参加者:
立岩有美子(「絵と美と画と術」「アートのレシピ」修了/多摩美術大学卒)
前田菜々美(「映像表現の可能性」修了/東京藝術大学在学)
中島あかね(「実作講座『演劇 似て非なるもの』」修了/武蔵野美術大学卒)
岡野乃里子(「デザインソングブックス」受講中/武蔵野美術大学卒)
進行:木村奈緒(美学校スタッフ)写真:皆藤 将(美学校スタッフ)
収録:2015年11月9日 美学校
入校に際して受講生の年齢や学歴を問わない美学校には、さまざまな人が集まります。美術を専門的に学んだことがない人も多く集まる一方、美術大学で美術を学びながら美学校に通う人もいます。今回の座談会では、美術大学に通いながら、もしくは美大を卒業してから美学校に通っていた方々にお集まりいただき、美大と美学校の違いなどについてお話いただきました。
今回お集まりいただいたみなさん
―まずは、自己紹介をお願いします。
立岩 立岩有美子です。2013年に多摩美術大学絵画学科油画専攻を卒業して、2014年の9月から「アートのレシピ」と「絵と美と画と術」を受講しました。
前田 前田菜々美です。東京藝術大学音楽環境創造科の3年生で、アートプロジェクトの研究や企画などをしています。学部2年生のときに「映像表現の可能性」を受講していました。
中島 中島あかねです。2015年に武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科を卒業しています。大学3年生のときに「実作講座『演劇 似て非なるもの』」を半年間受講していました。今はアルバイトをしながら、絵の制作や展示をしています。
岡野 岡野乃里子です。2014年に武蔵野美術大学基礎デザイン学科を卒業後、今年の5月から「デザインソングブックス」を受講しています。普段は、梱包袋やラッピングの商品企画部で働いています。
左から立岩さん、前田さん、中島さん、岡野さん
―美学校を知ったきっかけと、講座の受講理由をお聞かせください。
岡野 大学在学中は美学校のことは全然知りませんでした。会社員になってから、自分が作ったものに対してもっといろんな人の意見が聞きたいなと思って、予備校の夜間学校とか調べたんですけど、予備校というよりは、もうちょっとゼミに近いことがやりたいと思ったんです。目指す方向が同じプロの人と、そこでやっていきたい人たちがたくさんいる環境がいいなと思って調べていたら、美学校を見つけて資料請求をしました。
―美学校が望んだ環境に一番近かったということですか?
岡野 近そうだなと思って一度「デザインソングブックス」の見学に来たんですよ。一期の受講生が修了展の打ち合わせをしていたんですけど、ただ教わるのではなく、みんなで話し合っている感じが理想に近かったので、その場で来年受講しようと決めました。
中島 大学2年の頃、同級生が「絵と美と画と術」に通っていて、彼から美学校のことを聞いていました。それでちょっと気になっていたので修了展を見に行って、美学校に通いたいなって思ったんです。その後、生西康典さんの講座が10月から新規開講するのを知って、まだ何もやることが決まっていないというのが、すごく魅力的だったんです。大学とは全然違うことをやってみたいという思いがあったので。美学校のサイトに載っていた開講に向けたステートメントのような文章もすごく面白かったので受講を決めました。
前田 私は、いわゆるダブルスクールで美学校に通っていました。簡単に言うと、大学にだんだん慣れてきちゃって、刺激を求めてたんですね。ただ単に面白い人に会いたかったという感じが強いです。「ナオナカムラ」(※1)とか、いろんなところで美学校の名前を見て、現役生も修了生もすごく活動的だなと思っていたので、通ってみることにしました。「映像表現の可能性」を選んだのは、講師が3人いるのが面白そうだったからです。
立岩 私も同級生が通っていて、展示も見に行っていたので大学在学中から美学校のことは知っていました。大学卒業後、仕事や生活に追われて思うように制作ができない状態が一年くらい続いて、これはまずい、何か大きな変化がほしいと思ったときに、美学校に通ってみようと思ったんです。現代美術がやりたかったんですけど、同級生が「天才ハイスクール!!!!」(※2)に入っているから、違う講座にしようと「アートのレシピ」と「絵と美と画と術」を見学しました。どちらの講座にも自分が求めているものがあったし、どちらかひとつに決められなかったので、両方受講することにしました。
―実際に受講してみていかがでしたか。
岡野 楽しいです。「デザソン」(「デザインソングブックス」の略称)は、毎週講座の直前にFacebookに課題が投稿されるので、それをみんなで集まってやって、遅れて大原さんが来て講評するといった感じです。大掛かりな課題のときは、2週かけてやったりします。
皆藤 課題が意外と硬いんですよね。「◯◯を使って◯◯を◯◯せよ」とか。
岡野 そうなんですよね。「紙コップと文字とお花紙を使って構成デッサンをしなさい」みたいな課題のときは、予備校みたいでちょっと嫌だなと思いました(笑)。だけど、実際は予備校と「デザソン」は違うんです。予備校だと美大に合格するのが目標なので、「美大に受かる絵」を目指してしまうんですが、「デザソンは、一個の正解を作ってそれを目指す場所じゃない。全員違う答えであることが一番良くて、他の人の答えを見て、その手があったかと思うのが価値だと感じる場所にします」というようなことを、大原さんが最初の授業で言っていたんですね。だから、予備校みたいな課題でも講評ではそれぞれの良さをちゃんと見てくれるんです。それがとても嬉しいですね。
―印象に残っている課題はありますか?
