​​【レポート】上原修一(「銅版画工房」講師)個展


2024年1月13日から3月31日まで、東京都調布市にある東京アートミュージアムで当校「銅版画工房」講師・上原修一さんの個展「やわらかくて、かたい」が開催中です。

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東京アートミュージアム外観

会場の東京アートミュージアムは2004年10月にオープンした美術館。建築家・安藤忠雄氏によって設計された空間に、上原さんの初期作品から最新作まで、40点超の作品が並びました。

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会場風景

入口を入ると、まずは小品がお出迎え。その先に広がるのは、天井高約7メートルの空間です。壁面や天井に設けられた開口部から差し込む柔らかな光と、上原さんの飄々とした作品に彩られた空間は、静謐ながらどこか暖かさが感じられます。

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《泳ぐ》
エッチング、アクワチント、雁皮刷り+ステンシル

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《ピンク色の長靴を履いた不思議なキリン》
ドライポイント、雁皮刷り

上原さんは、1963年長野県須坂市生まれ。家族が芸術に親しんでいたわけではなく、絵も嫌いではなかったが小説のほうが好きだったという上原さん。高校卒業後は上京し、明治大学文学部に進学します。小説を書くことを志すも、小説は卒論として認められないことを知り落胆。いっそ大学をやめようかと思っているときに目にしたのが「セツ・モードセミナー」の広告でした。「広告を見てドキッとして。見学に行ってみたら俺、絵を描いてもいいんだ、絵ってこうやって楽しく描けばいいんだと思えた」(上原)。

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上原修一さん

その後、大学に籍を置きながらセツ・モードセミナーに通い始めた上原さん。クロッキーを通して「線」を追求していく過程で、どうしても長沢節さん(セツ・モードセミナー創設者)の線に似てしまう生徒が多いなか、上原さんは自分の線を確立する必要性を実感。より細い線を追い求めるなかで浮上してきたのが銅版画でした。一方で、当時の上原さんは個人でイラストやデザイン、雑誌編集などを請け負っており、一日の大半を労働に捧げる日々。「寝る前にユンケルを飲まないと翌朝起きられない」生活に疲れ、30歳を迎えるにあたって仕事を減らします。自由な時間ができたことで、1994年に美学校「銅版画工房」に入り、当時の講師・吉田克朗さんのもとで銅版画を学びはじめました。

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美学校先代の校長・今泉省彦の写真をもとにした《ダンテの語部》
フォトエッチング、アクワチント、ディープ・エッチング、雁皮刷り

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古い建物の階段から着想を得た新作《階段を上る人下りる人》
ドライポイント、アクワチント、雁皮刷り

会場では、「銅版画工房」に入って1ヶ月目に制作した作品も展示。最近の作品と比べると、描かれた線に一層繊細さが感じられます。ただ受講するだけでは意味がないと、あらかじめ1年後の個展開催を決めて受講した上原さん。48通りのプロレス技を描いた大作も受講1年目の作品と聞き、上原さんがいかに精力的に制作に取り組んでいたかがうかがえます。

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「銅版画工房」に入って最初につくった作品《指輪》
ドライポイント

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48通りのプロレス技を描いて一枚の作品にした《the 48 basic techniques》(部分)
エッチング、ドライポイント、アクワチント、シュガー・アクワチント、ディープ・エッチング

受講生として「銅版画工房」に5年間在籍した後は、今泉省彦さんが講師を務める「絵画演習」に5年間在籍し油絵を制作。その後、2005年に「銅版画工房」講師となり、現在も美学校で銅版画を教えながら自身の制作にも励んでいます。30年に渡って続けてきた銅版画の魅力は?との問いには、まさに本展のタイトル「やわらかくて、かたい」が、銅版画の魅力を言い表しているとの答え。

「なぜ鉄板でなく銅板なのか、なぜジンク板(亜鉛版)でなく銅板を使うのか。硬いと加工しにくいし、柔らかいと刷っているうちに潰れちゃうじゃん。版画だから刷りにおいてある程度の耐性が大事で、銅という素材は、加工と刷りのバランスがちょうどいい。(アルブレヒト・)デューラーは工場をつくって木版画を量産していたぐらいなんだけど、潰れが早いとかの理由で結局銅に落ち着いたんですよ。リトグラフの版はいろんな材があるし、シルクスクリーンは結局テトロンだし、どちらも素材が変わっているけど、銅版画はデューラーの時代から数百年も銅という素材が使われつづけているんです」(上原)。

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会場では銅版画制作の映像も上映(映像提供・美学校)
映像は美学校のYouTubeでも視聴可能

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誰かが使ったあとの銅板を再利用した《女、そして森の底》
自分では意図できない偶然性を好んで作品に取り入れる
ドライポイント、アクワチント、ディープ・エッチング、雁皮刷り

銅版画をはじめてから今日までの30年間で制作してきた作品が並ぶ本展は、上原さんの半生そのもの。それらはすべて「銅が持つ柔らかさと硬さのバランスを介さなければ絶対に顕せない『銅版画』の世界」(展示紹介文より)です。さまざまな技法を駆使してあらわされた上原さんの銅版画の世界をぜひご高覧ください。

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2024年1月27日収録
取材・構成=木村奈緒、撮影=皆藤将

「やわらかくて、かたい」上原修一 銅版画作品展
会 期:2024年1月13日(土)- 3月31日(日)
時 間:11時~18時30分(入館18時まで)
開館日:木・金・土・日
休館日:月・火・水
入場料:一般 500円/大高生 400円/小中学生 300円
主 催:東京アートミュージアム
企 画:一般財団法人プラザ財団(上田)
詳 細:http://www.tokyoartmuseum.com/index.html


銅版画工房 上原修一 Uehara Shuichi

▷授業日:毎週木曜日 13:00〜17:00
銅版画の特徴として、一つは凹版であることが挙げられます。ドライポイント、エッチング、アクアチントといった銅版画技法の基本技法と、インク詰め、拭き、修正、プレス機の扱いなど、刷りの基本技術を学びます。