━━━今回、美学校を使ってEN-Tokyoというプロジェクトを立ち上げましたが、実はそれ以前から、レーベルやイベント企画など、実は裏方としてもかなり暗躍されているんですよね。
はい、2006年頃にYel-owe Recordsという自分のレーベルを立ち上げたのが最初ですね。その頃はビートに特化したネットレーベルもまだほとんど無い頃で、ビートメーカーが作品を発表するためのプラットフォームが今ほど整っていなかった。だったら自分で作ろう、という所から始まりました。そこには現在のnotuvやEeMuといったメンバーも参加していました。
ネットレーベルをやり始めたモチベーションとしては、自分の作品を発表したいというよりは、知られていない良いアーティストを紹介したいということ、単純に自分が『良い音楽をもっと聞きたい』という思いの方が大きかったです。
━━━それから数年でネットレーベルは国内でも広まりましたが、まさにその黎明期からビートメーカーのためのレーベルを整えようとしていたんですね。
ただ、今はもう06年当時とは状況が大きく変わったし、レーベルの役割も変わってきているのかなと。そういう思いもあって、一昨年は、ビートメーカーのOgiyyと一緒に『RAWS』というイベントを立ち上げました。どういうイベントかというと、まずジャズの生演奏をその場で録音するんです。それをビートメーカーがサンプリングして、その場でビートメイキングする、というプロセスを見せていく内容になっています。
━━━普通のライブやDJイベントとは全く違いますね。むしろ作り手同士のコミュニケーションの方がコンセプトの中心になっている。
ビートメーカーって基本一人で引きこもって制作するじゃないですか。一人でレコードを掘って、ちまちまとビートをエディットして‥といういわば孤独な作業。で、最初のうちはそれで良いかもしれないけど、だんだんマンネリ化してくる部分もあって。やっぱり外に出て人と一緒に曲を作ったりする機会があれば、新しい刺激をもらえるかもしれない。引きこもってyoutubeから落としたりレコードからサンプリングしたりして終わり、という作業だけじゃなくて、もっとアーティスト同士が刺激を与え合って制作出来る環境があれば、もっと良いものが聴けるんじゃないのかと思ったんです。
━━━そこで素材として生演奏のジャズを使う、というコンセプトはどういった意図があったのでしょうか?
サンプリングで曲を作るビートメーカーって、サンプリングしやすい部分を聴いたことはあっても、意外と曲全体を聴いていなかったりするんですよ。ジャズのネタをサンプリングしていながら、実際にジャズの演奏を聴いたことがないという人も多い。
実際自分のYel-owe Recordsのコンピに参加しているアーティストの中にも、自分がサンプリング・ネタにしている曲さえ一曲ちゃんと聴いたことがない、という人もいる位なんです。『ジャズ』という音楽がどのようにして生まれるのかを知らない。
コード進行があって、テーマがあって、その上でアドリブがあって、そこで生まれて来たメロディの一番良い部分をみんなが使っているのに、それがどのように生まれて来たかという臨場感を知らなかったりする。昔からジャズをずっと聴いてきた自分としては、適当にyoutubeで使える部分のみパッと抜いちゃうというのは、アーティストにとっても失礼なんじゃないかと思ったんです。そういうルーツの部分をちゃんと知って欲しいという思いはありました。
ちょうど屠殺場で豚を殺して、その場で捌いて料理するみたいな、そういう事を音楽イベントでもやってみたいなと思ったんです。演奏して、録音して、その場で解体して、ビートが出来るっていう一連の流れを皆で体験できたら面白いんじゃないかと。
━━━『命の学習』みたいなものですね(笑)
まさにそういうことです(笑)。それをサンプリング版でやったのがRAWS。メンバーが海外に行っちゃったこともあって、5回で終了となってしまったんですが、おかげさまで毎回盛況だったし、海外からもオファーをもらったりして、良い反響をもらいました。