本教程は2019年度をもって終講し、2020年度より後継講座として「みる、はなす、つくる。(鑑賞、批評、制作。)」を開講します。
定員 12 名
毎週金曜日:午後7時~午後10時
自主的研究会「絵画部」が発端となり10年間続けてきた当講座は、9期よりわたしマジック・コバヤシが継続主宰してきましたが、10年を超えた今ひと区切り的な気持ちから存亡を検討しました。
一般的に「継続は力なり」と言いますが、まさにそのとおりである一方、何ごとも惰性による継続は腐敗に繋がります。常に代謝する思考と確固たる目的意識によって成立する継続にしか発展的意味がありません。ですので、継続にあたりいくつかの視点から当講座を再考しました。「当講座はまだ求められているのか?」
まず、この新体制での継続は当講座の最大にして最良の特長の一つでもある「複数の講師による複数の視点、複数の評価軸」が失われる危惧があるかと思いますが、その点は逆に強化すべくほぼ一週おき以上にゲスト講師を招いて講座展開していく予定です。もちろん絵画部の佐藤直樹、都築潤、小田島等、池田晶紀、水野健一郎らを筆頭に。
また、講義内を通しての大きなテーマとして、社会と芸術の関係性分析はいまだ必要か?
全てが経済主導になってしまった現代社会において、美術や芸術は本当に世の中に求められているのだろうか?それは富裕層の投機対象などではなく。人々はなにを求めているのか?世の中は求めるものすらも見失ってはいまいか?
何ごとも経済性を最優先させると、枠組でものごとを捉え、それを運用させる事になりますが、最新または最良の芸術美術はその枠に収まることを良しとしていないと考えています。そんな基本姿勢は反体制的とも言えるかもしれません。しかし、現状に迎合し自らを社会の枠に適切に当てはめることは芸術の本質とはなんら関係が無いのです。
「絵と美と画と術」という名の当講座はその名のとおり「絵画」と「美術」と言う既成概念・枠組をいったん解体し、それぞれを分析し再構成することを目的としてスタートしました。なぜそんなことが必要なのかと言えば、近代の「絵画」も「美術」も社会や経済の中で発生し存在してきたものだからです。
そんな現在、無邪気にただ絵を描けば良い時代ではない。なぜなら広い視点での問題意識がないと継続困難な時期がやがて訪れるからです。「絵と美と画と術」の講師達は常日頃そんな難題を打開すべく考え続け実践し続けてなお10年が過ぎ、未だ「確固たる正解」にはたどり着けていません。
今もそれぞれが自らの思考を新たな学びによってアップデートしながら講義も続けています。講師が勉強中とはなにごとか?と咎められる向きもあるとは思いますが、美術や芸術の本質は簡単に教育など出来るものではないのです。つまり、当講座は完成された教育ではありません。
ここであらためて、この「美学校」および「絵と美と画と術」は「現在の芸術や美術をとりまく多くの問題を包括的に観て考え共有する場」、そしてそこから「各自の意志で諸問題を打開して行くための場」であると捉え直すことにします。
その思案思考にあたり最も重要なことは「よく観ること」です。
つくることと同じくらい観ることが大切である。つくるために観る。観るゆえにつくる。観ることは考えることであり想像すること。
さらにもう一歩進めて「つくることよりも観ることの方が大切だ」と仮定します。その考えを込めて「観る≧つくる」と副題を付けました。芸術美術に限らず、自分をとりまく社会を良く観る。考える。捉える。行動する。そして、絵を描く、写真を撮る、言葉、文章を紡ぐ。
それが、最終的に各自の作品制作に至らなくても、考え出す以前より、観だす以前より、その思考と視野がこれからの人生を豊かにしてくれると断言します。
自分の目で観て自分の耳で聞いて自分の思考を深めそれを共有し多様性を肯定する。聞き心地の良い言説を疑え。様々な枠組や概念に囚われず、それぞれ個々人が生き生きとそれぞれらしくあること、既成概念から自由に生きることが重要なのではないか?それはひいてはいま芸術が求められることに接続するのではないか?と言う本質のようなものが淡い一筋の光としてみえかけているような気がします。
いきなり大きなことはできませんが、小さなことからはじめましょう。そんな志に共感する同志を待っています。
※注 絵画部とは、佐藤直樹、都築潤、マジック・コバヤシ、池田晶紀、小田島等の5名によって2007年頃に開始されたブカツのような活動体。それぞれが絵画制作とは別の職能を持ちながら、絵画そのものおよび絵画をとりまく環境についての分析研究をよなよな街の喫茶店や居酒屋などで繰り返していた集まり。2013年に水野健一郎が加入。
