「作曲演習」「DTM基礎〜Logic Pro編〜」講師・高山博インタビュー

楽曲における「メロディ」をつくる技術を学ぶ「作曲演習」。講師は作曲家であり、『ポピュラー音楽作曲のための旋律法』『ビートルズ 創造の多面体』など数々の著作を手掛ける高山博さん。「良いメロディ」をつくる技術を確立するに至るまで、いかにして音楽と出会い、活動を続けてきたのか。2026年度10月期から開講予定の「DTM基礎〜Logic Pro編〜」についてもお話を聞きました。

高山 博(たかやま・ひろし)|作曲家・著述家。作曲家として、NHK銀河テレビ小説『妻』、TV朝日『題名のない音楽会』(出演)、国際交流基金委嘱『ボロブドゥールの嵐』、香川県芸術祭『南風の祭礼』、自らのバンドCharisma『邂逅』(キングレコード)など、数々のイベント、放送、CD作品に楽曲を提供。 著述家としては『ビートルズ 創造の多面体』『ビートルズの作曲法』『ポピュラー音楽作曲のための旋律法』などの音楽理論書や、『Pro Tools 11 Software 徹底操作ガイド』『Logic Pro for Macintosh 徹底操作ガイド』などのDAWのテクニカルな解説ほか、音楽雑誌でも健筆をふるう。 近年は、後進の指導にも熱心で、個人レッスンのほか、東京藝術大学大学院映像研究科ゲスト講師、東京工芸大学アニメーション専攻非常勤講師、昭和音楽大学大学院ゲスト講師、美学校作曲講座講師をつとめる。

クラシック音楽が大好きだった父

高山 父親は地方出身の公務員でしたが、クラシック音楽がとても好きで、家にいるときはいつもクラシックの名曲をかけていました。戦前生まれの父は、終戦がもう1年遅れていたら間違いなく特攻隊員になっていたと覚悟していた人なんです。戦後、就職で大阪に出てきて、公民館かどこかで大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏を聴いて大ショックを受けたと語っていました。世の中にはこんなに素晴らしいものがあるのに、それを知らずに特攻で死んでいたかもしれなかったと。

 そういう父に連れられて子供の頃からオーケストラのコンサートに行ったりしていました。それで、あるとき「ピアノが習いたい」と、かなり強硬に言ったらしいんです。中古ピアノを買ってもらって、幼稚園の年長からピアノのお稽古に通い始めました。小学校1年か2年のときに「鉄腕アトム」のテーマ曲を勝手にピアノで弾いたのが、自覚的に「音楽」をした最初の記憶ですね。ピアノは中学3年生になるまで続けました。

 でも、子どもの頃はどちらかと言えば科学少年で、顕微鏡だの望遠鏡だのカメラだのに夢中になった挙げ句、電子工作にはまってラジオをつくり出すんですね。そうすると必然的にラジオを聴くようになる。AMでは夜遅くに洋楽の番組をやっていて、さらに当時は筒美京平を中心に邦楽の洋楽化が進みはじめていて、地元では関西フォークが盛り上がっていました。夜中の2時ぐらいになると、番組が終わって送信所の点検がはじまるんですけど、そのときに流れるのが昔の落語と歌謡曲で、笠置シヅ子の声を聴いたときは衝撃的でしたね。ともあれ、ラジオを通して自分の生活圏にない音楽に触れ、洋楽やフォークに目覚めていきました。

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バンドを経て芸術大学へ

高山 中学に入ると学校にフォークギターを持ってくる同級生がいて、コードを見るだけでジャンジャカ弾いて歌っているんです。対して僕はピアノを習っているのにそれができない。楽譜がないと弾けないの。これじゃダメだと思ってギターも始めたんだけど、よくある話で、Fのコードが押さえられなくて挫折して。結局ピアノでコードネームでの演奏を覚えていきました。

 シンセサイザーに初めて触れたのも中学3年生のときです。同級生にいわゆるお金持ちのお嬢様がいて、シンセサイザーを買ってもらっていたんです。当時は、シンセサイザー1台であらゆる音が出るので、未来では他の楽器は必要なくなるとまで言われていたんだけど、その子の家で開かれた誕生日会でシンセサイザーを弾いてみたら、単音しか出なかった。今から考えると当たり前だけど、その時はこれでどうするんだろうと思いましたね。中学校の後半にはロック全盛になって、ブリティッシュ・ロックやプログレ、ハードロックに夢中になっていきました。

