を互いに感じてしまうような状況が続いています。
家族や職場の人たち、ごく限られた人にしか会わない生活をしている人も多いのではないでしょうか。
そんな中、みんな、どんなことを感じたり考えたりして暮らしてるのかなと思ってみたりします。
実際に会ってはいなくても、いろんな場所に信頼する人たちが居て、それぞれ日々の暮らしがある。
そのことを灯火のように感じています。

今週のリレーエッセイは岡野乃里子さんです。

(生西康典)


「体を出たら窓から入る」 岡野乃里子

こんにちは。お元気ですか?

ここ最近感じたり考えている事を、という事で、日々変わっていく考えを、メモに残してみました。

2020.04.30
久しぶりに外へ出た時、離れたマンションを見て驚きました。ピントが合わない。そこで初めて、自分の眼球が部屋という空間に合わせて調整されていた事に気付きました。遠い場所に接続した気でいるうちに、遠景を見るための筋肉が衰えている。
それからは、たまに遠くの風景にピントを合わせて見るようにしています。家には大きなスケールがないと気付いた今、海とか、谷とか、ひらけた空間が嬉しい理由を再確認しています。

2020.05.19
オンライン会議、というのをよくやりますが、私たち一生目が合わない気がしますね。会話に必要な相手の表情を見ようとするほど、私の顔をとらえるカメラの中心とは視線がずれる。いつだか、苦手な人に「目を見て話しなさい」なんて叱られたけど、だからちょっとホッとしています。目を見たからって本当なわけではないのにね。でもちょっと寂しいなら、横顔を撮影して画面内で向き合う用にすればいいのか。それでもやっぱり顔を合わせる事にはなりませんが。

2020.05.29
顔色が見えない会話を続けていると、声色の情報量が増していく気がしています。それは電話の時とはまた違う。あえて見せてない顔の気配を感じています。表情や仕草が拾えない分、声の質感から感情の起伏を感じ取ろうとしている。今まで圧倒的に視覚優位だったコミュニケーションが、聴覚も同じくらいの情報処理量になってきた感覚があり、それでこんなに疲れてるのかもしれません。

2020.06.02
ここ数ヶ月、ひたすら人の記憶についての会話を文字にする作業をしています。繰り返し同じ会話を耳で拾っていると、会話というより音、っていうか口癖とかテンポだなという感じになってきて、「あっ」とか「え~と」とかも面白く感じられてきています。普通はこんな風に振り返られることもないような、ささやかな会話たちですが、こうなってみると、より重要性を増しています。人の記憶を窓口にして、知ってる場所の知らない光景をいくつも見て回るような感覚があります。

2020.06.04
外の様子がどんどん変わるのを見るに、自分がどう思っているのか、なぜそう思うのか、を体調・感情・環境含めて把握しようと努める事がやはり重要に思います。以前の日常に 戻らないために。もともと内省的な人間ですが、より内省していく事になりそうです。

それでは。
さよならを言いそうになりますね。
またいつかどこかで。(いつでもどこでも)

岡野乃里子(おかの・のりこ)
1992年東京都出身。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒、美学校「デザインソングブックス」「演劇、似て非なるもの」修了。
脳内イメージの生まれ方とその共有方法に興味を持ち、触覚ワークショップ『手触りの対話』(2017)や散歩型演劇『まちをきく』(2019-2020)などの参加型プロジェクトを制作。

リレーエッセイ『いま、どこにいる?』
第1回 植野隆司「トゥギャザー」
第2回 鈴木健太「交差点」
第3回 黒木洋平「もっと引き籠る」
第4回 武本拓也「小さなものの食卓」
第5回 冨田学「面白かった本について」
第6回 竹尾宇加「新しい日常」
第7回 ドルニオク綾乃「集えない」
第8回 冨岡葵「Letter」

▷授業日:隔週火曜日19:00〜22:00+月1回外部開催
「演劇」は既成のイメージされているものよりも、本当はもっと可能性のあるものなんじゃないかと僕は思っています。それを確かめるためには、何と言われようとも、自分達の手で作ってみるしかありません。全ては集まった人達と出会うことから始めます。