物々交換所 第8回「ナカダイ工場巡礼」


 酒井貴史


http://monofactory.nakadai.co.jp/

群馬県前橋市にある中間処理業者ナカダイ。ここでは私達の日常からは到底想像できない『日常をささえる膨大なものの流れ』の一端を垣間見ることができます。 たとえば木材にヤスリをかけたときの「削り屑」は窓の外に捨てれば風に乗って消えてしまうような存在ですが、日本中どこの店でも目にするような商品を大量生産する工場では、「削り屑」は10トントラックで何台分、という量になります。端材や残滓だけではなく、商品の一部として生産されたにも関わらず 様々な理由で未使用のまま不要品となるものもあります。 「誰もが知るありふれた商品」の生産量全体の0.001%の廃棄は数十、数百トンの物量です。 「塵も積もれば山となる」ということわざは小学校で習いましたが、日常を支える物の流れによって作られる塵の山は日常的な尺度では捉えきれない大きさでした。 各々の生産の現場で廃棄物を少なくする試みは行われているものの、新たな製品の開発研究や老朽化、災害等によって築かれる山が消えることはありません。

ナカダイ前橋工場

自転車ブロック鉄ブロックパソコン分解

写真上段「自転車ブロック」、中段「パソコン分解」、下段「鉄ブロック」

様々な企業から運ばれてくる産業廃棄物を分解し素材毎に選り分け、あるものはブロック状に圧縮し、またあるものは破砕機で粉砕する。ここに流れ着き、その意味を洗い落とされた鉄やガラスや樹脂や繊維は新たな意味を与えられるべく次の成形工場へ、あるいは焼却場、埋め立て処分場へとそれぞれ送り出されます。 ゴミとして回収され視界から消えたものはそこで私たちの世界から消滅してしまったようにも感じられますが、物質の循環には終わりはなく、埋め立て処理もある意味貯蔵でしかありません。しかしここ、中間処理場は「物としての意味」の終着点でした。

前橋

陳列棚

陳列棚 http://monofactory.nakadai.co.jp/blog/library/

品川ショールーム

品川ショールーム

品川ショールーム http://monofactory.nakadai.co.jp/shinagawa/

ナカダイのマテリアルライブラリーでは集積物から選別された素材を購入することができます。 ここにはかつてそれが持っていた意味の断片、あるいはいずれ意味が与えられるはずであった空白が陳列されています。 現在では「物の名前」を検索欄に書き込めば大抵の場合その名が示すものの情報を得ることができ、およそこれまで人間が名付け得たものであれば、極めて希少なものや手の届かない遥か彼方にあるものでも既知の世界の内側にあるものとして等しく陳列されます。 しかし断片であること空白であることによって、一時であれ名前を失った検索されざる『未知のもの』が存在するのは、遥か彼方の人類未踏の地ではなく私たちの日常と地続きの場所です。
市場

市場

私たちが過去に哀愁を持つのは、繰り返し記憶を再確認することで生存に有用な情報の整理を行うことができ、人類の先祖の集団の中で『昔を思い出すのが好きな集団』が自然の淘汰に生き延びる確率が高かったためです。

霊長類の中でもヒトだけが持つ『墓所への参拝』という習性は、過去→現在→未来という時系列の概念の獲得によるもので、過去の情報の蓄積を指針に今後の行動を決めるという高度で合理的な能力を保持するためには、死者を埋葬した場所を繰り返し訪れずにいられない非合理な性質をも生み出す「記憶の反芻への欲求」が必要になります。

ヒトがものを作るということを考えるとき「人工物の墓所」への巡礼は、未来の予測のための過去の参照を行う時の拠り所となるかもしれません。


物々交換所

物々交換所はまだ使える不要品を収集して貰い手を探すための場所です。ここに置いてある物は遠慮なく持ち帰ってください。
物を置く時、貰う時にどんな物があるかツイッターでつぶやいてください。もしくは交換所の棚を整理してもらえるとありがたいです。

酒井貴史

kokanjo

1985年10月28日宮城県山元町出身。2009年武蔵野美術大学卒業。現在、物々交換所管理人。詳しくはツイッターから。https://twitter.com/koukanjyo