特別講義デジタルコンテンツ時代の著作権


マネタイズの方法論

吉田 今後、インターネットを使ってビジネスしていくということになると、SoundCloud等のフリーな音源共有サービスに関して、どうやってお金を回収するのかという問題も出て来ますよね。

齋藤 そうですね。この辺りは僕の専門外なのであまり無責任な事は言えませんが、もしかしたら、データや情報はインターネットにある以上放っておいてもタダで入ってしまうので、そこで儲けようという発想は捨てるというのを、覚悟しなければいけない所なのかもしれない。

吉田 音源を無料で公開しているネットレーベルの人たちなどはそう考えているかもしれません。

齋藤 じゃあどこでお金を得るのかというところなんですが、インターネットでは手に入らないような価値があるものを売るということですよね。よく言われる例としては、イベントの場、ライブでの体験、ネット上では得られないような経験、体験でお金を得るということがあります。
モノによるマネタイズの例としては、レコードのジャケットにアーティストがペイントをして、レコード盤自体をアートにしてしまった作品を紹介します。これはモノ自体にアートとしての価値を持たせたという例ですね。これはダウンロード出来ません。やはり手に取りたくなる魅力があります。

吉田 古いレコードにシルクスクリーンで一枚一枚刷っているんですね。これはどのレーベルの誰の作品なんですか?

齋藤 dublabというL.A発のネットラジオ局による『Second Hand SureShots』という企画で制作されたものです。


『second hand sureshots』は、過去の古い音源をリサイクルして、サンプリングして新しい曲を作るという、”音楽のリサイクル”を大きなテーマにしたプロジェクトなんです。ライターの原雅明さんが日本に紹介してくれています。このレコードジャケット・アートはそのプロジェクトの一環で、古いレコード盤にシルクスクリーンで新しい絵を重ねて、再利用して、パッケージ自体も再利用して売るというコンセプトの作品です。このように、インターネットでダウンロード出来ない、タダで手に入れることが出来ないものの価値をあげていくというやりかたの一つだと思います。

吉田 日本だと、例えば同人音楽なども特殊ジャケットなどにこだわって、一枚一枚ハンドメイドで作ったものを売ったりすることでモノの価値をあげていくという事をやっていますね。また、ネットレーベルの人たちなどは、音源はフリーで公開することで、リスナーと積極的にコミュニケーションしている。それによってアーティストとリスナーの距離がすごく近くなって、友達に近い感覚でファンがアーティストをサポートしているようにも見えます。オフ会のようなノリでイベントに遊びにいったり、お布施のような感覚でCDを買ったりだとか、ドネーションに近い感覚が出てきているのかもしれません。

齋藤 なるほど。今ドネーションという言葉が出てきたので、少しその話をしましょう。先ほどの例のdublabはNPO組織のネットラジオ局なんですけど、運営資金はイベント収入とリスナーからの寄付=ドネーションで成り立っているんです。dublabの拠点であるL.Aでは税控除 ーー 寄付をすればその分所得から控除されてその分税金を納めなくても良いという制度があるので、そういう仕組みも手伝って、ドネーションが文化としてしっかり認識されています。

吉田 日本にもdublabのようなNPOはあるんでしょうか?

齋藤 日本は、今はまだ無いです。認定NPOというかなり要件の厳しい、特殊なNPOで、アートやクリエイティブ系でとるのは難しいといわれていますね。dublabに関しては、寄付で運営するというやり方がとても上手く言っている幸せな一例だと思います。日本では、完全にドネーションのみで運営を成立させるのはまだまだ難しいでしょう。

吉田 コミュニティによるサポートは出てきているけれど、純粋に寄付金という形のみでお金を回していくとなるとまだ足りないという所でしょうか。ただ、少し状況の変化を感じる事もあって、それは3.11で震災が起きた後に、日本人の感覚の中で寄付や募金をするっていうことに対する心理的な抵抗が下がったのではないかということなんです。寄付によるサポートに対してポジティブな意識変化みたいなものは、日本におけるドネーション文化にも未来が多少あるんじゃないかなと感じさせるものがあります。

齋藤 そうですね。従来の音楽ビジネスというのは、企業が大きな費用をかけて、アルバム原盤を作って、それを巨額の広告費をかけてみんなに強制的に認知させて買ってもらう事で成り立っていた訳です。そういうムーブメントを業界をあげてお金をかけて作って、ビジネスを回して行くというのが典型的なものだったと思うんですよね。
でも、先ほどのdublabやネットレーベルのように、経済的な規模は小さいとはいえ、従来のビッグビジネスを時代遅れにしてしまうような、新しいビジネスモデルは様々な所から出てきているように思います。

Kickstarter』というサービスをご紹介しましょう。

これはアメリカ発の、寄付を募るためのウェブサービスです。何かアートプロジェクトを立ち上げようと思った時、このサイトを使ってプロジェクトへの寄付金を集める事が出来るんです。クリエーターは自身のプロジェクトを紹介する動画など掲載し、プレゼンしていく事が出来ます。こういう企画を立ち上げたい、賛同して欲しい、こういうメリットがあるから是非寄付をして欲しい、というような形で賛同者を募っていく。ドネーションへの対価として、ステッカーとかCDなどを寄付金への見返りとして提供するという仕組みになっています。完全な寄付ではありませんが、いわば後援会のような形の資金集めのためのオンラインプラットフォームですね。

吉田 ファンクラブみたいな感じでしょうか。

齋藤 そうですね。少し前に話題になった、『blind』という地震後の東京を描いた短編映像作品がありますが、これもkickstarterで資金を集めて制作された作品です。

吉田 ドネーションの値段に応じて色々特典が付いてるんですね。しかも結構細かい(笑)。

齋藤 例えば400ドル寄付したら、作品内で使われているガスマスクをプレゼントしますとか、ユニークですよね。

スポンサーを募ってお金を集めるというような従来の方法では、スポンサーの存在が表現の足かせになる場合が往々にしてあります。例えば東京電力がスポンサーなら反原発は謳えないというように、表現に規制が掛かってしまったりする。そうではなくて、プロジェクトに賛同してくれた人から直接、寄付という形でお金を集める。それによって、これまで出来なかった表現のための資金を調達出来る。変な利権が表現に干渉しないという意味で、ドネーションでの作品作りには可能性を感じます。

吉田 お金の回し方というのが、時代を経て変わって来ているのかなと思いますね。従来の方法では対応できなくなって来ている。