 高校に入ってからは、ひとつ上の先輩に誘われてバンドを組むようになります。僕がプログレのレコードを持って歩いているのを見て「お前はこういう音楽を聴くのか。ならばうちのバンドに入れよ」と声をかけてくれたんです。だけど、学校に軽音楽部がないから部室がないし、いわゆるリハーサルスタジオと言われるものが当時はあまりなかったので、練習環境は悲惨でした。ドラマーが農家の人だったので、そこの納屋にアンプを持ち込んで、僕は幼稚園なんかで使われているようなリード式のオルガンというひどい状況でリハをしていました。

 ただ、当時は洋楽を好きな人も聴く人も少なかった時代で、ロックが好きなだけで仲間という感覚があったんですね。だからレコードの貸し借りもオールジャンルって感じだったし、プログレに限らず、ブルースやアメリカン・ロックなど様々なバンドから、ちょっとピアノ弾いてよ、みたいな感じで呼んでもらうこともあって、それはよかったですね。

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 先輩たちが受験でバンドを辞めた高校2年生の夏、音楽雑誌でバンドのメンバーを募集したら、年上の大学生たちがやっているバンドから声がかかって夏休みの終わりに加入しました。それが2015年に復活・メジャーデビューすることになる「Charisma」というバンドです。入ってすぐにリズムセクションが脱退したので、高校の友人のバンドで叩いていた菅沼孝三を誘いました。その前、彼が中三のときからの付き合いで、生涯の友人となりましたね。

 そんなこんなでバンドは強力になり、東京のレコード会社からも声がかかったりして、このままバンドでやっていけるかもと思ったんですが、自分としてはもう少ししっかりした音楽的基盤を持ちたいと考えたんですね。それで大学で音楽を学ぶために受験浪人することにしました。

 そこしか受けずに入った大阪芸大の音楽学科は、とても先進的なカリキュラムを実施していて、作曲、音楽学、音楽工学の3つを専攻しました。僕はバンドやキーボード購入のためのバイトに忙しく、決していい学生とは言えなかったですが、音楽工学には黛敏郎や諸井誠らと戦後の電子音楽をつくった教授がいらして、現代音楽の電子音楽を学ぶことができましたし、音楽学では民族音楽学や中世教会音楽などの面白さも知りました。結局、音楽学を修了して大学を出たんですが、どの専攻も面白かったです。大学では、先輩に藤本由紀夫さんや宇都宮泰さんがいたり、後輩に小川文明くんがいたりと多士済々で、先生方から教わるだけじゃなく、同級生や先輩、助手の方など、いろいろな人に影響を受けました。

 一方で、大学にはうまいヤツがゴロゴロいて、完全に鼻をへし折られました。僕は大学に入ると同時にジャズピアノを習い出したんですが、そもそも動機が不純で、「クラシックを勉強してジャズも弾けたら、俺、無敵じゃん」と思ってたんです(笑)。それがいかに浅はかであるかをすぐに思い知るんですが。それぞれのジャンルにめちゃくちゃ上手い人がいて、それだけに一生をかけている人がいる。だから僕も自分のオリジナルの何かをつくっていかなきゃいけないんだと思うようになりましたね。

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作曲家として仕事をする

高山 大学卒業後は音楽関係の就職をしましたが、それは食べていくためのバイト的なものでした。ただ、教えることは当時から好きでしたね。卒業後も大阪芸大の仲間と多重録音をしたり、友人のシステム・シンセサイザーを組み合わせて打ち込みをしたりしていると、そのうちシンセサイザー関係で仕事のお呼びがかかるようになります。時代的にMIDIが出てくるころで、大規模な打ち込みが可能になってきました。バンドは上手い人がいっぱいいるので、自分はもう打ち込みでの作曲に転身しようと決めて、バンド用に買ったキーボードを処分して、MIDIインターフェイスや打ち込み機材をそろえました。

