2020年より開催しています、柳樂光隆によるライター講座。
この講座では文章を書くことを編集の視点も交えて考えるため、ZINEを作るという想定で進めています。嬉しいことに講座の中から数々のZINEや記事が制作されましたので、この機会にまとめてご紹介いたします。
受講生のZINEガイドに寄せてー講師:柳樂光隆より
美学校でやっている僕のライター講座では毎年、“架空のZINE”を作るという課題を出しています。「レビューやコラムや論考を書いてきてください」みたいな課題は出していません。それぞれの受講者の興味や関心、やりたいことや書きたいことに合わせて自分自身で自分の課題を作ってもらいたいからです。ディスクガイドを作りたい人に長い論考は要らないですしね。なので、受講者は最初に企画書を書いて、次に台割を作ってから、自分の原稿を書き始めてもらいます。今の自分が書くことができる分量や自分が書くことができる内容を講師の僕と相談しながら決めてもらって、それをひとつずつ書いてもらう形で進めています。その原稿を毎回、僕と全受講生で構成される編集部による編集会議のていで講評や添削を行っていきます。
そんなプログラムで講座をやっていると、“架空”だって設定にしていても実際にZINEを完成させてしまう人がちらほら出てきました。一年間の講座の期間中にほぼ完成させる人もいれば、講座が終わってからもその課題にじっくりと向き合っていて、僕が忘れたころに「ZINEが完成しました」と連絡をくれる人もいます。それぞれがそれぞれのペースで書き続けてくれることが僕の理想なので、時間がかかっても完成させてくれる人たちの成果が読めるのは僕にとってとてもうれしいことです。
講座を何年も続けているといつのまにか受講者が作ったZINEが積み重なってきました。実はそれも講座に使わせてもらっています。毎年、過去の受講者が作ったZINEを、現在の受講者に手に取ってもらって、実際に自分のアイデアを形にすることができる可能性を実感してもらったり、具体的なヴィジョンを描いてもらうことも講座のプログラムの一部になっています。元受講者が作ったものってやっぱりリアリティが違うんですよ。
ここに並んでいるのはこれまでに受講者の皆さんが作ってくれた成果物です。音楽評論家のライター講座なのに音楽がテーマのZINEが少ないのを不思議に思う人がいるかもしれませんが、この講座はそこがいいんですよ。なぜなら受講者が自分の関心事に関して、丁寧にリサーチをして、しっかりまとめてきた文章を読むことで僕と他の受講者の世界が広がるからです。音楽がテーマじゃないからこそ、これまでの自分とは無縁だった世界に出会うことができるし、普段ならあり得ないインスピレーションを得ることができます。
つまり、ここに並んでいるZINEは提出された課題ではありますが、すべてが僕と受講者たちの大切なインスピレーション源ということです。
柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
2020年度受講生
『MISTRUST』
とあるレイヴを契機とし、コロナ禍のアンダーグラウンドなユースカルチャーを軸に当時の雰囲気を捉えようと試みたもの。
アーティストのインタビューやその年リリースされた作品のレビュー、パーティーレポート、パーティーフォト、社会的な出来事の年表など、いくつかの側面から、あの時起こっていた出来事への感覚を想起させるようなものになっているかと思います。
講座中は冊子にすることまで考えていなかったのですが、項目を作っているうちにイメージが湧いて色んな人に声をかけて作りました。
ある程度まで講座内で形にしていなかったらおそらく無かったものなので、良いきっかけをつくっていただいたと思っています。
結構前のことなので記憶が曖昧ながらも、消費されたり消費的になるのではなく細く長く続けていくことの良さも教えてもらった気がします。
津田結衣
受講中はototoyの編集部に在籍しており編集ライティングをやっていましたが、今はただたくさん遊んでいます。
base:https://mistrustzine.base.shop/items/45102272
『SOMEOFTHEM OF ZINE Vol.04』
音楽駄話ブログSOMEOFTHEMの中から反響の大きかった記事に注釈を加えたもの、個人のnote、音楽好きな友人の記事をZINEにまとめて、文学フリマやbaseで販売しています。
美学校のライター講座では、編集者・ライターとして第一線で活躍している講師の方々から一冊の雑誌とその中に位置づけられる自分の文章を作る方法論が惜しげもなく開示され、自分の課題制作と柳樂さんのレビューを通して、ZINEや記事を作るためのノウハウをインプットすることができます。
様々なバックグラウンドをもつ受講生のアウトプットを見ることも大変刺激になりました。自分は仕事も音楽・雑誌に全く関係ない仕事に就いていますが、ZINEを作って売るということはこの講座無しでは出来なかったと思っています。
