【7/2】オープン講座「宥学会・遊学塾」第73回「自己言及アーカイヴ作品としての「中ザワヒデキ文献研究」」講師:中ザワヒデキ


第73回 7月2日(金)

「自己言及アーカイヴ作品としての「中ザワヒデキ文献研究」」

講師:中ザワヒデキ


オーラル・​ヒストリー・アーカイヴは貴重な歴史資料であるのみならず、それ自体がアート作品なのだ!……というような主張を、多摩美のアートアーカイヴセンター刊行の『軌跡』創刊号で読んだ。常日頃、自作品について語ることに若干の疑義を抱きながらも、むしろ積極的な「自己語り部」として臆面もなく振る舞ってきた私としては、その時は、フム・・・、と思ったきりだったのだが、自作品や自筆原稿についての語りなら「中ザワヒデキ文献研究」という名の美学校の講座で、私は長いこと実践してきた。「足かけ13年も続けてしまった」ことに気づき、同講座は今から丁度1年前の2020年7月、2019年度講座の最終回をもって終講したが、今回はこれを「アーカイヴというアート作品」(?)との新たな視点から振り返りたい。なお、この度お招き頂いた同じく美学校の「宥学会・遊学塾」という講座は、その起点を松澤宥「最終美術思考工房」最終年度の1980年に置くならば、遙かに長きにわたる大先輩に当たり、お恥ずかしい。

「中ザワヒデキ文献研究」についての今回の語りの要は自己言及性であろう。私は美術家として、作品としての作品を制作する。作品の解説は、その作品のうちには含めていない。しかしその解説自体が、解説された作品とは独立した別個の作品であるという認識は持ち合わせている。私の自筆原稿は、自作品解説として書かれたもののほかに、一見、自作品とは無関係のことを論じたように見える体裁のものも多い。だが自分の認識の中では、実はどれもが、遠回りであったとしても、自作品の解説として書かれたものである。「中ザワヒデキ文献研究」は、そのことを筆者自ら語るものとして開講した。つまり「中ザワヒデキ文献研究」は、表向きには自筆原稿のさらなる解説(自作品の解説の解説)である。この時「中ザワヒデキ文献研究」は、それ自体が自筆原稿とは独立したさらに別個の作品であるという認識が、先ほど述べた『軌跡』からの着想だ。とするなら今回の“自己言及アーカイヴ作品としての「中ザワヒデキ文献研究」”は、それ自体が「中ザワヒデキ文献研究」とは独立したさらに別個の作品であるという認識が、持ち合わされなければなるまい(自作品の解説の解説の解説)。

こうして作品は増殖する。瀧口修造風に言えば、「作品は残る。うずたかく残る!」。しかしこれは、作品をつくるまいとする反芸術や、松澤宥風の「消滅」の理念からは逆向きだ。これが「自作品について語ることに若干の疑義」と先述した感覚の、恐らく出処であるだろう。とはいえ真の反芸術は、反芸術の自己否定でもある。ともなれば、作品増殖という「反芸術の自己否定という真の反芸術」の、意図的な実践ということとなる。「作品を残す。うずたかく残す!」。ここでアーカイヴィングという概念が現れるとすれば、その実践者は「中ザワヒデキ文献研究」においても「宥学会・遊学塾」においても、主宰者自身のほかに、脇役者の存在がある。みそにこみおでん氏のことだ。

中ザワヒデキ
美術家。1963年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒。1990年代の「バカCG」を経て2000年頃より「方法絵画」「本格絵画」「新・方法主義」「脳波ドローイング」「芸術特許」等。著書『近代美術史テキスト』『西洋画人列伝』『現代美術史日本篇』。CD『中ザワヒデキ音楽作品集』。元・文化庁メディア芸術祭審査委員。2007〜19年、美学校にて「中ザワヒデキ文献研究」講座。2016年より草刈ミカと主宰する「人工知能美学芸術研究会」(AI美芸研)として、本年1~4月、京都市京セラ美術館での展覧会「平成美術:うたかたと瓦礫」に出展。


日 程:2021年7月2日(金)
時 間:19:00~21:00(開場18:40)
場 所:美学校 スタジオ(地図)(本校教室ではありません)
    東京都千代田区西神田2-4-6宮川ビル1階(袋小路奥)
参加費:1,500円
申込み:受講申込みは不要です。直接美学校にお越しください。
参加者はマスク着用にてお願いいたします。
問合せ:宥学会 yugakukai@mbr.nifty.com

