【レポート】2020年度「現代アートの勝手口」修了展「cellfwork」


文=木村奈緒、写真=皆藤将、木村奈緒


2021年5月7日〜9日に「現代アートの勝手口」2020年度修了展「cellfwork」が開催された。

美学校スタジオで開催された本展。会場で配布されたテキストに「私たちは、現代アートという家の『勝手口から』出入りすることを許可された、いわば招かれた客人だったのかもしれない」とあるように、展覧会も正面玄関からではなく勝手口から出入りする。

参加作家は、さらさ、田嶋周造、手塚美楽、バーツみみこ、吉原遼平の4名。キュレーションをバーツが、展覧会空間設計を吉原が、ポスターデザインを田嶋が手掛けた。

講師の中島晴矢が「(受講生は)みんなすごかった。特殊能力を持っていて、そのうえで幅を広げたいという受講生たちだった」と言うように、さらさはシンガーソングライターとして、田嶋はHIPHOPグループ「PICNICYOU」のメンバーとして、手塚は歌人としての顔も持つ。美大生として美術教育を受けながらも、その枠から出たいという受講生もいる。彼女彼らのそうした活動や動機は、講師の齋藤恵汰がコンセプト(劇作・出版・不動産)を、中島がミクストメディア(映像・写真・パフォーマンス)をフィールドとしてきた姿とも重なる。

さらさ《仮面を作る》。自身の陰の側面を美術で肯定したいというさらさ。「観客に見られる中で自意識を手放したい」と、会期中、毛糸で仮面を編んだ。

田嶋周造《オフィス》。油彩のペインティングで受賞歴もある田嶋。「今までと違うことをやってみよう」と、企業のPP映像や、アスファルトで成形されたコピー機などでインスタレーションを構成。

手塚美楽《目に見えないけれど影響される》。会場入口で手渡されるCDを自らウォークマンにセットして聴く。先ごろ短歌集を刊行した手塚。「紙媒体ではない文字表現がしたい」と、文字表現の能動的な受容体験を模索する。

バーツみみこ《観察国のための覚書》。「散歩者」であるバーツが、スマホを片手に無目的かつ縦横無尽に街を歩いた痕跡で構成。

吉原遼平《シン・ケンタウロス チャレンジ》。最近はあらゆる事象のズレと震えについて制作しているという吉原。VRにはケンタウロスに扮した作家が登場する。「現代を生きる私たちがああいうふう(ケンタウロス)にも見えるのかなと」(吉原)。

中島晴矢《根拠地を刻む #1 “New Town”》。展示直前に彫ったタトゥーを撮影。「アイデンティティのレペゼンが表現者への第一歩」だと言う中島。身体を張って体現した。

勝手口から正面玄関へ


講座は、開講から修了まで3度の緊急事態宣言に見舞われ、コロナ下での開催となった。講師や受講生との交流が制限されるなど、講座も影響を免れなかったが、受講生のひとりは「良くも悪くも絶妙な距離感があって、影響し合いすぎない感じが良かった」と振り返る。

コロナで音楽活動ができなくなって、留学から帰ってきたらコロナで状況が一変して……と、講座を受講した背景にもコロナ禍がちらつく。コロナ禍によって訪れた予期せぬ停滞や空白が、「現代アートの勝手口」への入口になっていたことが興味深い。

印象深い授業は何だったか?と受講生に問うと、「ケーキからアートを考える」授業との答え。講師の齋藤が各地のケーキを買ってきて、「このパティシエは、アーティストで言えば●●の世代だから……」と、ケーキを芸術に見立てて批評するというものだ。受講生のひとりは「物事の構造を理解すれば批評は可能だと分かった。同じように、漫才を分析することで漫才も作れるようになった」と話す。

講座では他にも、クリエイティブ・ライティング、都市と風景を考える、自分の「根拠地」を示す……といった授業を行う。2021年度からは毎週開催となり、より濃密な講義が展開される予定だ。「今年はまず本を読んで基礎を徹底的にやろうと思います。現代美術マナーをマスターしたうえで、そこからはみ出していってほしい」(中島)。全国各地で多拠点生活をする齋藤の拠点をベースにした合宿も予定している。

現代アートという「家」の勝手口から足を踏み入れ、齋藤と中島とともに現代アートの内奥に触れた一年。晴れて正面玄関から一歩を踏み出した修了生の今後に期待してほしい。


現代アートの勝手口 齋藤恵汰+中島晴矢 現代アートの勝手口

▷授業日:毎週金曜日 19:00〜22:00
「現代アートの勝手口」は、この20世紀を総崩れにした30年の後に、改めて勝手に現代アートをやろうという集まりです。私たちは広く深く種々の形式を取り扱います。知的好奇心の赴くままに一緒に遊べる人と、これからの遊び方を再発明したいのです。この講座を通し、三河屋のようにひとの勝手口から勝手に出入りして、その勝手を盗み合えるひとたちと出会えれば幸いです。