YOU-SUCK @SOMEOFTHEM
平成生まれ。
サラリーマン。1児の父。だんご屋の息子。日本のポピュラー音楽と怪獣が好き。音楽駄話ブログSOMEOFTHEM(サムオブゼム)をラッパーのカンノアキオとともに運営中。SOMEOFTHEM
ブログ:https://someofthem.hatenablog.com/
X:https://twitter.com/some_of_them_
base:https://someofthem.base.shop/個人
X:https://twitter.com/musukodanngoya
note:https://note.com/sucksuckhello
『オーケーとその他スーパーたち – 14店舗のフィールドワークと500人のアンケートでわかったシンプルな結論』
柳樂さんに、スーパーマーケットをテーマにした記事を提案してもよいのか迷いました。構成を見せたときに、思いの外、面白そうな反応を示してくれました。
執筆は、矢野利裕さんがゲストの会で教えてくれた「現状」「分析」「結論」の構成で書いてみたのが役に立ちました。記事がほぼ完成した段階で「バズりそうですね」と言ってくれたので、バズが発生しやすい投稿のタイミングや柳樂さんがシェアする段取りを組んでnoteにリリースしました。
結果は想像以上にバズり、10万以上のビュー、はてブランキングで1位になりました。スーパーには日々新しい発見があります。最近の発見は、モランボンの焼肉のタレ「ジャン」。どのスーパーにもありますが、エバラなどのタレが陳列してある棚には並んでいません。肉売り場にひっそりとあるんです。独自性があってかっこいいですよね。そんな身近な日常の発見でも、柳樂さんはきっと受け止めてくれるでしょう。
太田正伸
TOPPAN株式会社
クリエイティブディレクター
note:https://note.com/dontoike/n/nb7ff803f2bc2
『哲学カルチャーマガジン「ニューQ」』
「答えより問いが書いてある雑誌を読みたい」というモチベーションより創刊された、新しい問いを探す哲学カルチャーマガジン。問いを切り口に哲学研究者をはじめ、アーティストやクリエイターと哲学対話形式でおこなったインタビューを掲載。また毎回凝ったアートワークや面白コラムを掲載しています。
現在準備中の最新号では、ライター講座で用意した台割をもとに企画が進行中です。また、ニューQと並行して執筆中の書籍では、編集講座での経験を活かし、ただ書くだけではなく、編集的な視点からも構成や内容のチェックをしながら書き進めています(とかっこよく言えると良いのですが、まだまだ力不足で難航中でもあります・笑)。
瀬尾浩二郎
哲学カルチャーマガジン「ニューQ」編集長。
newQ代表。現在、哲学の本を執筆中。
web:https://newq.jp/
2021年度受講生
『冷麺の麺は黄色か?灰色か?』
「冷麺の麺は黄色か?灰色か?」は日本全国+韓国で「冷麺」を食べ歩いて分類していくエッセイです。
とても曖昧なこの料理について、謎解きを追体験できるようなzineを目指しています。センシティブなトピックで書くかどうか迷っていたのですが、講座をきっかけに書き始め最初に持った疑問を大事にしながら3年間で3冊を書きつづけています。
それまでも書くことは好きでしたが、オフィシャルな経験はあまりなく、お金になるような文章を書こうと参加しました。結果、独自に書くことについて方法論と自信を構築できるようになってきました。元々自分が持っていた興味やリサーチ方法を深められた、という感覚です。
同時に学術方面との距離感の取り方から外国語インタビューの準備方法まで、さまざまな編集視点を学びました。他の方の進捗も聞くので多様な編集の進め方を知ることになり、試行錯誤しチャレンジする体制を自分の中に生み出せたように思います。
sayanu
Naengmyeon enthusiast。
小学生からポップグループを追いかけ、高校生でコミケに漫画評論で参加。舞台、インディーズバンド、アイドルと追っかけを極め、2020年にK-POPに到達したのち日本の冷麺についてどうしても気になり、食べ歩く。
booth:https://naengmyeonjp.booth.pm/
『やうやう』
「やうやう」では、町長選挙にでたネトウヨ候補者や、元ヤクザの人にインタビューしたり、街への不満を話す座談会をしたり、県内の著名な人をゲストにトークイベントを開催したりしています。
それらをシラスで配信もしているのですが、「やうやう」と「配信」うどん屋での「トークイベント」の三つが、お互いにコンテンツを生み出す関係にもなっています。そのなかでも地元の人に手にとってもらえる「やうやう」がこの活動の中核であると感じています。