 音楽家としてはじめのころは、コンペに応募して仕事をとる形が多かったですね。主にCMやドラマの劇伴、博覧会の音楽といった仕事です。あと、わりと初期から新製品の開発に参加したり、取説を書いたりもしました。「DTM」という言葉はRolandが最初に使った言葉なんだけど、DTMという言葉ができるときの商品開発にも関わっています。「ミュージ郎」という初代のDTMのパッケージに入っているデモ演奏には、僕が打ち込んだ曲が入っていますよ。また、音楽製作ではクライアントワークと並行して、自分の作品をつくってコンテストに応募したり、アートイベントに参加したりしていました。

 そのうち、リットーミュージックさんから『キーボード・マガジン』や『サウンド&レコーディング・マガジン』での執筆を依頼されるようになって。技術的なことも音楽的なこともいろいろ書きました。そういう記事を岸野(雄一)さんが目に留めてくれて、美学校に誘っていただいたんだろうと思います。その頃から教える仕事も増えてきましたね。

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全体を俯瞰してメロディーをつくる「作曲演習」

高山 結局のところ、20代でクラシックやジャズを一生懸命勉強してわかったことは、どんなに勉強してもレッド・ツェッペリンやビートルズみたいな曲はつくれないということでした(笑)。キング・クリムゾンもイエスも、僕が好きだったロックはどこまでいってもその延長線上にはない。このことがわかったのは大収穫でした。じゃあ今度は勉強した方法論を使って、それらの音楽を再構築してみたらどうだろうかと考えた。そしたら、彼らがやっていることが見えてきました。そのあたりのことは『ビートルズ 創造の多面体』(アルテスパブリッシング)にも書いています。

 僕が担当する「作曲演習」は、ポピュラー音楽全般のメロディ作りを学ぶ講座ですが、そうしたロックに関する自分なりの方法論も解説します。ポピュラー音楽の半分くらいは狭義の調性音楽で、長調や短調がはっきりした整然としたコード進行でできていますが、もう半分ぐらいはビートルズ以降のような、狭義の調性ではとらえきれない音楽ですね。それらを含めて、メロディという切り口からポピュラー音楽の世界を捉えようというのが「作曲演習」なんです。

 作曲においては「バランスする」ことがとても大事で、どういうことかと言うと、最初のワンフレーズはなんとなく思いついても、その先、その先と進んでいくと、だんだん道が狭くなっていく感じがして、途中で放棄してしまったりする。あるいは、最初のワンフレーズをとにかく良いものにしなければいけないというプレッシャーに押しつぶされて、最初が出てこないということが起こりうる。

 でも、大体どんな曲でも最初のワンフレーズから良いってことはなくて、「こうなって、こうなって、こうなるからいい曲だ」ってことなんですね。つまり、全体を俯瞰する目を持つことが大事で、そのために楽譜がすごく役に立つんです。しかも、楽譜を書くことはそんなに難しいことじゃない。僕の講座でも、はじめはまったく楽譜を書けなかったけれど、1年後には自分の曲をつくって、それを楽譜にして、コードもある程度つけられるようになった人が大勢います。開講前に、譜面の読み書きのための集中講座を開催するので、楽譜の読み書きができない人も安心して受講してもらって大丈夫です。

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 受講生にまず伝えているのは、何かをはじめたら、それを繰り返すのか、ズラすのか、それとも対象になるようなものを持ってくるのかということ。赤を置いたら、もう一つ赤を持ってくるのか、オレンジを置いてちょっと弱まった感じにするのか、それとも黒を持ってきて赤にぶつけるのか。音楽理論の勉強というと、コード進行の方法や、既存の曲の分析が主流だけど、そういう組み立て方は誰も説明してないなと思って書いた本が『ポピュラー音楽作曲のための旋律法』(リットーミュージック)で、講座ではこの本を教科書にして進めていきます。

 受講生には基本的に毎回ごく短くてもいいので曲を作ってきてもらって、なんでもいいので歌詞もつけてもらっています。「空に(そらに)」というと3つの音だけど、「曇りの(くもりの)」というと4つの音になる。3つの音にするのか4つの音にするのかの手がかりは、音楽の中というより歌詞の中にあるので、それも含めて評価した方がいいからですね。あと、曲は必ずしも作ってこなくても大丈夫。他の受講生の作った曲が目の前で添削されていく様子を見るだけでもとても面白いし、勉強になると思います。俳句の添削をする番組がありますよね。あれなんかを見ていると、自分も俳句をつくってみたいなと思うでしょう?「作曲演習」もそんな感じじゃないでしょうか。

