実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第16回 コロスケ


実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ

リレーエッセイ 『いま、どこにいる?』第16回 コロスケ


撮影:コロスケ


実作講座「演劇 似て非なるもの」は「人と人が出会うところから始まる」と考えています。
でも今は人と接触することに、どこか恐れや不安を互いに感じてしまうような状況が続いています。
家族や職場の人たち、ごく限られた人にしか会わない生活をしている人も多いのではないでしょうか。
そんな中、みんな、どんなことを感じたり考えたりして暮らしてるのかなと思ってみたりします。
実際に会ってはいなくても、いろんな場所に信頼する人たちが居て、それぞれ日々の暮らしがある。
そのことを灯火のように感じています。

今週のリレーエッセイはコロスケさんです。
このエッセイは3か月ほど前に書いていただいたもの。
ほんの少し前のことでも、ついつい忘れてしまいがちですが、
最初の新鮮な気持ちにいつでも立ち返れるようにしたいものです。
(僕は目の前のことを見失いがち、、)

(生西康典)


「無意義の時間」 コロスケ

ひきこもって、そろそろ1ヶ月がたとうとしています。
不安をとっぱらってみれば、何をしても、どう過ごしてもいい豊潤な時間が横たわっています。スケジュールをたてられない。裏をかえせば、スケジュールで動かなくていい日々。やらなきゃいけないことがなにひとつない生活。
気がついたことは、今まで時間通りに仕事に行かなきゃという縛り、それに加えて、1日のなかでなにかひとつでも有意義なことをしなければという縛りを自分が勝手に作っていたということでした。
制限されることによって、今までかかっていた制限に気がつくという不思議。

ひきこもり当初は、仕事しなくても、出かけられなくても、この時間をなにか有意義なことに使わねば・・とか思ったりもしていた。その思い込みをとっぱらったのはその時間の長さでした。有意義はネタ切れに・・
現在では無意義上等。いつ寝てもいいし、いつ起きてもいいし、いつ食べてもいい。なんの制約もなし。

眠ければ好きなだけ寝て、目が覚めたら起きて、お腹が空いたらなにか食べる。そしてゼロから、自分にとってしたいことだけを立ち上げていく。
雨にぬれたい。鳥の声を聞きたい。新芽や花が見たい。風にあたりたい。空が見たい。ふかふかの土をふみしめたい。朝焼けや夕焼けが見たい。
どんどん子どもに戻っていくようだ。
そうしているとだんだん、1日が1日ではなくなってきて、2日で1日みたいな日もあれば、1日が細切れのような日もある。はやいのかおそいのかもよくわからない。日にちも曜日も時間も意味はなし。
まるで時間という概念を持たない違う動物になったかのようだ・・ナマケモノみたな?クラゲみたいな?
新しい生き物の誕生。

なんのルールもないこの生活の中で、なんとなく残っていったのは、
起きたらゆっくりストレッチしてからお茶をいれる。どこかで外に散歩にでかける。自然の中に身をおく。とにかく歩く。1日1回家族の誰かが料理を作ってみんなで食べる(義務ではない料理や掃除は、創造的だし身体も使うし満ち足りた気持ちになる)ゆっくりお風呂につかって本を読む。
父子もそれぞれ同じように、個々が好きな時に起きたり寝たりご飯をつくったり、フリーダムって感じで過ごしているので、タイミングはあったりあわなかったりするのだけど、家族が起きていたら、いっしょにご飯を食べるし、お腹減ってなければ一緒になんとなくお茶など飲んで話をしたり、一緒にアマゾンビデオで映画を見たりしている。家族に会うとよく笑う。今日もあえて嬉しいと思う。一緒の時間が過ごせてよかったなと思う。

日々をただゆらゆらと海底を漂っているように無為に時間を過ごしていると、ぽこぽこと小さな泡のようにやりたいことが浮かんでくる。それはたいそうなことではない。子どもが泥団子を作りたいなと思うようなことだ。
どうやら自分のやりたいことは、そんなことでよかったみたいだ。

この時間は終わる。
遅かれ早かれ私はお金を得るために働き始めるだろう。大人の人間に戻ってスケジュールに管理される生活になる。
でもこの感覚を忘れないでいこう。できるはずだ・・と思う。

(2020年4月29日)

コロスケ

とくになにもできません。
職業のわからないパートナーと、学校が苦手な子どもと、家族です。

Photo by Kurumi

リレーエッセイ『いま、どこにいる?』

第1回 植野隆司「トゥギャザー」
第2回 鈴木健太「交差点」
第3回 黒木洋平「もっと引き籠る」
第4回 武本拓也「小さなものの食卓」
第5回 冨田学「面白かった本について」
第6回 竹尾宇加「新しい日常」
第7回 ドルニオク綾乃「集えない」
第8回 冨岡葵「Letter」
第9回 岡野乃里子「体を出たら窓から入る」
第10回 奧山順市「17.5mmフィルムの構造」
第11回 千房けん輔「中間地点」
第12回 佐竹真紀「お引っ越し」
第13回 山下宏洋「休業明け、歌舞伎町に映画を観に行った。」
第14回 小駒豪「いい暮らし」
第15回 伊藤敏「鹿児島にいます」

▷授業日:週替わりで月曜日と金曜日 19:00〜22:00(6月から開講)
「演劇」は既成のイメージされているものよりも、本当はもっと可能性のあるものなんじゃないかと僕は思っています。それを確かめるためには、何と言われようとも、自分達の手で作ってみるしかありません。全ては集まった人達と出会うことから始めます。