参加者:田中亜梨紗(1期生)、関優花(2期生)
進行:木村奈緒(美学校スタッフ)
写真:皆藤 将(美学校スタッフ)
収録:2017年3月11日 美学校にて
1969年に創立された美学校では、これまでに数多くの修了生を輩出してきました。そんな美学校の中でも、「ハミダシ者として表現を創造していくことを目的」とした講座「外道ノススメ」が2015年に開講。「学校教育では教えられないことを存分に取り入れながら」(講座紹介文より)進められる授業とは一体どんな内容なのか、受講生にお話を聞きました。
お集まりいただいた修了生のお二人
――まずは、自己紹介をお願いします。
田中 田中亜梨紗です。1期生ですが、事情があって留年しました(笑)。今は会社員をしています。
関 2期生の関優花です。筑波大学2年生です。大学では芸術専門学群の版画コースに在籍しています。
写真左から田中さん、関さん
――お二人が美学校と「外道ノススメ」(以下「外道」)を知ったきっかけは何だったのでしょうか。
田中 美術系の高校に置いていあった『美術手帖』で美学校を知りました。でも、美学校に入ったのは30代になってからです。美大の大学院を出たあと、社会人になって、結婚、出産とかがあって、美学校(笑)。やっぱり美術から離れてつまらなくなっちゃったんだと思います。それと、ずっとアカデミックな教育を受けていたことへの反動ですね。「外道」の講座紹介文を読んで、権威や正義とは対極にある感じがしたので受講しました。
関 私は普通高校に通ってたんですけど、2年生の時に美学校を知りました。当時、森美術館で開催していた「天才でごめんなさい」で会田誠さんを知って、会田さんを調べていったら「美学校」っていうものがあるらしいと分かって。当時は「天才ハイスクール!!!!」(以下、「天ハイ」)(※1)が開講してたんですけど、まだ高校生だし大学は行かなきゃなと思ってたら「天ハイ」が終わってしまって。大学生活が落ち着いた頃に「外道」が始まって、これだったら「天ハイ」に近いかもと思って入りました。
――もともと美術が好きで会田さんを知ったわけではないんですね。
関 たまたまですね。「2chまとめ」とかで知りましたから(笑)。浦和パルコの5階にある紀伊國屋書店で会田さんの画集を見て、「マジ面白い」みたいな感じで現代美術を知りました。
――授業はどんな内容ですか。
田中 主に古藤さんと松田さんの手伝いです(笑)。松田さんの展示(松田修展「何も深刻じゃない」)を一緒に作ったり、どついたるねんのライブとか、イベントを一緒に作ったりしました。古藤さんも松田さんも現場主義で、現場を大事にしています。
――受講以前にイベントを企画したことはあったんですか。
田中 まったくないです。いきなり職場体験的な感じで企画書を書いたりしました。インターンみたいな感じですね。
――松田さんの展覧会はどんな風に一緒に作っていかれたのですか。
田中 松田さんが受講生に「何やる?」って聞いてくれたんですけど、私たちから作品のアイディアが出なかったので、松田さんが作りたい作品を提案して、作品作りのための材料を集めました。宗教関係者に取材に行った映像や、自分の家で収録した音を松田さんに提出して、最終的に松田さんが作品に仕上げました。(※2)
「何も深刻じゃない」で展示された
受講生と松田さんのコラボ作品『幸せになる方法』
――2期の授業はどんな内容でしたか。
関 2期の前半は、2週に1回、歌舞伎町のTOCACOCAN(トウカコウカン)(※3)の放送に出るっていうのがまずあって、その後、トウカコウカンのチャリティイベントで生徒がパフォーマンスをして、Chim↑Pomの歌舞伎町での展覧会(※4)のお手伝いをして、外道の中間展(「おもいやり」)を美学校の屋上でやらしてもらい、そこからは修了展に向けてのミーティングっていう流れでした。
――トウカコウカンに出演したときのエピソードがありましたら教えてください。
関 最初の授業で「トウカコウカンに出てもらうから企画書書いてきて」って言われて、「企画書ってなんだろう」って思いながら書いてきた企画書を次の授業で提出して、「じゃあ、これをやってこい」って言われて、実際に企画をやって映像に撮りました。その次の週くらいに「もう次の週、放送行こう」ってなって。私は1ヶ月くらい企画を考えてから放送に臨むものだと勝手に思ってたんですけど、企画書を提出してから2週間後くらいに放送だったので、大丈夫かなと思ったんですけど、いい経験でした。
――中間展はどうやって作っていったんですか。
関 修了展の前に1回展示を経験しておきましょうというのが前提としてあって、講師はあんまり関わらないから、タイトル決めもプレスリリースも、なんでもいいからとりあえず自分たちでやってみろっていう感じでした。それで、美学校の屋上を借りて自分たちで企画して。分からないことだらけで、皆藤さん(美学校スタッフ)にも助けていただいて、展覧会の最低限の形を作りました。松田さんとしては、中間展をやって失敗するのが目的だったみたいなんですけど、実際にいろんな失敗ができたので、やって良かったと思います。
――関さんは、歌舞伎町での「24時間マラソン」の映像を展示していましたね。
関 ゴールデン街へのチャリティを目的とした「24時間トウカコウカンTV」を放送するにあたって、「24時間テレビ」みたいなイベントだから、マラソンランナーが必要だということになり、最初は歌舞伎町のホストの人とかに走ってもらおうかという話だったんですが、「私なら24時間走れます」と古藤さんに打診して、あのパフォーマンスになりました。24時間で98km走ってめっちゃ疲れたんですけど、走ってるときはテンション高くて楽しかったですね。ただの大学生なので、普段は関わりがないホストの人とかにも応援してもらえて、かなり刺激的でした。
