実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第12回 佐竹真紀


実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ

リレーエッセイ 『いま、どこにいる?』第12回 佐竹真紀



実作講座「演劇 似て非なるもの」は「人と人が出会うところから始まる」と考えています。
でも今は人と接触することに、どこか恐れや不安を互いに感じてしまうような状況が続いています。
家族や職場の人たち、ごく限られた人にしか会わない生活をしている人も多いのではないでしょうか。
そんな中、みんな、どんなことを感じたり考えたりして暮らしてるのかなと思ってみたりします。
実際に会ってはいなくても、いろんな場所に信頼する人たちが居て、それぞれ日々の暮らしがある。
そのことを灯火のように感じています。

今週のリレーエッセイは札幌在住の映像作家、佐竹真紀さんです。
以前、上野の美術館で拝見した家族四代に渡る肖像写真によるビデオインスタレーション、
お会いしたこともない佐竹さんの祖父母、父母の顔を見ながら、
どういう人生を歩まれたのか全く知らないにも関わらず、その生きられた長大な時間に巻き込まれるように、
しばらくのあいだ、作品の前に立ち続けていました。

(生西康典)


「お引っ越し」 佐竹真紀

生西さんから久しぶりに連絡をいただいて嬉しかったです。近い友人とも会えない今は、遠い友人とも以前より連絡を取り合うようになった気がします。それに、みんなでワイワイ集まる夢をよくみるようになりました。ずっと会えていない人とも会ったりして、目が覚めるとこのコロナ禍の現実。早く旅行に行って色んな人たちに会いたいです。

最近の出来事といえば、引っ越しをしました。引っ越しって、これから必要か必要じゃないのか、持ち物を分ける作業ですよね。故郷を離れて今まで8回引っ越しをしているのですが、その度に重たい写真のアルバムやビデオテープなど持ち歩いています。小学校の作文とか、文集とか、絵とかも面白くて捨てられずにいます。「佐竹の手はカメラだ」と言われたほどビデオを回していた、大学時代のMiniDVテープも大量にあります。当時は10年後にみんなで観る、を目標にひたすら撮ってたけど、20年近く経つ今観るのはちょっと怖いなぁ。あと古い写真も大好きなので、亡くなった祖母のアルバムや、ひいお爺さんの写真なども引き継いでしまい、祖先の思い出たちがどんどん私の元に集まります。時々眺めて祖先の人生を想います。夫に「真紀の思い出は重たいなぁ~笑」と嫌味を言われながらダンボールに詰めて、かなりの量ですが、自分でもいつ作品にしたくなるか分からないので保管しています。これらを捨てる日はくるのかなぁ?会えない人とも会える記録は私にとって、とても大事です。

なぜ引っ越しをする事になったかというと、マンションの下の住人が音に敏感で、育ち盛りの息子がいる私たちは前からたびたび注意を受けていたのですが、このコロナの影響で一日中家にいるからか苦情が酷くなり、のびのびできない6歳の息子からの一言「もうこのおうち嫌だね。違うおうちにしよっか。」で考え始めることに。さらに決定的だったのが、ミシンの音まで注意されたこと!なぜミシンを使っていたかというと、マスクを作っていたからで、なぜマスクを作っていたかと言うと、映像作家の太田曜さんからのリクエストでマスクを作り始めたからなのでした。何気なくSNSでアップした手作りマスクを気に入ってくれて売ってほしいと言われたのです。喜んでくれる人がいるなら作ってみようかなとマスク制作を始めたのでした。というわけで、この引っ越しは太田さんがきっかけで、背中を押してくれたというわけです。今では音を気にせずのびのび暮らせています。ありがとう太田さん!
思えば太田さんが企画したフランスでの巡回上映が私たちのヨーロッパ初経験で、その後の人生を変えたのでした。つくづく運と縁で生きてるなぁ。

私の生まれて初めての引っ越しは2歳でした。その時の記憶はありませんが、このコロナ時代の引っ越しは、息子の記憶に残ることでしょう。世の中すべてが前向きに変わりますように!

(2020年6月28日)

佐竹真紀 Maki SATAKE

映像作家。1980年北海道豊頃町生まれ、札幌市在住。写真を使ったアニメーションを中心に制作。“記録”と“記憶”の狭間にある世界を探究している。日々グラフィックデザインの仕事をしたり、knitterlandの名前で編み物を売ったり、第2マルバ会館で上映活動を手伝ったり、好き勝手に生きてます。 中だるみの40代(尊敬する映像作家奥山順市さん曰く)に突入しました。
http://www.makisatake.com/

リレーエッセイ『いま、どこにいる?』
第1回 植野隆司「トゥギャザー」
第2回 鈴木健太「交差点」
第3回 黒木洋平「もっと引き籠る」
第4回 武本拓也「小さなものの食卓」
第5回 冨田学「面白かった本について」
第6回 竹尾宇加「新しい日常」
第7回 ドルニオク綾乃「集えない」
第8回 冨岡葵「Letter」
第9回 岡野乃里子「体を出たら窓から入る」
第10回 奧山順市「17.5mmフィルムの構造」
第11回 千房けん輔「中間地点」

▷授業日:週替わりで月曜日と金曜日 19:00〜22:00(6月から開講)
「演劇」は既成のイメージされているものよりも、本当はもっと可能性のあるものなんじゃないかと僕は思っています。それを確かめるためには、何と言われようとも、自分達の手で作ってみるしかありません。全ては集まった人達と出会うことから始めます。