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実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第17回 嶺川貴子

実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第17回 嶺川貴子


実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ

リレーエッセイ 『いま、どこにいる?』第17回 嶺川貴子


「8月2日の空」撮影:嶺川貴子


実作講座「演劇 似て非なるもの」は「人と人が出会うところから始まる」と考えています。
でも今は人と接触することに、どこか恐れや不安を互いに感じてしまうような状況が続いています。
家族や職場の人たち、ごく限られた人にしか会わない生活をしている人も多いのではないでしょうか。
そんな中、みんな、どんなことを感じたり考えたりして暮らしてるのかなと思ってみたりします。
実際に会ってはいなくても、いろんな場所に信頼する人たちが居て、それぞれ日々の暮らしがある。
そのことを灯火のように感じています。

今週のリレーエッセイはロサンゼルスから、嶺川貴子さんです。

(生西康典)


 

「空から」 嶺川貴子

8月になってしまいました。
とっくに、自分の中の時間感覚はおかしくなっているので、何日だとか何曜日なのかを間違えるのは普通になり、気がついて驚くことも頻繁にあります。
私はいま、ロサンゼルスにいます。街が閉鎖になったのが3月15日で、それから家の中にいること、そしてマスクをすることが日常になり、それは未だに続いています。
5ヶ月近く経ったのだと思うと、もう… と思うけれど、でも今まで過ごしたことがない時間の過ごし方、自分の気持ちの変化のようなものが、逆に鮮明に流れて覚えている感覚があるよう思えます。

ロサンゼルスに来て、だいたい2年ほど経ちました。
アメリカには、ツアーという名の旅を何度かしていたので、ここ数年で時々各地を訪れていたのですが、住んだのはこれが初めてで、日本以外の場所に住んでみたのも初めてです。しばらくは、住んでいるというより、長い滞在という方が自分の中でしっくり来ていたので、いまどこにいるの?と聞かれると、ロサンゼルスに長期滞在中で、といつも言っていました。
一年くらい経って、だんだん街の地図と方向感覚が自分で理解できるようになり、空気が身体に馴染んで来る感覚を少し持ち始めて、なんとなく私はここにいるという感じがして来ました。

2020年は、私の子が20歳になる年で、節目とかそんな風に考えてはいなかったものの、もともと自分の中で小さな印を付けているような年でしたが、それはコロナパンデミックの年となってしまいました。

3月以来、街は静かになり、近所のお店もまだ閉まっているところが多いです。数ヶ月したら、徐々に再開していくかなとも思っていたのですが、それはまだ見通しが立たないというか、より先延ばしになっていることをだんだん感じています。最近、私が大好きだったコミュニティーパフォーマンススペースがその場所を終えたことを知って、とても悲しくて、やりきれない気持ちになりました。いつの日か、新しい場所が見つかることをどうか願っています。

ライブも、ここではまだまだ出来そうにありません。ベニュー(ライブハウス)も閉鎖されたままです。
4月や5月は、配信などをみんなやろうと声を掛け合ったり、私も参加したり、世界中のいろんな人の演奏を見たり、それはとてもいいなぁと思っていたのですが、5月の終わりにBlack Lives Matterが再び起きて、みんなそんな気持ちになれなくなって、それからはあまり配信も積極的ではなくなりました。ここのムード、個々のムード。それぞれの理解と行動。

ここにいると、空はただ青く大きくて、太陽の光が強くて眩しいなといつも思います。光がまっすぐに届いているように見えます。でも空気はあまり良くなくて、軽度の空気汚染があります。パンデミックが起きて、一時期車の量が減って、空気がきれいになったと思える瞬間がありましたが、もう車の量はだいぶ戻っているような気がします。空気は乾燥していて、雨もほとんど降ることがありません。空には何かがいつも浮遊しているんだなと思います。

数日前に、日当たりのいいアパートの非常階段で空を見上げていたら、飛行機がひとつ飛んで行きました。
以前は、外を歩いていると、たくさんの飛行機が空をすり抜けていて、それが時々あんまり大きく見えて一瞬不安になることがありましたが、最近は鳥しか飛んでいないなと思っていました。近所はダウンタウンという地区で、高いビルがたくさんあって、なぜかビルは鏡のような外観が多いので、そこに青空と太陽と雲と飛行機がぐにゃぐにゃと映って見えて、いつもふと立ち止まったりしていたけれど、今はあまり飛行機がいません。でもその日は飛んでいて、ここからどこかへ、誰かが移動していることを、ふと思いました。

このエッセイ、私は本当は5月の終わりに掲載のはずだったのですが、そのとき私は書き終えることができませんでした。
全然言葉が出てこなくなってしまったというか、多分頭から溢れすぎていたのかもしれません。
今は、気持ちも落ち着いてきました。
私は、小さい頃に一人で蟻と遊んでいた記憶があるのですが、それは親が幼稚園の申し込み日に並ばなかったために、その年に入園できなかったそうで、同い年の子供がみんな幼稚園に行っていた時間、私は一人アパートの庭で遊んでいたのでした。
この期間、というか、まだ続いていますが、何も出来なかったり、何もしなかったりしたことは、自分の中のそんな時間だったと思います。すごく時間はかかるのだけど、内側に入って出てきた時、ちゃんとわかるという感覚。

この場所は、道になぜかいろんなものが落ちていて、大量のぐるぐる巻きの白い紙がひらひらと地面を這っていたり、そういう放置されているものに生き物の生命力を感じます。私は、地面を見ながら歩いていることが多いです。

(2020年8月6日)

 

 

嶺川貴子

1969年生まれ。音や声などの表現で、国内外で活動しています。
これまでにSound Live Tokyo 2013『BOOMBOX-MELLOTRON PROJECT』でのラジカセメロトロンのパフォーマンス、
Sound Live Tokyo 2015『東京都初耳区』のマルチチャンネルによるサウンドインスタレーション、
Rosasのダンサー池田扶美代によるワークショップ&ショーケース『Powewrlessness』への参加など。
2019年1月、画家の松井一平氏との絵画と音による作品 ‘Untitled’ を発表。
2013年よりギタリストのDustin WongとのDuoとしても活動している。
https://www.instagram.com/takako_minekawa/

 

Photo by Olivia Hemaratanatorn

 

リレーエッセイ『いま、どこにいる?』

第1回 植野隆司「トゥギャザー」
第2回 鈴木健太「交差点」
第3回 黒木洋平「もっと引き籠る」
第4回 武本拓也「小さなものの食卓」
第5回 冨田学「面白かった本について」
第6回 竹尾宇加「新しい日常」
第7回 ドルニオク綾乃「集えない」
第8回 冨岡葵「Letter」
第9回 岡野乃里子「体を出たら窓から入る」
第10回 奧山順市「17.5mmフィルムの構造」
第11回 千房けん輔「中間地点」
第12回 佐竹真紀「お引っ越し」
第13回 山下宏洋「休業明け、歌舞伎町に映画を観に行った。」
第14回 小駒豪「いい暮らし」
第15回 伊藤敏「鹿児島にいます」
第16回 コロスケ「無意義の時間」

 

 

▷授業日:毎週金曜日 19:30〜22:30
「演劇」は既成のイメージされているものよりも、本当はもっと可能性のあるものなんじゃないかと僕は思っています。それを確かめるためには、何と言われようとも、自分達の手で作ってみるしかありません。全ては集まった人達と出会うことから始めます。