人はなぜ音楽理論を勉強するのか…
それは勉強しないと分からない&作れない『良い曲』があるからであります!
という訳でコード分析第三回目、お届けします。前回の分析からかなり間が開いてしまいましたが、その間にみなさまの勉強もはかどっておられる事と思います!
今回は、第一回目に引き続き、中田ヤスタカ氏のお仕事からきゃりーぱみゅぱみゅ『にんじゃりばんばん』をお届けします。
海外でも注目度の高いきゃりーぱみゅぱみゅ氏のキャラクターを存分に生かし、”カワイイカルチャー”にジャパニーズテイストを大胆に接続した、ど直球クールジャパン路線がなんとも清々しいこの一曲。サビで連呼される「にんじゃりばんばん」の語感は、「ぽーんぽーんうぇいうぇい」「つーけまつーけま」に続いて相変わらず気持ち良く、つい口に出したくなります。
さて、パっと聴いた所でも、イントロやブリッジ部分の『和風っぽい』メロディは強く耳に残るポイントではないでしょうか?
このベタベタな『和風っぽい』パートと、Aメロやサビ部分の心地良いポップス部分。それぞれどのようになっているのか。コード進行をみていきましょう。
いざ耳コピ&分析!
今回は出てくるコードは比較的少ないんですが、代わりに、キーとなるコードが登場します。
それは『Cm』です。
Cmというシンプルなコードが、忍者の変装さながらに楽曲の中で役割を変えて登場してくることになります。
楽曲を通して頻出する『Cm』、そのそれぞれの役割の違いについて、解説していきましょう!
一音の重みはデカい!!
イントロはひとまず置いておいて、まずサビ部分で聴こえるCmに注目しましょう。
サビ部分のキーは『Fマイナー』で、ここでのコードは『♭Ⅵ→Ⅳm→Ⅴm→Ⅰm』という循環になっています。
ここでのCmがどうなっているかというと、曲のキーと照らし合わせると、こんな感じの構成音になります(註)。
続くメロ部分においてCmがどのように役割を変えるのかというと…
こうなるのです。
鍵盤の『レ』の音が、黒鍵から白鍵に移動したのが確認出来るでしょうか?
上記2つの音の並びを、ぜひ鍵盤で弾いて確認してみてください。たった一音のくせに、こうして抽出すると結構印象違うと思いませんか?
メロ部分における『白鍵のレ』の音なのですが、歌のメロディでほんの一瞬だけ、聴き取ることができますので、歌メロを鍵盤でコピーしてみるのもまた一興であります。時間にしてほんのわずかな時間ではあるのですが、この一音の差異、意外とフックになって効いていることが分かるはずです。
『和風っぽさ』の正体や如何に?!
続いて、問題の『和風っぽい』イントロ&ブリッジにおける『Cm』に注目してみましょう。
ここで聴こえるスケールはずばり『都節(みやこぶし)音階』と言いまして、実はコレ、”うさぎうさぎ”や”とおりゃんせ”で使われているスケールなんです。そりゃ『和風っぽい』はずですわ…
このイントロ&ブリッジ部分、コードは一切進行せず、『Cm』のままキープされます。その状態で、この都節音階が、和風っぽい雰囲気を醸造し続けているという訳なんですね。
つまり、イントロ&ブリッジの間は、西欧の機能和声的な時間がストップし、一時的に民族音楽的な、モーダルな時間に以降していると言えるでしょう!
コード進行
まとめ
今回の一曲、ビジュアル面で“カワイイカルチャー”と”ジャパニーズトラディショナル”を接続しているのと同様に、音楽面でも、西欧機能和声的な時間と、日本の民族音楽的時間を上手く接続されているこが感じられたと思います。まさに、中田ヤスタカ氏の巧みな楽曲デザインの勝利といった一曲であります。
第一回目エントリに引き続いて中田氏の楽曲を扱いましたが如何だったでしょうか。次回はまた趣向を変えてお届け出来ればと思いますので、どうぞよろしくお願いします!
註) Cからみたときの♭9(=D♭)は、曲中では明示されてはおらず、上手く避けられている。よって、この構成音とは、あくまでも『実際に鳴っている4コードの循環から導きだされるキーに含まれるであろう音』である旨、ご了承頂きたい。楽曲分析においては、このように鳴らされていない音を含めて推測することが面白みの一つでもある。サビにおいて曖昧になっているD♭が、メロ部分に入った時にはっきり『D』として明示される。ここで、全体のムードを決定していたFナチュラルマイナーの雰囲気が一瞬変わるのを感じ取ってみてほしい。
テキスト:yuichi NAGAO
耳コピ&分析協力:菅野寿夫
〈作曲〉
▷授業日:隔週水曜日 19:00〜21:30
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