過去の参加ゲスト
タナカカツキ、スージー甘金、川島小鳥、長尾謙一郎、水野健一郎(2013年度より講師)、ピュ〜ぴる、ひらのりょう、大原大次郎、池田光宏、笠原出、石原康臣、生西康典、印牧雅子、寄藤文平、菊地敦己、山本ムーグ、フミヤマウチ、津村耕佑、五木田智央、角田純、増田セバスチャン、TOJU、川口隆夫、デイヴィッド・デュバル・スミス(生意気)、加賀美健、杉本拓、高山明、大日本タイポ組合、川田十夢、鈴木哲生
過去のカリキュラム
5/20 オリエンテーション+5 elements
27 マインドマップ
6/ 3 マインドマップ
10 現在未来マップ(「絵と美と画と術」でやりたいこと )
17 現在未来マップ(「絵と美と画と術」でやりたいこと )
24 企画と実作(コバヤシ)
7/ 1 実作講座「演劇 似て非なるもの」との共同企画「杉本拓 自作を語る」
8 コラージュ論とその実践[場所:HIGURE 17-15 cas](小田島)
15 デザインしてみる1「タイポグラフィ」(佐藤)
22 コラージュ論とその実践(小田島)
29 ヤバい絵を描こう(水野)/夏休みの課題について
9/ 2 夏休み課題発表
9 都築潤さんの講義(都築)
16 紙芝居(水野)
23 TATにむけて
30 コラージュ論とその実践(小田島)
10/7 紙芝居発表会(水野)
14 TATにむけて
21 TATについて(仮)
28 TATについて(仮)
11/4 修了展にむけて
11 マジック・コバヤシの個展会場にて
18 水野のグループ展のレセプション
25 現在未来マップの確認
12/2 撮影実習(池田)
9 水野のグループ展のレセプション(CALM & PUNK GALLERY)
16 デザインしてみる2(佐藤)
23 冬休みにむけて
1/13 展示のための事例研究等
20 企画のための事例研究等
27 実作のための事例研究等
2/3 メディア展開のための事例研究等
10 修了展へ向けた制作等
17 修了展へ向けた制作等
24 ゲスト(仮)
3/3 修了展へ向けた制作等
修了生座談会
「絵と美と画と術」1〜7期修了生
――まずは、自己紹介をお願いします。
ますこ 1期のますこえりです。イラストレーターをやっています。以上です(笑)。
渡部 2期の渡部剛です。コマンドNという会社で働いています。街中でアートイベントを開催したり、ビルをリノベーションしたり、いろいろやっています。
木内 木内創土です。4期生です。ずっとバイトとインターネットをやっています。
一同 (笑)。
浦川 浦川彰太です。僕は4期の秋に入って、5期まで受講しました。今は、求人広告サイトで文章を書いたり、フリーでデザインの仕事をしたりしています。
大場 6期の大場綾です。入ったときは社会人兼イラストレーターで、今は社会人兼アーティスト……かな?いろいろやる人です(笑)。
岡 7期の岡修平です。今年の3月にムサビ(武蔵野美術大学)を卒業して、今はバイトをしながら主に立体作品を制作しています。
講師プロフィール
マジック・コバヤシ
1969年長野県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。株式会社メイウェルにグラフィックデザイナーとして入社。後に横尾忠則氏と石川次郎氏のデザイン事務所株式会社スタジオ・マジック設立に参加。1999年よりフリーランス。写真とグラフィックデザインを軸に、インスタレーション、執筆、スパイス料理研究、その他企画、など表現方法を限定することなく活動を続けている。
佐藤直樹
1961年東京都生まれ。北海道教育大学卒業後、信州大学で教育社会学・言語社会学を学ぶ。美学校菊畑茂久馬絵画教場修了。肉体労働から編集までの種々様々な職業を経験した後、1994年、『WIRED』日本版創刊にあたりアートディレクターに就任。1998年、アジール・デザイン(現Asyl)設立。2003~10年、「合法的なスクウォッタリング」を謳ったアート・デザイン・建築の複合イベント「セントラルイースト東京(CET)」をプロデュース。2010年、アートセンター「アーツ千代田 3331」の立ち上げに参画。サンフランシスコ近代美術館パーマネントコレクションほか国内外で受賞多数。2012年からスタートしたアートプロジェクト「トランスアーツ東京(TAT)」を機に絵画制作へと重心を移し、「大館・北秋田芸術祭2014」などにも参加。札幌国際芸術祭2017バンドメンバー(デザインプロジェクト担当)。3331デザインディレクター。多摩美術大学教授。http://satonaoki.jp/