岡野 東京アートブックフェアに「デザソン」でブースを出したんですよ。「道具」というテーマで全員本とか雑貨を作ったんです。私はわら半紙とかノートの切れ端とか、全ページ違う紙をミシンで閉じて一冊の本の体裁にしました。出かけた先で、その辺にあった紙にぱっと書いちゃうことがあると思うんですけど、そんなイメージで架空の旅人のエッセイを作りました。その本は、東京だけでなく韓国のブックフェアにも出品しました。受講生が外部と関わるきっかけを大原さんが作ってくれるので、それが刺激というか、たるまない感じがありますね。
「デザインソングブックス」を受講中の岡野さん
―「実作講座『演劇 似て非なるもの』」はどんな授業でしたか?
中島 受講生が私を含め4人だったんですけど、年齢も肩書もバラバラでした。お笑い養成所に通っていた人とかお勤めしながら受講している人とか、今まで周りにいない人たちの組み合わせで面白かったです。最初は受講生がそれぞれ自己紹介をしたり、やってみたいことなどを話したりしてから、生西さんの今までの作品を見ました。それは、生西さんの自己紹介でもあるし、生西さんがやっていることに受講生がピントを合わせるような…チューニングみたいなことでもあったのかもと思います。その後は受講生がそれぞれ書いてきたものをみんなで読んで、最終的には修了公演をやりました。
―中島さんは修了公演で宣伝美術も担当されましたが、美大と美学校で違いはありますか?
中島 美大は生徒数が多いので、教授も私がやっていることをよく知っているわけではありません。一方で、美学校では相手がいて、やったことに対して何かしら反応が起こるという感じで、そこが美大と違うと思います。
現在はドローイングを中心とした平面作品などを制作している中島さん
2014年には、第11回グラフィック「1_WALL」でグランプリを受賞
立岩 「絵と美と画と術」は講師が6人いて、アートとデザインを分けずに考えている先生が多いです。「分けない」というのは厳密に言うと語弊がありますが、デザイナーも作家もやるという人たちなので、あまり堅苦しくないんです。受講して良かったのは、講師が複数人いることと、毎回作品に反応をもらえることです。水野健一郎さんが講師のときは、紙芝居を作る課題があって、紙芝居なんて自分では作らないから面白かったです。私はもともと絵が好きで、美大では現代美術をやりたかったけど、絵だけでは成立しないと思い込んでいたところがありました。だけど、「絵と美」だと決まり事がないから気楽に作れるし、作ったものに対して「それでいい」って言ってもらえると、「これでいいんだ。これで作品になるんだ」という感覚が蘇ってきました。
「アートのレシピ」は講師の松蔭浩之さんの話が面白いし、横浜トリエンナーレの「ART BIN」に参加できたのも刺激的でした。「レシピ」を通して、自分がやりたいと思っていた現代美術がシンプルになって、以前は作るのが苦痛だったんですけど、楽しく作れるようになったのがすごく良かったです。毎週作品を一個作ってこいという課題がでたときは辛かったけど、辛いのも良いみたいな(笑)。「レシピ」は根底に西洋のアートがあるので、美大で学んだことの延長線上として学べたし、「絵と美」は、固くなっていた頭をほぐしてくれて、違った良さがありました。
2016年1月16日より個展「ムムターズの家」をDESK/okumuraで開催する立岩さん
個展の詳細はhttp://ki4four.wix.com/deskokumuraをチェック
―「映像表現の可能性」はいかがでしょうか。
前田 先生が3人いて、2人がアーティスト、1人が編集者なんですけど、週替りでひとりずつ来て、みんなバラバラの授業をやって、バラバラのことを言うんです。作品の講評もバラバラなので、この人が「良い」と言っても、この人が「ダメ」と言う状況を一年間味わいました(笑)。受講生の年齢は割りと近かったんですが、文脈がバラバラなんです。芸大は4年間かけて文脈を共有していくので、上手く話せなくても意味が通じてしまったり、汲み取ってくれるようになるんです。だから、良くも悪くもだんだん生ぬるく感じるようになります。でも、美学校だと話が全然通じない(笑)。大学の研究室とはまったく違う状況ですね。バラバラの人達がバラバラの文脈を持っていて、どうにかして自分のやりたいことを伝えなきゃいけない状況はすごく面白いです。あっちも何言っているかわかんないし、こっちも何言っているかわかんない(笑)。