新型コロナウイルスの感染拡大防止について
感染症拡大防止のため、恐れ入りますがご来場の際は以下のことにご協力いただけますようお願い申し上げます。
入場者数は15人までとさせて頂きます。

  • 会場ではアルコール消毒液を設置しております。手指の消毒にご協力ください。
  • マスクの着用、手洗い、咳エチケットなど、感染予防にご協力ください。
  • 発熱などの風邪のような症状があるときや、体調が優れないときは、ご来場をお控えください。

宥学会


かつて美学校に存在した観念美術家・松澤宥主催の「最終美術思考教場」。そこには、新しい価値観による表現をめざす自由な雰囲気がありました。宥学会・遊学塾は、その再現を願い創設された継続態です。主催するのは、同教場の最終年在籍生3名(窪寺雄二、米谷栄一、渡辺彰)が結成した宥学会。気負った名称ではありますが、松澤を崇めるのではなく触媒とすることで、各々の表現思考を広げたいと考えるささやかな集まりです。

アーカイブ


2012年
第1回 12月8日(土)「「叛アカデミー:グローバル・オルタナティブ美術教育」を探る」

2013年
第2回 1月12日(土)「松澤芸術と詩の位置」
第3回 2月9日(土)「なぜアートはヲタ文化に依存するのか」
第4回 3月9日(土)「ソーシャルに潜む同調性。ポリティカルが果たすべきこと。」
第5回 4月13日(土)「批評性の消失。情報と効率に呑み込まれる生」
第6回 5月11日(土) 討議「改めて問う芸術/美術」<自由参加ディスカッション>
第7回 6月8日(土)「私たちにとって描画とは何だったのか」
第8回 7月13日(土)映画談議
第9回 10月12日(土)松澤宥選詩集刊行記念「朗読と講演」
第10回 11月9日(土)「暮らしから生まれる抵抗・表現・共生〜ニューイングランドが示すもの」講師 アライ=ヒロユキ
第11回 12月14日(土)「ギャラリーとつき合う」講師:吉岡まさみ

2014年
第12回 1月11日(土)「松澤宥全詩閲覧」講師:中ザワヒデキ
第13回 2月22日(土)「12年前の松澤宥を映像で見る」
第14回 5月10日(土)「日本近代美術史の最前線」講師:足立元
第15回 6月14日(土)「アートが隠蔽/忌避してきたアート 天皇アート論〈予告篇〉」講師:アライ=ヒロユキ
第16回 7月12日(土)「「オブジェ」概念をめぐって――松澤宥の仕事から考える」講師:土屋誠一
第17回 8月9日(土)「松澤宥をめぐるフリートーク
第18回 11月8日(土)「自由討論 松澤宥をいかに葬るか ―――中ザワヒデキ『「松澤宥論」論』をテクストに」進行:渡辺彰
第19回 12月13日(土)「松澤宥その可能性の中心――松澤宥をいかに葬るかⅡ」進行:渡辺彰

2015年
第20回 2月14日(土)「私にとっての60年代美術」 講師:細谷修平
第21回 3月14日(土)映像作品「ψプサイ」上映会(制作:黒田典子)

2015年5月より、講座名を「ω(オメガ)芸術表現 ―― 宥学会・遊学塾」から「宥学会・遊学塾」に改称。

第22回 5月8日(金)「ボードリヤールの言う消滅 ――あるいは、私に今何よりも詩である彼の言葉について」講師:渡辺彰
第23回 6月12日(金)「「歴史による無名化」考 中西レモン個展を“肴”に」
第24回 7月10日(金)「詩作品にみる戦後70年」講師:渡辺彰
第25回 9月11日(金)「中井正一を何度も読み直す」講師:土屋誠一
第26回 11月13日(金)「松澤宥を語る会」
第27回 12月11日(金)「遅ればせながらchim↑pomと向き合う」渡辺彰

2016年
第28回 2月12日(金)「1971年、松澤宥、渡欧の旅〜写真アルバムを手掛かりに」ゲスト:松澤久美子 聞き手:細谷修平、中西レモン
第29回 3月11日(金)「新・方法 talks about 新・方法」ゲスト:新・方法
第30回 5月11日(金)<総力特集> —蔵書から発見!「ムー」より読み解く「松澤宥の謎」—
第31回 6月10日(金)芸術弾圧誌『メインストリーム』の紹介と宣伝 講師:『メインストリーム』編集部(東野、山本)
第32回 7月8日(金)「希代のカラリスト松澤宥の絵画」 講師:長沼宏昌
第33回 10月14日(金)「知りたい!セルビアのアートと文化」講師:吉岡まさみ ゲスト:セルビア大使館文化担当
第34回 11月11日(金)「自由の可能性と不安の時代における思考のテクネー」講師:藤井雅実
第35回 12月9日(金)「孫たちの見た松澤宥」ゲスト:松澤桂子さん、佐々木梓さん 聞き手:米谷栄一

