物々交換所 第15回「業者委託と、そこでこぼれ落ちるものについて」


 酒井貴史


昨年度に引き続き開催した、美大卒業生の不要品を収集して新入生と在校生、近隣住民に無料配布する企画「ワールドおさがりセンター」が終了しました。
ここでおさがりされたものの記録はこちらです。

http://togetter.com/li/789929

おさがりセンター来場者からは「物々交換所再開の署名活動があれば協力する」という言葉を何度か頂いていますが、実は署名はいくら集まっても意味がありません。

(ムサビの物々交換所撤去についてはこちらから)
https://bigakko.jp/sp/portal/kokanjo/006.html

これは『不要物の処分の工程』すべてを専門業者に委託しているが故にその中に含まれる『まだ使える物』を再活用できない現状に対し、 再度その工程に介入することが交換所の目的であるためです。
例えば「ATMを設置してほしい」というようないわば業者の誘致の場合は、 潜在的な需要の量を署名によって示すことは有効です。

まず「業者に委託している仕事に介入する」とはどういうことか。
武蔵野美大のゴミ集積所を管理する業者は学内で排出される不要物の収集分別、 そして処理場への輸送を行います。そのゴミの中に時折含まれる「まだ使える物」の選り分けは、当然ですが受注業務に含まれません。
委託する大学側も、最初からそのような仕事は発注していません。
つまりここでいう介入とは「ゴミの中から再利用できる物を選り分ける」ことと「再活用のために配布する」という、本来存在しなくても両者に支障のないはずの仕事をわざわざ作り出すことです。

次に「交換所再開については署名に意味がない」ということについてですが、
大学側の懸念は「ゴミが溢れて乱雑な状態になること」と
「盗難自転車などの法に触れる物品の取引」
であり、特定の管理人が存在しない『物々交換所』を不特定多数の学生が整理整頓を分担し維持することが可能かどうか、ということが問題であり、署名の数自体は答えになりません。

先ほど「本来存在しなくても支障のないはずの仕事」と書きましたが、そのような仕事は『具体的に《誰が》《どれくらい》利益を得るか』 ということが明確にならないが故に、存在せずとも支障がないものとされます。
しかし美大という非常に限定された空間においては支障が無かったとしても、 いずれ学生たちは美術やデザインを通じて社会のあらゆる物の創造に関わっていきます。その時に『具体的に《誰が》《どれくらい》利益を得るか』 という判断基準だけでは本質を見失う問題に出会うはずです。
【役目を終えたもの、不要とされたものを如何に葬るか】という問いもその一つです。学生の目線で「他の学生が再利用できる」か「廃棄した方が良い」かが判断され、 また彼達自身の手で再分配の場が運営されることが望ましいのは、それを通してこの問いに向き合うことができると考えるためです。

「美術系大学のゴミ」卒業制作編
https://bigakko.jp/sp/portal/kokanjo/012.html

以下の写真は3月末頃の引っ越し集中期にムサビのゴミ集積所から選り分けた物の例です。
目立つ傷や汚れがなく、一定以上の消耗がないもののみを選別していますが、 それでも一日、あるいは半日でこれだけの量になります。

学生の段階で、まだ価値のあるものがゴミと一緒くたにされてしまうことを致し方ない事と諦めてしまえば、卒業後に更に膨大な物量を担う局面を迎えた時、彼らの手から零れ落ちるものは増えてしまうはずです。
かつてのような、その損失を補い余り有る程の物質的な余剰を、 私たちはもう持っていません。


物々交換所

物々交換所はまだ使える不要品を収集して貰い手を探すための場所です。ここに置いてある物は遠慮なく持ち帰ってください。
物を置く時、貰う時にどんな物があるかツイッターでつぶやいてください。もしくは交換所の棚を整理してもらえるとありがたいです。

酒井貴史

kokanjo

1985年10月28日宮城県山元町出身。2009年武蔵野美術大学卒業。現在、物々交換所管理人。詳しくはツイッターから。https://twitter.com/koukanjyo