都築潤
1962年東京生まれ。1986年武蔵野美術大学デザイン科卒業。1993年四谷イメージフォーラム中退。1987年ザ・チョイス年度賞優秀賞。2000年毎日広告賞部門賞。2004年TIAA銅賞、カンヌ国際広告祭銀賞。2005年アジアパシフィック広告祭銀賞、TIAA銀賞、ニューヨーク One Show,Festival, Cresta等でファイナリスト。http://www.jti.ne.jp/
小田島等
1972年東京生まれ。イラストレーター/デザイナー。1995年よりCDジャケット、書籍、広告物のデザイン、アート・ディレクションを多数手がける。近年では展 示活動にも力を入れている。近著にデザイン&イラスト作品集「ANONYMOUS POP」がある。http://odajimahitoshi.com/
池田晶紀
1978年横浜生まれ。1999年自ら運営していた「ドラックアウトスタジオ」で発表活動を始める。2003年よりポートレート・シリーズ「休日の写真館」の制作・発表を始める。2006年写真事務所「ゆかい」設立。2010年スタジオを馬喰町へ移転。オルタナティブ・スペースを併設し、再び「ドラックアウトスタジオ」の名で運営を開始。国内外で個展・グループ展多数。http://yukaistudio.com/
水野健一郎
1967年岐阜県生まれ。アーティスト。鳥取大学工学部社会開発システム工学科中退。セツ・モードセミナー卒業。既視感と未視感の狭間に存在する超時空感を求めて、自身の原風景の形成に大きな影響を与えたテレビアニメの世界観を脳内で再構築し、ドローイング、ペインティング、グラフィック、アニメーションなど、多様な手法でアウトプット。BEAMSより、作品集『Funny Crash』、『KATHY’s “New Dimension”』を刊行。映像チーム「超常現象」、美術ユニット「最高記念室」としても活動。東北芸術工科大学映像学科非常勤講師。http://kenichiromizuno.
修了生の声
ますこ えり(イラストレーター(ちょっとまんが・デザインも))
絵で食べていけるかひとまず試してみようと決めたときに、美学校でちょうど「絵と美と画と術」という妙な名前の実験的な講座が始まり、1期生として通いました。講師の方々は「先生」というより同じ時代を一緒に生きている「先輩」という感覚に近く、他の受講生達と共に飲みながらいろんなことを話しました。絵や美術のことだけではなく、お金のことや生活のこと、今のことやこれからのこともです。自分は今どんな時代に生きているのか、その中で絵をお金に換えて生きて行くとはどういうことか。それについて考えるのは絵の描き方を学ぶよりも必要なことでした。
マサエ(刺繍やイラスト、ぬいぐるみ、映像など制作)
週に1度、美学校に来ると、いつも特別な緊張感を味わいました。いつも使わないような頭を使って、その日は家に帰ってもさっきの話はこうだったのかな、と考えます。1週間たつとまたすっかり弛みきった頭で授業を受け、再びバリッとします。美学校の授業では、いつもごまかしている事もすんなり見透かされてしまうようで、恐ろしいな、と思う事が多かったです。週に1回そんな緊張感がありました。これは外から見ていたらなかなか伝わらないのではないでしょうか。とっても贅沢な緊張感で、また、自分自身を見直すきっかけにもなったように思います。
吉原航平(画家、雑工など)
講師陣の豊かな顔ぶれと、個にとどまらないそれぞれの多層な活動を気に入り通うことにしました。
それと皆、釈然としないものを抱えた優れた作り手であること。
絵や美や画や術、働くこと生きること死ぬことを常に切り離さず扱う習慣が、この場で染みついた糧の一つに思います。
岡部正裕(グラフィックデザイナー)
いきなりですが第一期修了展チラシステートメントより一部引用。
「いざ来て見てみたらすばらしすぎる先生たちにもましてオオ?って思っちゃったのは、そこに集まった受講側の九人のカワイイ手強い齢二十五~三十ぐらいの若者たちの、いつも僕の脳のキャパを若干オーバーしながら「あれ?」って疑問に思いながら、何かが起こっちゃっている粒ぞろいなメンバーがわけもわからずうまれてきたよの図だったので、まあワイワイがやがや、なんやらかやら、ドンちゃん騒ぎ(鍋など)をやらかしながらも静かでシャレ者なおかしな会が繰り広げられて来てしまったのです。」(原文ママ)
そうなんです、授業の度に自分の考えや認識をあっちこっちに引張られ放題。脳のキャパオーバー。でもそういうことを繰り返したことによって自分の軸みたいなものが浮き上がった何ものにも代え難い1年間となりました。