「映像表現の可能性」(現「芸術漂流教室」)講師×修了生による座談会



これまでよりも、これからのほうが面白くなる「映像表現の可能性」

――こうして5年間続いてきたわけですが、今後の展望はありますか?

倉重 このあいだ講師3人で話したときは、幅を広げるために講師を増やそうかという話も出ました。

――こういう授業をやってみたいといった希望はありますか?

田中 授業内容は集まった受講生のコンディションでフレキシブルに変えていくので、予めカリキュラムは決めないですね。でも毎年、これはヒットだったと感じる授業はあって、例えば、後期にやるより前期にやったほうがよかったと感じる内容があったら、翌年、反映させたりします。

倉重 ノウハウが蓄積されてきたんだね。内容は毎年よくなっていってるから、今後もよくなっていくんじゃないかと思います。

阿部 修了生はいっぱい遊びに来てほしいです。みんなが受けていたときより来年のほうが面白いから(笑)。

長田 修了生も全員メーリングリストに登録していて、「次はこういう授業をします」って連絡が来るんです。修了したあとも、いつでも顔を出せるのはありがたいですね。

――受講を検討されているみなさんに一言いただけますか。

長田 美学校って「学校」っていう名前がついているけど、そんなにかしこまっていないので、興味があったら、いちど話を聞きに来るといいんじゃないかなと思います。

佐久間 いちど来てみてほしいですね。映像を作っていなくても面白いので。映像を撮ってこいとも言われるけど、アイディア出しの段階からいろいろ言ってくれるし、講座自体が実験媒体みたいな感じです。映像ってもっと可能性があると思うので(笑)、YouTuberを目指している人とか、音楽をやっている人とかもいいんじゃないかな。映像に限らず自己発信したい人は、ぜひ。

倉重 敷居は低いよ。僕も偉一郎くんも専業作家じゃないし、専業作家だけがいいとも思わないし、働きながらでもできるので、臆せず受講してほしいです。

田中 映像に懐疑的な人が来るのも面白いかもしれないですね。映像の技術だけを学びたい人は専門学校に行ったほうがいいと思うけど、「映像ってどうなんだろう?」と思っている人が来るのはいちばん面白いと思う。どんなもんなんだろうって、ちょっと眉唾で来るぐらいのほうが面白いよね。自然とそういう人が集まるけれど。

――映像が撮りたいけど、撮り方がわからないときは教えてもらえますよね?

田中 それはもちろん教えるし、技術的なこともちゃんと教えられますが、僕たちも映像のプロとして『日本の映像作家100人』に載ることを目標としているわけではないので、スタンスは同じほうがいいかもしれません。逆に、映像に懐疑的な人向けの学校はないから、そこが「映像表現の可能性」の強みではありますね。

渕本 あまり作品を作れなくても見捨てないでいてくれたので、作品制作に自信がない方も大丈夫だと思います。

倉重 僕たち誰も見捨てないよね。

――拾う神ですもんね?

田中 3人のうち誰かが拾うね。たまたま修了展で全員に切り捨てられる可能性はあるけども(笑)。

渕本 でも、続けようとは思えたし、何より作りたいなって思いました。そういう気持ちを保つためにもすごくよかったので、受講を検討されている方にはぜひお勧めしたいです。

阿部 作りたい気持ちをずっと持ち続けてほしいですね。「こういう映像を撮りたいけど、何を使ってどう撮ればいいかわからない」という時でも、二人が解決方法を出してくれるので、アイディアさえあれば本当に作り続けられると思います。普通は諦めちゃうでしょう、機材とか技術とか時間の問題で。すごくレベルの低い話かもしれないけど、作ろうと思ったものが出来上がらないからダメだって思うことだけは避けたいし、避けてきていると思います。アイディアをできるだけ実現させてあげたいと常に思っている。つまり、アイディアと表現の間の純度を高めるための授業なんですよ。

――すごくいいコピーが出ましたね。

田中 アイディアと表現の……、俺が理解しきれてないな……。

一同 (笑)。

倉重 純度が高ければいいのかな……?