―そんなにディスコミュニケーションなんですか(笑)
前田 結構ディスコミュニケーションです(笑)。でも、講師も受講生もバラバラなのが刺激的で、逆に自分のやりたいことを見つめられたと思います。倉重迅さんは毎回作品制作の課題を出します。田中偉一郎さんは、その場で「アート大喜利」と言って、ワークショップみたいなことをやったりしました。阿部謙一さんの授業では、最近観た展覧会などについてみんなで話しあったりしましたね。とにかくバラバラの授業だったので、悩んでいる暇がなくて「わーっ」てなりました(笑)。美大は4年間ずっと悩めるじゃないですか。美学校は悩んでいる暇がないので、一年「わーっ」てやって、「わーっ」てなって、「わーっ」て終わった感じです(笑)。他のクラスの人と仲良くなったのをきっかけに、面白い人にたくさん会えたのも収穫でした。
「前髪」というアーティスト名で活動もしている前田さん
活動の詳細はツイッター@mgmmmdでチェック
立岩 受講後、変わったこととかありましたか?
中島 あります、あります。例えば、国立にある「庭劇場」という、自分のお家で月に一回くらい首つりのアクションをやっている首くくり栲象さんという方がいて、講座のはじめの頃にみんなで見たんです。演劇ともパフォーマンスともちょっと違う、何かに分類できないものなんですが、見た後に意外と自分の感想を言えたんです。栲象さんが首をつっていることで、栲象さんの周囲の状況から見えてくるものがあって、自分がこれまで認知していなかった「ものの見方」に気がつけたという。それ以来、意識的にそういう見方をするようになったというか…説明が難しいですね(笑)。
前田 話が飛躍しちゃいますが、去年「天才ハイスクール!!!!」が東京都美術館で展示をやっていたじゃないですか。同じ時期に芸大で油画科の進級展をやっていて、私は同じ日に両方の展示を見たんですよ。そうしたら、「あー、全然違う」って思ったんです。芸大は、いい意味でも悪い意味でも上品というか。油絵科はエリートっていうイメージがあったんですけど、実際に見てみるとやっぱりその感じが強い。一方、美学校はいい意味でも悪い意味でも下品…って言うとちょっと言葉のチョイスを間違えている気もするんですけど、「雑草感」みたいな感じがありました。美大も美学校も、どちらも良さがあるけど、両者の違いを感じたときに、美学校に通っておいて良かったなあと思いました。
立岩 美学校のすごくいいところは、開いている時間が長いことですね(笑)。大学は開いている時間が短いんですよ。だから、いつでも場所が使えるっていうのはすごくいいと思います。
岡野 廊下ですれ違う人の、「この人何者なんだろう感」がいいですね。
立岩 ワンフロアなのがいいんですかね。共有せざるを得ない。
岡野 そうそう、どうしても物音とか声が聞こえるし、隣のクラスで流れている音楽をBGMに講評したり。意図せぬノイズじゃないですけど、それを許容する空間ですね。
前田 授業が終わったあとに飲みに行けるのは、講師と受講生がすごく近い感じがして良かったです。
岡野 授業終わりに学長が来て「飲みに行くぞ」って(笑)。
中島 あと、私が入ったときは第一期だったので、以前に何もないじゃないですか。でも、これから入る人も、以前にどんなことやっていたかをそんなに気にしないで受講して良い気がします。
前田 先輩がその場にいないから、変な影響は受けないです。そこも大学とは違いますね。