――ちなみに、「おもいやり」という展覧会タイトルの意味は何なんでしょう。
関 私ともう一人の受講生の二人展だったんですけど、相手がものすごく忙しい人だったので、私がほぼ一人で準備をしていたらてんてこ舞いになってしまい、最後の最後で「思いやりって大事だよな」っていう心境になって、それが展覧会タイトルになったという……いい失敗だったなと思います(笑)。講評会では、松田さんと古藤さんだけじゃなくて、いろんな作家の方に見ていただいて意見をもらいました。展覧会ビジュアルとタイトルが噛み合ってないという意見もあったし、Chim↑Pomの林さんは、私の撮影現場にいらしてたので、俺だったらこうしたとか、具体的なアドバイスをいただきました。
「おもいやり」展示風景。写真左が関さんの『24Hマラソン_歌舞伎町』。
右はもう一人の受講生、野呂昭仁さんの『sleeping effect』。
不眠症の野呂さんが、24時間眠らない街・歌舞伎町で24時間眠り続ける作品。
――お二人から見て、古藤さんと松田さんはどんな方ですか。
田中 二人とも独自の知識量があるので、私たちが言ったことに対して、「それだったら、もっとこういう表現があるよ」って色んな情報を流してくれる。視野が広がります。
関 古藤さんは、現場に連れていくことを一番にしている感じですね。最初の半年くらいは「“プロデューサー”ってなんだ?」っていう感じだったんですけど、現場に行って古藤さんが人を動かしているのとかを見て、こういう仕事なんだなって理解していきました。松田さんは、私たちが言うことに、すごく丁寧に言葉で返してくれます。作品案に対しても厳しいんですけど、めっちゃ一緒に考えてくれる。松田さんはアーティストだから、ギャラリーとの付き合い方とか、作品の発想の仕方とか、アーティストとしてのノウハウを教えてくれる感じです。
――松田さんは優しいんですね。
関 優しくは……すごく一緒に考えてくれるし、優しいんだけど、楽しくはない、みたいな(笑)。「外道」は、生徒同士で年がちょっと離れてるせいもあるかもしれないけど、会ってもすごい鬱々としたミーティングみたいな感じなんです(笑)。「俺たち最高!」っていう集団感はないけど、その分、厳しさがあるというか。修了した後も、「修了生」っていうだけでは付き合ってもらえないんじゃないかって。ちゃんと面白いことやってないと、松田さんに忘れられちゃうなっていう意識はあります。修了展にしても、表に出す以上、松田さんと古藤さんが本当に面白いと思うものしかやってはいけないというか。
――田中さんは、今後作家として活動していきたいと思われますか。
田中 願わくば、作家としてやっていきたいですけど……。作家としてやっていくためのノウハウとか、美大では聞けないような話がいっぱいあるので。もちろん、アカデミックの領域で自分の場所を築いている人はいるけど、私はそれが嫌だったので、「外道」で体験する「本当の現場感」は参考になります。
――「外道ノススメ」を受講してみて、お二人の“外道濃度”は濃くなりましたか。
関 “美術美術”しなきゃいけないという意識が本当になくなりました。受講するまでは、自分がアートだと思い込んでいるものしか見ていなかったし、他は関係ないと思ってたけど、古藤さんの話を聞いて、アートだけが表現じゃないし、音楽も映画もそれ以外も全部関係していて、見るものが増えたというか、リサーチする選択肢が増えたというか。「美術以外のもの」という意味での「外道」を知ったという感じですかね。古藤さんは、私たちのアイディアに反論するときに、「それじゃただの美術だよ、外道じゃないよ」って言うんです。
田中 言いますね。「お芸術やりたいわけ?」って(笑)。
関 「お前本当、お芸術しか興味ねえんだな」って(笑)。これは松田さんOKって言うかなとか、これは絶対に古藤さんにダメ出しされるわとか、心の中に松田さんと古藤さんが宿ります。
――最後に、こんな人には「外道ノススメ」がお薦めといったポイントがありましたら教えてください。
関 「外道」のいいところは、古藤さんと松田さんのコネクションで、色んな人に会えることですかね。私は初対面の人に緊張しちゃうんですけど、人によっては、めっちゃ人脈が広がる講座かもしれません。あと、毎回の授業を、勉強的な知識を与えてくれるものだと思って来てしまうと、嫌になっちゃうかもしれない。
田中 そうだね。
関 古藤さんも松田さんも、たぶん今まで受講生のアイディアを、心からヤバイと思ったことはないと思うんです。そういう人が出てきたときに初めて「外道ノススメ」は講座が終われるんじゃないかなと思います。
※1 天才ハイスクール!!!!
2010年から14年に美学校で開講した講座。アーティスト集団Chim↑Pomのリーダー・卯城竜太が講師を務め、多くの若手アーティストを輩出した。
※2 松田さんと受講生の作品
受講生が素材集めで参加した『幸せになる方法』『11分6秒の汚音』の展示風景など、展覧会の模様はこちら。
※3 トウカコウカン
2015年秋から1年限定でオープンした歌舞伎町の配信スタジオ。固定カメラで歌舞伎町の24時間を配信しながら、様々な企画の番組を放映。「外道ノススメ」も、ゲストや受講生が出演する番組「出張!外道ノススメ」を配信した。
※4 Chim↑Pomの展覧会
解体予定の歌舞伎町振興組合ビルでChim↑Pomが開催した個展「また明日も観てくれるかな?」のこと。会期中には、古藤寛也プロデュースのイベントを開催。菊地成孔、会田誠、小室哲哉、NatureDangerGang、鉄割アルバトロスケットらが出演し、話題となった。
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