肩書にとらわれず、好奇心の赴くままに遊び、企て、制作し、発表を続けてきたふたりの講師(齋藤恵汰+中島晴矢)とともに、現代アートを学び実践する「現代アートの勝手口」。美学校という場に集まって語り、さまざまな分野で活動するゲスト講師の話を間近に聞き、合宿で濃密な時間を過ごした「勝手口」での1年間は、受講生にどのような影響や変化をもたらしたのか。それぞれが今後「勝手に」やっていきたいこととは。講座を修了した方々に話を聞きました。

写真左より廣島俊人さん、山田有佳さん、大石彩加さん
大石彩加(おおいし・さやか)|大学生。大学ではアートマネジメントを専攻。2023年度5月期より「アートに何ができるのか」を、10月期より「現代アートの勝手口」を受講。2024年度はTAとして「勝手口」に参加。キュレーションした展示にMaMekechi 個展『KOOL』(AVA artist run space、2025)。
廣島俊人(ひろしま・としひと)|エディター。フリーマガジンの編集部でアーティストのインタビューや、アートショーの企画に携わる。2023年度5月期より「現代アートの勝手口」を受講。
山田有佳(やまだ・ゆか)|医師。勤務医として働きながら、イラストや小説を手掛けるほか、現在は陶芸にも取り組む。2024年度5月期、2025年度10月より「現代アートの勝手口」を受講。
YouTube、バイト先の先輩、インスタ……受講のきっかけ
山田 私は美術の下地が全然ない状態で「現代アートの勝手口」を受講しました。もともとイラストを描くのは好きで、高校生の頃に美大に行きたいと思ったんですけど、近代美術にあまり興味が持てなかったのと、やっぱり資格をとったほうがいいかなと思って、医学部受験コースに進んだんです。だけど30歳になって仕事に少し余裕が出てきたことで、あらためて現代美術を勉強したいなと思って。そんなとき、たまたまYouTubeでケータさんのチャンネルを見つけたんです。
廣島 「芸術文化の勝手口」 (注:講師のふたりが運営するYouTubeチャンネル)の前にあったんですか?
大石 あっ、コロナのときにやってたね!
山田 そうそう。YouTubeで「現代美術」で検索し続けてたら見つけて。そこではじめて美学校を知りました。逆にハルヤさんのことは全然知らなかったんですけど、説明会にも参加せず、とりあえず受講料を払って勢いで受講しました(笑)。2年目も受講したのは、普通に生活していると、美術の話をする場がないというのがまず第一にあって。あと、1年目はあまりにも知識がなさすぎて「語学留学1年生」状態だったので、ある程度単語が分かった状態で、もう一度授業を聞きたいと思って受講しました。
大石 私は高校1年ぐらいのときに、美術館で塩田千春の展示を観て、現代美術っていいなって思ったんです。美学校はバイト先の人に教えてもらいました。たまたまバイト先に武蔵美に通ってる人がいて、ちょうど森美でやっていたChim↑Pomの展示の話をしてたら「美学校って場所があるよ」って教えてくれて。そのとき浪人生だったんですけど、美大に行かなかったら美学校に通おうって思ったんです。結果的に一般大に進学したので、美学校に通うことにしました。
廣島 僕も大石ちゃんと同じで、大学に通いながら「勝手口」を受講してました。埼玉の寄居町っていう自然豊かなところから美学校に通ってたんですけど、遠いから終電が早いんですよ。「勝手口」は、授業が終わってもみんなで話をしてたから家に帰れなくて。スケボーが好きなんで、スケボー持って美学校に来て、みんなが帰ったらスケボーを持って街に繰り出して、神保町で夜を明かしてました。美学校はインスタに広告が出てきて知りました。めっちゃ面白そうと思って講座を見てたら、B-BOYみたいな先生(中島さん)が教えてるじゃんって(笑)。友だちと音楽をつくってたので音楽の講座にも興味があったんですけど、音楽では表現できないこともやってみたいなと思って「勝手口」を受講しました。