岡野 逆に「デザソン」も2年目で新しい講座ですが、前期生から引き継いでいく良さみたいなのも享受しつつやっています。でも、先輩たちも「デザソンってこういう感じだから」みたいな主張を持っているわけではなく。むしろ、そういう学校特有の伝統とか、「卒業だから展示」みたいなことにあえて「そうかな?」と疑っていく姿勢があります。新しい講座ゆえの何でもやれちゃう感じはいいなあと。
前田 卒業してからも関わる機会がすごいありますよね。来年のギグメンタ(※3)の企画に誘ってもらったりして、ありがたいです。
―みなさんにとって、美学校とはどんな場所でしょうか。
岡野 めっちゃベタですけど、変わりたい人にはいいと思います。超恥ずかしいですけどね、「変わりたいあなたに」みたいなの(笑)。
立岩 大学だと人数多いから放っておかれることも多いですが、美学校は毎週決まった人と会うので構わざるを得ないところがあって、精神的に助けられますね。
岡野 別のコミュニティを持つっていうのは、窮屈にならなくていいですよね。職場だけだと仕事の苦労をそのまま引きずっちゃうんですけど、美学校では好きに作れて、仕事と美学校を行き来できるのはいいですね。
前田 すごくわかります。大学も同じです。
岡野 初めて来たときは、建物が古くて結構びっくりしたんですけど、今は愛してます。
―みなさんにとっての美学校を一言で表すとすると?
立岩 えーっ…「休憩所」みたいな。いつでも立ち寄ってOKみたいな「人生の休憩所」です(笑)。
前田 じゃあ私は休憩できない場所で(笑)。休憩所でもあるんだけども、いろんな人に出会うし、いろんな刺激があってめまぐるしすぎるから、休憩しながら休憩してない。どっちもあるんですよ。
岡野 「立ち寄り所」というのは結構しっくりきていて、お互いあんまり良く知らないけど、ある程度同じ目的を持ったいろんな人が出入りするというか。
岡野 講評がある日は、胃を押さえながら行きますね…。「こんなのクソだ」みたいな講評は全然ないんですけど。
前田 「映像表現の可能性」は酷評する人がいたので、講評でボロクソ言われていたんですけど(笑)、その瞬間は辛くても、また来たくなるんですよね。思いかえすと普通に楽しいんです。
岡野 講評をされに来てますからね。褒めっぱなしだと行かないのと一緒というか。変わりにきてるので…(笑)。いつもと違うやり方をやりたくて、それに対する反応がほしいんです。新しいやり方が当たらないときもあると思うんですけど、まずは反応をもらいに行かないと意味がないなと思うので、通っているんです。
中島 毎回じゃないんですけど、いつも緊張する感じが…。初めて来たときは「ここであってるのかな?」みたいな感じで、階段をのぼっているときもドキドキして「どうしよう」って思って…。
前田 階段ヤバイですよね。階段ヤバイ。階段でいつも薬飲んでましたもん。動悸が(笑)。
中島 講座の初回もどんな人がいるんだろうっていうので、やっぱり緊張して…駅でアメ食べてから行こうみたいな。
一同 かわいい。
前田 薬とか言わなきゃ良かった。おばあちゃんみたい。
一同 (笑)。
中島 階段をあがっているときにドキドキするのが、美学校の一番強い印象ですね(笑)。
―みなさんそれぞれにとっての「美学校」があるんですね。今後とも何かしらの形で美学校に関わっていただけたら嬉しいです。本日はありがとうございました。
一同 ありがとうございました。
※1:ナオナカムラ
高円寺をメインとした展覧会スペース。美学校修了生の中村奈央さんがディレクターを務め、これまでに40近い展覧会を開催している。http://naonakamura.blogspot.jp/
※2:天才ハイスクール!!!!
2010年から2014年に開講された講座。アーティスト集団Chim↑Pomのリーダー・卯城竜太が講師を務めた。
※3:ギグメンタ
美学校が主催する複合アートイベント。「ギグメンタ」とは、「GIG」と「DOCUMENT」を掛け合わせた造語で、その時代の様々な表現の在り方を問い直すと同時に『今、ここ』をドキュメントすることを目的としている。次回は2016年夏に開催予定。
次回は、「社会人編」をお届けします(2016年1月18日公開予定)。