特別講義デジタルコンテンツ時代の著作権


モノとしての価値を見つめ直す

齋藤 録音物に商品としての価値をどうつけていくのかという話の例として、dublabのPlaybuttonを紹介したいと思います。これは、CDやレコードではなく、バッチの中に音楽のデータを入れてしまおうというモノです。見た目も非常に可愛いデザインのバッジなんですが、これ自体がmp3プレイヤーになっていて、中に音楽作品が入っています。CDでもなく、データそのものでもない、モノとしての価値がある商品として、とてもユニークだと思います。

吉田 これは当然DLも出来ないし、CDのようなただの容れ物ともまた違う。独特の価値を感じますね。コストや手間が掛かっているだろうし、そこにモノとしての価値を感じる事が出来る。あと、この学校の音楽クラスに関連した例を挙げると、菊地成孔さんもCDや書籍ではなく、USBメモリでご自身の作品を発表されてされて話題になっていました。作品を売るメディアを作家本人が選べる時代になってきた。

齋藤 だからこそ、CDが売れなくなっているという現状はあるけれど、だったら他のやり方を考えましょうという事だと思うんです。それは例えば、イベントの場だったり、モノとして持っていて嬉しいようなメディアだったりという形で。

吉田 なるほど。モノとしての価値という事で考えると、特殊ジャケットというやり方もありますよね。中身は普通のCDなんだけど、ジャケットやアートワークに凝って価値を持たせるという。

齋藤 ほかにも、近年アナログレコードの売り上げが伸びているという話も聞きますね。

吉田 先ほどのPlaybuttonやシルクスクリーンレコードみたいに、モノの価値というものの方に消費者が目を向けているという事はあるんでしょうね。時代遅れになったモノが一巡りして価値を見いだされたり、流通形態の変化で大手がどんどん辞めていったことがインターネットを介した直接的なやり取りによって復権したり。

紙媒体の場合も、特殊装丁の豪華本を少部数出して、そのあとに誰でも手に取れる廉価版を出すというようなやり方が受け入れられていたりします。映画においても、映像作家の寺島真理さんの作品で同じようなモデルがとられていました。ミルキィ・イソベさんというデザイナーが手がけた少部数の豪華特殊ジャケットと、廉価版という二つのラインですね。前者はクリスマスプレゼントに欲しいような10.000円近いような作品で、後者は1.500円くらいというバランスです。
作品をいろんな人に見てもらいたいんだけれも、モノとして豪華な価値あるものにもしたい。でもモノにこだわると経済的に難しい。そこで豪華版は少部数だけ作って、本当にコアなユーザーに届けられるようにしてあげる。狭い世界だけの小さい経済を作っていく。そうしたコアなユーザーとのコミュニケーションとは別に、いろんな人に見てもらうための間口として、手に取りやすい廉価版を作る。この二段構えのやり方は面白いというか、新しいなと思います。

齋藤 本当にコアなファンは、多少値が張っても、モノとして価値あるものを所有したいという欲求がありますね。