2017年
第36回 1月13日(金)「ダダ101年と松澤宥―キャバレー・ヴォルテールからΨの部屋へ」講師:塚原史
第37回 2月10日(金)「芸術作品とただのモノ」講師:本江邦夫
第38回 3月10日(金)「美学校校長 vs 宥学会 口舌バトル!」
第39回 5月12日(金)「『キャラクター絵画』は可能か -藤城嘘の作品を振り返って-」講師:藤城嘘
第40回 6月9日(金)「赤とピンク 日本近代ポルノグラフィ史」講師:足立元
第41回 7月14日(金)「芸術を織り成す諸価値の迷宮へ」講師:藤井雅実
第42回 9月8日(金)「美術からみた「演劇性」再考 日本における新劇ムーヴメントを中心に」講師:土屋誠一
第43回 10月13日(金)「芸術の公共圏」講師:gnck
第44回 11月10日(金)「松澤宥は何をやろうとしたのか?」講師:千葉成夫
第45回 12月8日(金)「カウンターカルチャーの目撃者・写真家 羽永光利」講師:羽永太朗

2018年
第46回 1月12日(金)「松澤宥論・第二回:「松澤宥幻想」」講師:千葉成夫
第47回 2月9日(金)「松澤宥談義」パネラー:宥学会(大住建 窪寺雄二 米谷栄一 渡辺彰)
第48回 3月9日(金)「ゼロ次元−岩田信市とその周辺から」 講師:筒井宏樹
第49回 4月17日(火)「絵画の始まり、東・西の絵画」講師:千葉成夫
第50回 5月11日(金)「バーネット・ニューマンの人と芸術」講師:本江邦夫
第51回 6月8日(金)「芸術的経験への哲学的テクネーの実装:ポスト構造主義・思弁的実在論から古典美学まで」 講師:藤井雅実
第52回 7月13日(金)「Beyond myth of the AIMITSU─靉光という神話のむこうへ」 講師:石川翠
第53回 9月14日(金)「イメージで思考することの限界 ーキャラクターの表象不可能性をめぐる美学と理論」講師:塚田優
第54回 10月12日(金)「絵画の再発見」講師:堀浩哉
第55回 11月9日(金)「美術家の領分、信憑性 -わたしの仕事をめぐって」講師:梅津庸一
第56回 12月14日(金)「『神霊』写真について」講師:原田裕規

2019年
第57回 2月8日(金)『展覧会構成の新解釈ーー「春のカド」その活動と思考について』講師:内田百合香、船戸厚志
第58回 3月8日(金)「千葉成夫に訊いてみよう」
第59回 5月14日(金)「造形上の預金通帳を放棄する—マーク・ロスコの人と芸術」講師:本江邦夫
第60回 6月14日(金)「現代の知と感性と世界」ポスト構造主義から思弁的実在論、心脳問題からAI問題、それらは今日の芸術問題にどう関わるか?講師:藤井雅実
第61回 7月12日(金)「イメージを「供養」する方法」講師:原田裕規
第62回 9月13日(金)「絵画の内部と外部、またはその境界について」講師:藤井雅実、梅津庸一
第63回 10月11日(金)「美術批評の断絶」講師:黒瀬陽平
第64回 11月8日(金)「動態としての展示」講師:中村史子
第65回 12月13日(金)「日本の美術・美術展におけるジェンダー視点の導入について」講師:小勝禮子

2020年
第66回 1月10日(金)「彫刻にとって社会とはなにか」講師:小田原のどか
第67回 3月13日(金)「縄文をめぐるパロキアリズム」講師:成相肇
第68回 7月10日(金)「パンデミック以後の、思考と感性のテクネー ――物と心、社会と芸術、実在と構造」講師:藤井雅実
第69回 9月11日(金)「絵画は空間を描く」講師:千葉成夫
第70回 10月9日(金)「絵画は空間を描く」後編 講師:千葉成夫
第71回 11月13日(金)「美術における『京都学派』 須田国太郎から考える」講師:土屋誠一

2021年
第72回 6月4日(金)「パンデミック後のポスト・ポストモダン段階への模索」講師:藤井雅実