テキスト精読、豪華なゲスト講義、課題と個人制作
大石 「現代アートの勝手口」は、3学期に分かれていて、1学期は課題図書を精読します。現代美術の大枠をつかんで、受講生の前提をそろえるタームですね。TAで参加した年は『現代美術史──欧米、日本、トランスナショナル』(山本浩貴、中公新書)と、『ニッポンの思想 増補新版』(佐々木敦、ちくま文庫)を読みました。ケータさんとハルヤさんが、動画とかを見せながら補足をしてくれて。
廣島 その補足がめっちゃ濃かったよね。受講生のバックグラウンドがバラバラなので、まず前提を共有するのが大事なんです。僕の代は、東京藝大の修士と博士過程の人がいたり、武蔵美のクリエイティブイノベーション学科に行ってる人がいたり。
大石 うちらの世代は美大の人が多かったね。あとダンスをやっている受講生もいました。でも、知識の差がハンデになることは全然なかったです。
廣島 みんな大学では日本画とかを学んでいて、現代アートはこの講座が入口という感じだったよね。でもすでにいろいろつくっている人が多かったので、すごく刺激を受けました。
山田 私の代は画家、照明のお仕事をされている人、お笑い芸人、美大で油画を学んだ人、イラストレーターをされながら仕事をしている人とかが集まってました。私は大学が理系だったので、みんなで本を読むこと自体初めてで。出てくる固有名詞がほぼわからないみたいな状態だったので大変でしたけど、みんなで本を読む行為が新鮮で楽しかったですね。それぞれの要約を聞くことで、自分はこういうふうに読んでたなって気づいたり。ひとりだと頑張って読むのにも限界がありますが、みんなで読むことでかなり噛み砕いて読めたと思います。
廣島 ゲスト講師も豪華で、SCAN THE WORLDの話がすごく面白かった。現代アートとストリートカルチャーの接続みたいなところに一番くらいました。あと、ぼく脳さんと松田将英さんもゲストで来てくれましたね。
山田 私のときのゲストは、遠藤薫さん、MESさん、涌井智仁さん、梅津庸一さんでした。
大石 年によって多少変わりますが、2学期以降は「根拠地と風景論」や「超芸術トマソンと路上観察学」「三題噺」などの授業をやりました。ケータさんがキュレーションの課題も出してましたね。講義で課題を出されて、制作して講評して……の間に、月1回くらいのペースでゲストを呼んでくれて、修了展に向けて個人制作をしていくみたいな流れでした。

根拠地が自分の強みになる
大石 1年を通して言うと、私は根拠地の課題が一番印象に残ってます。ハルヤさんが風景論や郊外の話をしたうえで、受講生が自分の根拠地を示す。根拠地は、自分が一番実存を持てる場所っていうんですかね、根ざしている場所みたいな。私は自分の住んでいた団地を写真で撮りました。トシはスケボーだっけ?
廣島 そうだね。地元のスケーターの友だちの映像をつくりました。根拠地は、実際に自分が住んでる場所とかじゃなくてもいいんだよね。自分にとって一番心地良い場所で、その場所をレペゼンするっていう感じだったよね。
大石 そうそう。あと私たちの代はアウトプットの形は指定されてなくて、TAで参加した代からは、ハルヤさんの『オイル・オン・タウンスケープ』(論創社)みたいに、その土地を描いた風景画とテキストを提出する形になりました。
山田 私は1年目は出身地の横浜の話をしたんですけど、地元のことがめっちゃ好きなわけじゃないので、レペゼンするのは難しかったですね。2年目は地元じゃなくて、通っていた大学がある蒲田を選びました。根拠地の授業はとっくに終わってるんですけど、まだ提出できてない(笑)。
廣島 根拠地の授業で、みんな自分の地元に対して少なからずネガティブな感情を持ってるんだなってのは感じたかも。僕は埼玉の田舎で生まれたから、都心にすごいあこがれがあって。でも都心育ちの人は田舎がよく見える。表裏一体っていうか、ネガティブとポジティブを両方持ってるみたいな。逆に、自分の地元というか根拠地をポジティブにとらえられれば、それが自分の強みになるんだなとも思いました。

充実の夏合宿と、受講生主導の修了展
廣島 「現代アートの勝手口」は夏合宿もあって、僕の代は2泊3日で青森に行って、国際芸術センター青森(ACAC)と、十和田市現代美術館に行きました。夜のバーベキューも面白かったですね。合宿に行ってみんなとめっちゃ仲良くなりました。
山田 去年(2024年)は岡山のPEPPERLANDや犬島に行って、今年(2025年)は鳥取を中心に周りました。鳥取の書店・汽水空港のイベントに参加したり、新しく開館した鳥取県立美術館に行ったり、鳥取大学で佐々木友輔さんの新作映画を観て話を聞いたり。あと、岡山芸術交流にも行きましたね。私はスケジュールの関係で行けなかったけど、奈義町現代美術館にも行ってたよね。
大石 そうだね。PEPPERLANDは、能勢伊勢雄さんが美学校岡山校を開催しているライブハウスで、ちょうど2025年が50周年ということで、「スペクタクルな現代を生き延びるための陽謀」と題して、美学校岡山校と「現代アートの勝手口」の合同イベントを開催したんです。みんなでトークをして、受講生がお笑いをやったり、DJをやったり、ハルヤさんがラップしたり。能勢さん、超元気でした。