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自分に必要な機能を知る「DTM基礎〜Logic Pro編〜」

高山 「DTM基礎〜Logic Pro編〜」(2026年度10月期開講予定)で扱うLogic Proは、とても多機能なソフトになっていて、付属の音源だけでも膨大な数があります。だから、Logic Proの内容を端から端まで全部やるということは考えていません。僕自身も、楽譜作成機能や打ち込みはよく使っているけど、すべての機能を使っているわけではない。要は、自分にとって必要なところだけを使えばいいソフトなんです。だから、受講生がやりたいことに合わせて授業内容を考えていきたいと思っています。

 とはいえ、多くの人が最初につまづくところとか、これは絶対に知っておいたほうがいい基本操作やキーボードショートカットはあるので、それらは最初に伝えます。Logic Proは音楽をつくるツールだけど、対象となる音楽はクラシカルな映画音楽、クラブミュージック、J-POP、K-POP……と、あらゆる音楽に対応できるようにできています。だけど、一人の人がやりたい音楽はその中のどれかですよね。自分のつくりたい音楽をつくるために、「ここを掘っていけばいいんだな」とわかってもらえたらいいかなと思います。「Logic Proでこんなことができるなら、こういう音楽もつくってみたい」と思うきっかけにもなるかもしれません。

 「作曲演習」でも「DTM基礎 〜Logic Pro編〜」でも、僕がやってみてこれは失敗だったなと感じたことも伝えていきたいと思っています。さっき言ったように「クラシックとジャズをマスターしたら、世界の音楽は俺のものだ」って考えてたのは大きな間違いだったってこととか。つまり、音楽は手段でも目的でもなくて、「問い」であって、その問いの中に自分も巻き込まれていくことなんじゃないか、とかね。そんな感覚を共有しながら、僕が持っているもので良いと思えるものは持っていってもらえたらうれしいです。

2025年9月17日収録
取材・構成=木村奈緒 写真=皆藤将


〈作曲/作詞〉


楽理中等科 菊地成孔 Kikuchi Naruyoshi

▷授業日:隔週水曜日 19:00〜21:30
楽曲の構造を支える『音楽理論』を学ぶ講座です。魅力的なコード進行が、どのような仕組みで作られているのか?ポップスからジャズやボサノバまで、複雑な響きを持つ音楽の構造を読み解き、使いこなすためのスキルを身につけます。


作曲演習 高山博 Takayama Hiroshi

▷授業日:隔週水曜日 19:00〜21:30
楽曲の魅力の源泉ともいえる『メロディ』を作る技術を学ぶ講座です。才能や偶然で済まされがちなメロディの作り方を体系立てて学び、曲作りのスキルを多面的に身に付けます。短いフレーズをつくることから始め、オリジナル楽曲を仕上げていきます。


歌う言葉、歌われる文字 鈴木博文

▷授業日:第四金曜日 19:00〜21:30
歌い、歌われる「歌詞」について学び、作詞を実践する講座です。講師の実際の仕事を具体例とした作詞メソッドの解説と並行して、作詞課題と添削を行う実践的な講義となります。


〈DTM〉


魁!打ち込み道場 numb numb

▷授業日:不定火曜日 19:00〜21:30
DTMによる音楽制作を総合的に学ぶ講座です。シンセサイザーの音作りからビート打ち込みテクニック、サウンドをケアするためのミックスダウンに至るまで、自分の音源をプロのクオリティに近づけていくためのスキルを、一年かけて鍛えていきます。


アレンジ&ミックス・クリニック 草間敬

▷授業日:隔週木曜日 19:00〜21:30
音楽作品のクオリティを決定する重要なファクターである『アレンジ(編曲)』 と『ミックス』を中心に学びます。時代を問わず必要な普遍的な基礎スキルから、より実践的な現在進行形のスタイルに至るまで、各自の音楽作品をより良い形でプレゼンテーションするための技術を身につけます。


DTM基礎〜Ableton Live編〜 yuichi NAGAO

▷授業日:第一、第二火曜日 19:00〜21:30
この講座ではAbleton Liveというソフトを用いてDTMによる音楽制作の基本を学びます。音楽制作初心者の方を対象に、曲作りの基礎知識の学習を通してソフトの操作を習得することを目指します。