2023年10月19日から10月29日まで、東京都駒込にあるギャラリーKOMAGOME1-14casで当校「石版画(リトグラフ)工房」講師・佐々木良枝さんの個展「刻を停める―無目的性の行為から生まれ―」が開催されました。
当校の「石版画(リトグラフ)工房」に学び、数多くの個展やグループ展で作品を発表してきた佐々木さん。2年ぶりの個展となる本展では、新作を含む30点超の作品が会場に並びました。
会場を訪れて、まず目に飛び込んでくるのは鮮やかな色彩。季節は秋から冬に向かうところですが、この場所だけは春のようで、明るい気持ちになります。花や鳥、幾何学的な模様が刷り重ねられた画面はリズミカルで楽譜のようでもあります。どのようにして、このように豊かな画面がつくられるのか。本展のステートメントで佐々木さんはこう記しています。
リトグラフは、鉛筆やコンテや墨で描いたものが直接版になる。
絵を作るにあたって、自分の頭の中に描いたイメージをそっくり画面に描き出したいわけではない。
既に分かっていることをやりたいわけではない。
版と向き合い、刷られ出てきたものと自分の中にあるものとが、どう対峙するのかが、自分にとって凄く面白いこと。
版画は自分でない要素がいっぱい介在するので、自分が分からないところに立つ。
決められていないゆえに、いろいろな広がりがあると思っている。
出会った線や形や色で感じ、考え、また作画し、刷る。
何度も重ねての行為から、こんな絵ができた!となる。
最初に描画するとき、手を動かし、潜在的なものを引っぱり出す。
道を歩いて、可愛かった草花のシルエット、蔦の絡まり、上に向かう線等々。
自分の頭の中にあるモチーフは、あくまでも出発点。
こんなものを作ろうと、最初から決めて、作るのではない。
刷って出てきたものから考える。
ここにはこんな線、こんな色、こんな形と足していく。または消していく。そしてまた足していく。
リズムや画面に振動が生まれますように!
生き生きした画面になりますように!
気配が感じれる絵が作れますように!
あらかじめモチーフや構成を決めて刷っていくのではなく、刷ったものを見て次に置く色や線を考えることでつくられる佐々木さんの作品。「そのうち、絵のほうから『ここに白を置いて』とか『銀を置いて』と言い出すので、それにしたがって色を置いていきます。『どの色を置こう』と考えながら見ている絵が何枚もあるので、10日で出来ましたとか、1ヶ月で完成しましたという作品ではないんですね。前に刷ったもののうえに刷ったりもするので、ものすごく時間がかかった作品もあります」(佐々木)。
鮮やかな色彩は、何色もインクを重ねることで生み出されています。「アマニ油系という油性インクを使っています。透明感があるので下の色が透けて、絵に奥行きが生まれるんです。紫をいったん刷っておいて、そのうえにピンクや銀を重ねたあとにまた紫を刷ると、下から出る紫と、上に重ねた紫とで違った色になるんですよ。ピンクや赤は元気が出るので好きな色です。今回はあまり出さなかったですが、緑もよく使います。いろんな色を組み合わせて、自分がいいなと思う色をつくっていくのが好きですね」(佐々木)。
前掲のステートメントにもあるとおり、石版画(リトグラフ)は、描いたものが直接版になる版画技法。版のうえで手を動かすことで作品がつくられていきます。「曲線とかは自然のもの、幾何学的なモチーフは人工のものみたいな意識があって、絵のなかに自然の部分と人工的な部分がはまりこむように考えています。花がかわいかったら花を描いたりもしますが、目の前にある自然なものをここ(作品)に写すのではなく、作品の画面のなかにリズムができたり、風が起こったりしてほしいんですね。画面に気配や空気感が出る絵が描きたいと思っています」(佐々木)。
版が生み出す思いがけない力を借りて、1枚の絵をつくっていく石版画(リトグラフ)。講座ではそんな石版画(リトグラフ)に取り組んでみたい受講生を募集しています。
佐々木良枝さん
取材・構成=木村奈緒、撮影=皆藤将
▷授業日:毎週火曜日 13:00〜17:00
石や金属の版の上に脂肪分を含んだ画材で、自由に描いたものを版にすることができ、ドローイングや自由な描画、筆やペンで描いた水彩画のタッチを出したり、色を重ねることによって複雑な色合いを出すことができる技法です。