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実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第4回 武本拓也

実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第4回 武本拓也


実作講座「演劇 似て非なるもの」プレゼンツ

リレーエッセイ 『いま、どこにいる?』第4回 武本拓也



実作講座「演劇 似て非なるもの」は「人と人が出会うところから始まる」と考えています。
でも今は人と接触することに、どこか恐れや不安を互いに感じるような、
そんな状況下にあります。

大規模なものから小規模なものまで、人が集う様々な催し物が中止、延期になっていますが、
この講座でも4月21日に予定していた今期受講生の修了ソロ公演がありました。
同時上演に『おれたち、そこにいる』と題して植野隆司さん、黒木洋平さん、鈴木健太さん、武本拓也さん、冨田学さんに、受講生と同じ場にいて、何かしらのパフォーマンスをして頂く予定でしたが中止としました。いま人が集まれないならば、その「集えない」ということをテーマに、先ずは同じメンバーでリレーエッセイのようなことが始められないかと思い、このような場をつくりました。読んで頂けたら幸です。第4回は正に「いる」ということについて上演を続けられている武本拓也さんです。

(生西康典)


 

「小さなものの食卓」 武本拓也

今年の2月ごろ、マスクをせずに満員電車に乗って、人でいっぱいの品川駅を通り、ある舞台のリハーサルの為に新幹線で大阪に行きました。新幹線の中で国内数人目のコロナウイルス感染のニュースを見て、マスクを忘れてきたことを思い出して、少し不安になったりしていました。それが2ヶ月と少し前です。
また、僕はソロパフォーマンスみたいなことをやっているのですが、3月になって感染が拡大し、いつも稽古をしている公民館が閉鎖となりました。人の多い中とかでなければ大丈夫だろうということで、希望者のところにいって1対1、ないしはそれに近い規模でに上演を行なっていました。人混みの中や、換気の悪いところではやらないという条件で。マスクなしで、時に非常に近い距離での会話も伴い。それはたった1ヶ月前です。

当時は、それが「集まる」ということだと思っていませんでした。自分が勝手に移動して、何人かの人がいる場所に一時行くということが他者との接触であるとは思っていなかったし、それが感染に繋がりえる、体液の交換を伴う物理的な接触だとは思っていなかった。舞台公演とは、そういう物理的な接触を伴う「集まる」ということであったし、その意識がなくとも我々は「集まっていた」と今更ながら気がついています。舞台は視覚と聴覚による単なる作品鑑賞体験ではなく、そこに集まった不特定多数の他者との物理的接触、具体的な体液と呼気の交換でした。食われるということの強さ。他者の体内に侵入して感染させることの影響力、侵入され感染することの影響力。今は演者と観客との間での上演におけるそれではなく、真隣にいる同じ高さの人間との間での具体的なそれを強く意識します。舞台公演は「集まる」ということだったし、作品の鑑賞である以上に実際的な体液と呼気の、他者の持つウイルスの交換の場所であった。侵入し、侵入されている場所であった。そのことに気づかされています。

実際にはそこまで神経質になることではないのかもしれない。本当に近い距離で大声で話し合ったりしない限りは体液や呼気の交換は起こらず、客席で隣に座った程度では物理的な接触とは実際には言えないかもしれない。
しかしこの状況。あらゆる「集まる」選択肢が途絶され、目に見えない正体もまだよくわからない存在のリスクを常に感じている状況。人との接触をとかく制限され、具体的に「集まり」の場を受動的にも自発的にも制限している状況。この状況を経験した後、私たちは再び「集まる」ことはできるのでしょうか。それはかつてと同じ集まりではないと思います。このコロナウイルス禍の収束した1年後2年後、再び舞台公演を行う時。劇場という閉鎖空間に不特定多数の人々が集まり、一時を共に過ごす時。その時どうしても、他者との濃厚な接触、不特定多数の他者との体液と呼気の交換を、侵入し侵入されているということを、私たちはどうしても感じざるを得なくなるのではないだろうか。あるいは何事もなかったように忘れて、あの時は大変だったねと時々思い返すことになるのでしょうか。

いずれにせよ、「集まる」ということ自体が、リスクを伴い得る他者との体液交換であるということが私たちの中の意識のどこかに刷り込まれつつあると思います。再び舞台公演を行うとき、そのことをどう考えるか。どれだけ意識的になれるか。あるいはどれだけ意識の外におくのか。それともどうしようもなくそうなってしまうのか。
そのことを今は考えています。

(2020年4月26日)

 

武本拓也
いるということへの関心をもとに、自分一人での上演に取り組んでいます。
武蔵野美術大学映像学科卒業。
美学校実作講座「演劇 似て非なるもの」第4期修了。
美学校特別講座「杖をつくる」講師。
ソロ公演に「正午に透きとおる」(2019 TPAMフリンジ参加)、「象を撫でる」(2018)など。
自作以外では、生西康典、神村恵、百瀬文らの作品に俳優・ダンサーとして参加。

撮影:研壁秀俊 Hidetoshi Surikabe

 

次回は冨田学さんの予定です。お楽しみに。

 

リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第1回 植野隆司「トゥギャザー」
リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第2回 鈴木健太「交差点」
リレーエッセイ『いま、どこにいる?』第3回 黒木洋平「もっと引き籠る」

 

 

▷授業日:毎週金曜日 19:30〜22:30
「演劇」は既成のイメージされているものよりも、本当はもっと可能性のあるものなんじゃないかと僕は思っています。それを確かめるためには、何と言われようとも、自分達の手で作ってみるしかありません。全ては集まった人達と出会うことから始めます。