前田 こうやっていつもバラバラに(笑)。

倉重 100%純度で作品になっても面白くないんじゃない?

田中 アイディアと表現を分けて考えて、表現に向かうにあたって純度をなるべく高めていこうっていう作業を僕はあまりしないですね。

一同 (笑)。

田中 アイディアの時点で、表現で100%出せるものしか作らないし、出せなかったらそれを高めていっても高まらないからね。

阿部 でも、例えば技術的なことで諦めるのはもったいないと思わない?

田中 確かに、予算とか技術、人数の問題で作れないと諦めてしまう作品も、方法次第では個人でも制作できますからね。あと、僕たちで発表の場を作ることもできますね。作品を作っても、見せる機会がないと結局意味がないですし。修了展もそうですが、発表する場があるというのは、制作を続けるうえで大きいかもしれないです。

「映像表現の可能性」から「たのしいびじゅつ」に改名?!

――前田さんからも何か一言いただけますか。

前田 こんな感じで講師の3人はバラバラで、それぞれすごく魅力的ですし、他には絶対ないクラスなので、受講したらいいと思います。

――講師のお三方からも何かメッセージを。やはり映像表現には可能性がありますか?

阿部 逆に映像表現にこだわってないっていうのがオチかもしれないね。

田中 そこがオチなのかもね。「映像表現ってどうなんだ?」というのが講座の肝かもしれない。その問いから入って、最終的に彫刻に落ち着こうが、映像に落ち着こうが、実はなんでもいいんですよね。

倉重 講座名変えようか。いまは変わった名前のクラスがたくさんあるし。

田中 「外道ノスゝメ」(※9)の逆で、「王道の疑惑」とかどうだろう。

一同 (笑)。

倉重 「映像」は外そうか、「たのしいびじゅつ」とか。

阿部 「おとなもこどもも考える、たのしいびじゅつ」(笑)。

長田 「映像表現の可能性」は講座名に「映像」とあるので、現代美術の他の講座より内容がイメージしやすくて、自分の中で受講の踏ん切りがつけやすかったですね。そういう人もいるんじゃないかとは思いますが。

倉重 映像じゃなくても彫刻でも絵画でもいいんだけど、取っ掛かりとして「映像」があるんですね。10年前と比べても映像ってだいぶ身近になったでしょう。10年前だったら、絵を描いたことはあるけど、映像は撮ったことがない人ってたくさんいたと思うけど、いまは逆転しているんじゃないかな。

長田 「映像表現の可能性」の「映像」は「映画」とかに限定されていないので、絵コンテを描いたり、シナリオを書いたりしなくてもよかった。実験でもいいからまずは作ってみるという授業だったので、すごくアウトプットがしやすかったです。

――なるほど。いろいろな意見を聞けて、たいへん参考になりました。最後に何か言い残したことはありますか?

田中 やっぱり講座名変えようよ。

一同 (笑)。

eizo01

最後に全員で記念撮影。終始和やかで楽しい時間でした!

(※9)外道ノスゝメ
2015年度より新設された講座。美術家の松田修とプロデューサーの古藤寛也が講師を務める。現代を様々な角度から考証し、ハミダシ者として表現を創造していくことを目的に授業を進めていく。キーワードとして、「サーチ&デストロイ」を強く意識していき、学校教育では教えられないことを存分に取り入れながら、強い表現とはなにか?を考え実践していく。講座ページはこちら

Kurashige Jin

▷授業日:毎週月曜日 19:00〜22:00
「芸術漂流教室」は、倉重迅、田中偉一郎、岡田裕子を中心に、ゲスト講師も招きながら展開していきます。現代美術の領域で活動しながら他ジャンルにも軸足を持つ、無駄に経験値の高い講師陣とともに「楽しく」「真面目に」漂流しましょう。