ライター講座で学んだことの一つに「どんな意図をもってその企画やテキストを完成させるかが大事」というのがあります。「やうやう」での活動を言葉にするとしたら「田舎でも面白いものをやれるんだ」という実践です。
あとはクオリティを高めること。それができれば「やうやう」の刊行物としての力が、この先を切り開いてくれると信じています。文章や刊行物にはその力があることをライター講座で学びました。
土屋耕二
鹿児島県鹿屋市で、うどん屋「生うどんつちや」を経営しながら、DJをしたり、文章やマンガを描いたりしています。
「やうやう」(最新号から有料)の発行、シラスチャンネル『生うどんつちやの「シラスの台地で生きていく」』の配信などで活動しています。
note:https://note.com/yoyo_ohsumi/m/m1206e556155a
シラス:https://shirasu.io/c/tsuchiya
2022年度受講生
『音楽とテクノロジーをいかに語るか?』
「音楽制作のテクノロジーと音楽がいかに関わるか、そしてその関係をどのように語ることができるか?」を考える手がかりとして、25本のコンテンツガイド(書籍、ドキュメンタリー)と15ページにわたる年表、論考「バッドノウハウはなぜ批評の問題になるのか」を掲載。
ひとりで編集・執筆を行いましたが、冊子のかたちでまとめる経験はあまりなかったので、短評や論考で誌面を構成する際には講座での細かい学びが制作にとても活きました。充実した内容になったのではないかと思っています。
imdkm
ライター。
ティーンエイジャーの頃からダンス・ミュージックに親しみ、自らビートメイクもたしなんできた経験をいかしつつ、ひろくポピュラー・ミュージックについて執筆する。単著に『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)。
booth:https://imdkm.booth.pm/items/4815297
『manga.com vol.1』
業界で働く人間から、漫画家やマンガ研究者まで幅広く参加したマンガに関する情報誌です。特定作品・作家の考察から業界動向、海外の漫画情報まで詰まっているので興味がある方は是非お手にとってみてください。
ライター講座では執筆者としてだけでなく、メディアの編集者やインタビュアーとしての視点まで多岐にわたって学ぶことができました。ライター講座がなければ、人生で自分で同人誌を作ろうと行動することもなかったと思います。一冊作ってみたり書いたりしてみたいけど、きっかけがないと踏み出しにくいという方にもおすすめの講座だと思います。
maritissue
某web系会社でマンガメディアのディレクター・編集長
booth:https://booth.pm/ja/items/4562049
『LuckyFesを追って「祭り」と地域創生を考える』
ライターになる夢を諦めきれず、一念発起して美学校のライター講座に申し込みました。講座内でのご指導のもと、ライターとして「自分にできること・自分がやる意義があること」を考えた結果、茨城県におけるフェス問題を取り上げることにしました。その成果として生まれたZINEが、『LuckyFesを追って~「祭り」と地域創生を考える』です。
茨城県民のシビックプライドにも大きく影響を与えているROCK IN JAPAN FESTIVALが千葉移転を決めた直後に立ち上がった「LuckyFes」がどんなフェスなのかを追ってみて、その様子をZINEでレポートしてみようと考えました。先生のご指導のもと、無事に完成させることができました。
編集の視点としての読みやすさへの気配り、インタビューにおける留意点など、この講座でなければ得られなかった知識をフルに活用し完成させた、私にとって大切なZINEデビュー作です。
髙橋史子
茨城県出身
note:https://note.com/fumiko_takahashi/n/n77dd0369fd11
〈研究室〉
▷授業日:月曜(月1〜3回/年間20回) 20:00〜22:00
本講義は芸術表現の技法や知識といった”情報”の伝授の場ではない。五感、総ての感覚器官で対峙する状況における美の”体験”を実感する場としたい。良質のインプット無しには良質のアウトプットはあり得ない。美しいインプットに貪欲であれ。
▷授業日:隔週月曜 19:00〜21:30
オンライン開催の実践的なライター講座です。『編集』の視点を交え文章を書くトレーニングに加え一線で活躍するプロのゲストによる講義も予定しています。
▷授業日:隔週月曜 19:00〜21:30
グルーヴの本体をDAWを用いて分析するのが本講座の目的です。ダンスミュージックやHipHopなどモダンな音楽の分析を行うAサイド、世界の民族音楽を研究すえうBサイドの二軸のカリキュラムとなっています。