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実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第7回 ドルニオク綾乃

実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第7回 ドルニオク綾乃


実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ

リレーエッセイ 『いま、どこにいる?』第7回 ドルニオク綾乃


撮影:ドルニオク綾乃


実作講座「演劇 似て非なるもの」は「人と人が出会うところから始まる」と考えています。
でも今は人と接触することに、どこか恐れや不安を互いに感じてしまうような状況が続いています。
家族や職場の人たち、ごく限られた人にしか会わない生活をしている人も多いのではないでしょうか。
そんな中、みんな、どんなことを感じたり考えたりして暮らしてるのかなと思ってみたりします。
実際に会ってはいなくても、いろんな場所に信頼する人たちが居て、それぞれ日々の暮らしがある。
そのことを灯火のように感じています。

今週のリレーエッセイはベルリン在住の俳優、ドルニオク綾乃さんです。

(生西康典)


 

「集えない」 ドルニオク綾乃

私は今ベルリンに住んでいて、「コロナが大変らしいよ」というのを、風の噂のように聞いていた。そのうちあれよあれよという間に、街がロックダウンに入った。3月15日のことだったと思う。今までの外に出かける日常が、集えなくなる日常へと変わったのは本当にあっという間で、 家族とのいえに閉じこもる時間が、なしくずすようにはじまった。

それは最初恐怖からではあったけど、始まってみると、とても居心地のいいものだった。 自分が今までどんなに「そとで集わなくてはいけない」というプレッシャー、「なにかをしなければそとできっとみんな楽しいことをしているに違いない」というプレッシャーにさらされていたかが、いえに閉じこもり、家族と起き、ご飯を作り食べ、笑い、公園で外の空気を吸い、鳥が歌うのを聞き、太陽を浴び、寝る、というシンプルな生活をひたすら繰り返し続けたことで、明らかになった。

自分が幸せになるためには、今ここの自分を感じなくてはいけない、遠くのことばかり考えていてはいけない、というのは知ってはいたけれど、世界が目まぐるしく進んでいく中では、どうしても太陽と風だけで幸せを感じることは難しかった。でも世界が一度休憩したことで、私も休憩していいのだ、と思えたのだと思う。

そしてすぐ近くの人とも直接会わずにインターネット上で交流するようになった分、それだったら遠くにいる人とも同じことができるじゃないか、と考えるようになった。つまり、私にとっては日本の人たちとドイツにいながら、インターネット上でのやりとりが増えた。それはコロナ以前ももちろん可能ではあったけれど、自分の近くにいる人のことしか考えなかったのだと思う。 物理的距離は心理的距離でもあった。でもインターネットで会うのなら、同じ国にいなくても会 えるのである。ずっと会っていなかった友達と、また交流が生まれたりして、また日本語を使う頻度が増えた。これからもっと距離が関係ない世界になって行ったらいいのにと思う。

そんなある意味で幸せな閉じこもり生活だったが、5月に入り、ベルリンは少しずつ日常生活に戻り始めた。

閉じこもり中は1度も電車を利用せず、自転車で移動していた。それはそれでよかった。電車はもういらないんじゃないかなと思ったくらいだ。それが電車に乗ると、今まで40分かけて行ったところに10分で着く。電車の速さに驚いた。

動物園が開いた。正直、動物園にはいつも興味がなかったのだが、動物園で動物を見ることがあんなに楽しかったのは初めてだった。チケットを買うところからワクワクする。アシカが泳ぎながら声を出している。なんて面白くて飽きずにずっとみていられるのだろう。 人々が動物を見るためだけに集まっている。家族づれがにこやかに歩いていた。

こうして再び外で集う日常に戻っていくというのは、心地よかった閉じこもり生活が終わりを告げるということでもある。卵の中に入っていた私が、殻を破って孵化しなおすような感じ。この後どうなっていくのかは、まだわからない。

(2020年5月15日)

 

 

ドルニオク綾乃 
ドイツ人の父と日本人の母を持つ。3歳よりクラシックバレエを始める。17歳でフランス、マルセイユに2年間のバレエ留学を経験。帰国後、日本大学芸術学部演劇学科演技コースへ進み、2011年卒業.。その後、パリ地方音楽院声楽科にて声楽を学び、オペラ歌手として活動。2018年から1年間、アクターズスペースベルリンにてマイズナーテクニック演技を学ぶ。現在、ベルリンに在住し、ドイツ、日本にて女優活動を行っている。近年の主な出演作に「ベアトリーチェ・チェンチの肖像」ベアトリーチェ役、「ソーォス!」リンダ役、「ペルセフォーヌ」ペルセフォーヌ役 日本フィルハーモニー交響楽団 サントリーホール(仏語上演)、SWR シュヴェツィンゲン音楽祭「Der Fall Babel」(主演 独語上演)

Ayano Durniok   Actress
website: https://www.ayanodurniok.com
castforward: https://www.castforward.de/members/profile/ayano-durniok
youtube: https://www.youtube.com/channel/UCydpHgiYPp2yQQHqM7JV8sA
instagram: https://www.instagram.com/ayanodurniok/

 

撮影:️©︎ stefan klüter

 

次回は嶺川貴子さんの予定です。お楽しみに。

 

リレーエッセイ『いま、どこにいる?』
第1回 植野隆司「トゥギャザー」
第2回 鈴木健太「交差点」
第3回 黒木洋平「もっと引き籠る」
第4回 武本拓也「小さなものの食卓」
第5回 冨田学「面白かった本について」
第6回 竹尾宇加「新しい日常」

 

 

▷授業日:毎週金曜日 19:30〜22:30
「演劇」は既成のイメージされているものよりも、本当はもっと可能性のあるものなんじゃないかと僕は思っています。それを確かめるためには、何と言われようとも、自分達の手で作ってみるしかありません。全ては集まった人達と出会うことから始めます。