特別講義デジタルコンテンツ時代の著作権


ストリーミングにおける著作権とJASRAC

吉田 法律がまだまだ追いついていない領域として、Ustreamやネットラジオといったストリーミングの配信サービスについてお話を聞かせてください。国内における最も大規模なストリーミング番組としてはDommuneがありますが、法律的にはどうなんですか?

齋藤 DommuneはJASRACと包括的に契約しているので、JASRACと契約している音源ならば著作権に関してはクリアしていると思います。ただ、著作権とは別に、CDやレコード音源をそのままプレイする場合の原盤権については、実際契約の中がどうなっているかというのは詳細分からないんですけども、なかなか難しいんじゃないかと思います。

吉田 録音物に発生する原盤権はなかなかクリアするのが難しいという所でしょうか。

齋藤 そうですね。著作権をクリアしているということは、『曲のフレーズやメロディをコピーしても良い』という事に過ぎないのであって、音源をそのままプレイするためには原盤権をクリアしなければいけませんので。

吉田 JASRACについて、どういう機関なのか簡単に説明お願い出来ますか?

齋藤 JASRACという名前はみなさんも耳にした事があるでしょう。平たく言うと、著作権者の代わりに代金を回収してくれる機関なんです。
レクチャーの最初に、『音楽における著作権者は作曲家や作詞家だ』という話をしましたよね。なんですが、アーティストの皆さんは往々にして、著作権の管理、これにあまり労力を費やしたくはない訳ですよ。そんな時間があるのなら、創作に力を割きたいのが人情でしょう。
そこで、自分の著作権を音楽出版社という所に譲渡することが行なわれています。音楽出版社はその著作権を使って、例えばCMにそれを売り込んだり、アルバムを作ったりだとか、著作権を使ってビジネスを展開して行く訳ですね。
で、その音楽出版社が、更にその代金の回収を依頼する先というのがJASRACなんです。これを著作権の信託譲渡といいます。

吉田 メジャーの音楽家の場合は音楽出版社に委託すると思うんですけど、インディーズやオルタナティブで活動している人の場合だと、JASRACに登録してる人は殆どいないですよね。だから勝手に作品をテレビなどで使用されて問題になったり、事後的に自分で交渉する人とかもいたりしますね。

齋藤 そうですね。JASRAC契約(=JASRACに信託譲渡)をしていなければ代金回収は自分でやりなさいという話になってしまうんです。

吉田 なるほど。とりあえずDommuneの例に関して言うと、JASRACと包括契約をしていることはしているんだけど、実際の放送の中でDJの人たちがCDやレコード音源を使用している個々の権利についてはどこまでがクリアされているのか、という事になってしまう訳ですね。

齋藤 そうですね。

吉田 ただ、Dommuneに関しては、今や文化的意義を認知され、市民権を得ていますよね。文化的意義を考えると、もはやどこも文句をつけられない位の影響力があると思うんです。二次創作におけるコミケのように。

齋藤 そうかもしれません。先ほどのサンプリングや同人文化周辺に関する事例では、自分たちの周りの小さなコミュニティだけで細々とやっている分にはお咎めはないけれど、商業的に成功した瞬間たたかれる、お金をもっていかれるという流れでした。その例と矛盾するようですが、Dommuneやコミケに関しては、小さなコミュニティを超えた知名度を獲得し、評価も得て、大きな成功を収めているが故に逆に潰せなくなってしまっているという、不思議な現象な気がしますね。仮に今、Dommuneに訴訟を起こすような企業なりが出てきて、Dommuneを法的に潰してしまうような事になったとしたら、訴訟元は社会的・文化的に大きなバッシングをうけるのではないでしょうか。それくらいに社会的認知度をあげてしまう、文化的意義を知らしめる事で、凄い強い立場を手に入れてるというか。

吉田 そうするとやり方は色々あるんじゃないか。法的にグレーゾーンな領域の合間を縫って、アーティストの創意工夫で活動出来るんじゃないか、という可能性も感じられますね。

齋藤 そのあたりは弁護士という立場上言いにくいん部分もあるんですけど(笑)、法律に従っておとなしくやっているよりも、確かにやり方は色々ありそうですよね。
著作権的にグレーな部分もあって、違法コンテンツも中にはある。そうしたグレーゾーンに対して自制するという選択も当然あります。特に日本の場合だと、企画の段階で「コンプライアンス的にNGです」みたいなアドバイスを弁護士からもらって、企画自体通らなくなる可能性が非常に多いと思うんですよね。でもそこで何でも自制してしまうのではなくて、リスクをリスクとして認識した上で、その分これだけの意義があるんだからやっていこう、という判断が出来るかどうかするか。これは結構大きなところなんじゃないかと思います。SoundCloudなどのアメリカ発のビジネスは、このあたりの判断が非常に大胆という感じがしますね。