「スペクタクルな現代を生き延びるための陽謀」
撮影=西崎甚明
廣島 修了展は、受講生がキュレーターっていうかオーガナイザーっていうか、企画を立てて。僕たちの展示(「オルター・ドア」)のときは、大石ちゃんがやってくれました。
大石 私と真くんのふたりでまとめた感じです。それぞれの展示場所を決めるために作品のエスキースを出してもらって、場所を決めて搬入して。あと、ハルヤさんとケータさん以外の人にも講評してもらいたいと思って、長谷川新さんをお呼びしました。これまで授業をしてくれたゲスト講師の人たちも見に来て感想を伝えてくれて、めっちゃ勉強になったし、次も頑張ろうっていうモチベーションにつながりました。
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「オルター・ドア」展示風景
山田 私たちの代は、環境や仕事が異なる人たちが夜7時から10時の時間帯に一堂に会しているところに着想を得て、「ゴールデンタイム」というタイトルで修了展を開催しました。私はそれまで現代美術作品をつくったことがないから、どうしたら「作品」になるのかわからなかったんですけど、自分なりにいろいろ考えてアウトプットしたものを展示しました。今年は2年目なので、去年よりは自分のやりたいことをもうちょっと形にできたらいいなと思ってます。
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「ゴールデンタイム」展示風景
「勝手に」遊び、つくり、動きつづけていく
大石 「勝手口」を受講して、私もより「勝手に」やるようになりましたね。講座を修了するぐらいのタイミングで、根津のアーティストランスペース「AVA」に誘ってもらって、いまは運営に携わってます。
廣島 僕は大学を卒業するときに、「大学院に行きたいんです」ってハルヤさんに言ったら、「行くな」って言われて(笑)。でも、それがすごく良かったんです。アカデミックなほうに進むよりも、自分のルーツを掘り下げて生きていけって言われた気がして。「勝手口」に入る前も入ったときも、自分に自信が全然なかったんですよ。自分以外の受講生がみんなすげーって感じで。でも1年間受講したら、自分のバックグラウンドこそが自分の一番の強みだってわかったんですよね。それを生かしていくことが大事なんだと。あと、講座を受講したことで、自分は作品をつくるよりもアーティストに取材をして文章を書いたり、それを編集して誌面をデザインすることのほうが好きなんだなってことにも気づきました。それが今の仕事につながってます。
山田 ハルヤさんとケータさんはメンターじゃないですけど、受講生それぞれが興味のあることを掘り下げてくれるというか。私はケータさんが得意とするキュレーションや、ハルヤさんがする郊外の話と、直接的な共通点は正直あんまりないんです。だけど、それでもすごく濃い話をしてもらえるのがありがたくて。小説も書いてるんですけど、「勝手口」では文芸の話もできて、すごく幅が広いです。
廣島 僕が大学1、2年生のときって、コロナで大学に通えなかったんですよ。だけど「勝手口」に入ってみたら、みんなで集まって授業をして、授業が終わったあともみんなでしゃべる。そんな空間ってこれまであんまりなかったから、それがすごい刺激的で生きてる感じがしたんです。実際にその場に行かないと味わえないことがいっぱいあるんだなって。地元の友だちは、大学卒業したら就職して真面目な人生を歩む人が多いし、自分も以前はそういう価値観で生きてたけど、「勝手口」を受講して良い意味で真面目じゃなくなったっていうか。アートも学んだけど、人として一番大事な芯の部分を学びました。「勝手口」で学んだことが今の仕事にも遊びにも生きてます。

山田 「現代アートの勝手口」を受講して、作品をつくるうえでの考え方とかが少しはわかるようになったかもしれないけど、技術的なところはまだゼロみたいな感じなので、自分の思い描くものが少しでもつくれるようになりたいと思ってます。あと、対面で人と話をして、それぞれの根拠地というか、その人の実存みたいなところに触れていくのってやっぱり面白いなと思っていて。実は今、仕事をやめて今後は美術をメインにやっていきたいと考えてるんですけど、ゆくゆくは社会人とかが表現できる場所をつくってみたいなと思ってます。「勝手口」という環境に身を置いたことで、そういう気持ちが芽生えはじめました。
大石 私は、たくさん勉強して経験を積んで、その中で将来のことを考えていきたいと思ってます。「勝手口」の修了展で実際に展示をつくってみて、自分はインストーラーには絶対向いてないなと思ったり(笑)、いろいろ挑戦できたことで、もっと頑張りたいなと思うようになりました。
廣島 今は雑誌をつくるのが面白くて、編集とグラフィックデザインの仕事をもっと頑張りたいと思ってます。もっと勝手にたくさんやりたいなと。人と話すのが好きだし、いろんなことを知りたいっていうのが一番のモチベーションかもしれないですね。あと海外に行って、日本だけでは味わえない価値観を体で味わいたいです。でも、一番は仲間を大切にして、もっと遊んでいきたいと思ってます。
2025年12月25日収録
取材・構成=木村奈緒 写真=皆藤将
▷授業日:毎週金曜日 19:00〜22:00
「現代アートの勝手口」は、この20世紀を総崩れにした30年の後に、改めて勝手に現代アートをやろうという集まりです。私たちは広く深く種々の形式を取り扱います。知的好奇心の赴くままに一緒に遊べる人と、これからの遊び方を再発明したいのです。この講座を通し、三河屋のようにひとの勝手口から勝手に出入りして、その勝手を盗み合えるひとたちと出会えれば幸いです。
