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「ビジュアル・コミュニケーション・ラボ」を受講して

「ビジュアル・コミュニケーション・ラボ」を受講して


受講生:渡辺直子本間志穂小西佐和
取 材:木村奈緒(美学校スタッフ)
写 真:皆藤 将(美学校スタッフ)
収 録:2017年10月19日 美学校にて


美学校「ビジュアル・コミュケーション・ラボ(以下、VCL)」(講師:斎藤美奈子)は、作品制作を中心に、受講生それぞれがテーマを見つけ、美術作家として創作していくために必要な力を身につけることを目的とした講座です。各人の「興味や関心、あるいは、心のなかにある大切な何かを拾い上げて」(講座紹介文より)、目に見える形にする。それをより明確にしていく。そうした過程を経て出来上がった作品とは、どんなものだったのでしょうか。講座を受講した方々にお話を聞きました。

 

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修了生の皆さん

 


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渡辺 直子(2013、15年度生)

Q1. 美学校を知った経緯を教えてください
10年程前から写真を撮っているんですが、自分の作品をまとめたり発表するにあたってちょっとつまずいている時期があって、何か手助けをしてくれる場所がほしいと思っていました。それで、教室とか美大を探していたら美学校を知ったんです。美大には美大のメリットとデメリットがあると思い、それなら美学校が良さそうだと思いました。

Q2.VCL」を受講したのはなぜですか。
なんとなく「現代アート」がいいなと思っていて、その中でも斎藤先生は優しそうだったのと、講座紹介のページに「ゆるやかなカリキュラム」と書いてあったのが決め手です。講座を知ったのが、後期の授業が始まる1週間くらい前だったので見学はできなかったんですが、急いで入りました。

Q3. 授業について教えてください。
最初の授業では「とりあえず何か作ってみて」と新聞紙を渡されて、私はカツラみたいなものを作りました(笑)。それで、授業の最後にみんなで講評をします。前期は何かしら課題が出るんですが、授業中だけで作るのは無理なので、次回の授業までに何をやるか考えて準備をしていきます。その時みんながやりたいことにも応えてくれるので、ドローイングとかデッサンに興味があると言ったら先生が課題を出してくれたり、本が読みたいと言ったら先生のお薦めのブックリストを出してくれたりもしました。

 

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シリーズ【浮いて、泳いで、こえて行く】
タイトル「Mr.C」(2013)
©Naoko Watanabe

 

Q4. どんなテーマで制作に取り組まれましたか。
昔からプールに浮いている身体感覚がすごく好きで、作品でもその感覚を得たい、表現したいと思って制作をしました。一度、浮いている感覚のときに島の映像が浮かんだことがあったので、VCLを受講する前、島に写真を撮りに行ったこともありましたが、結局はこれまで自分が撮りためてきた写真を見返して、それらを編んでいきました。先生によく言われたのは、「今までこつこつやってきたことをやるならいいけど、展示のために欲張って新しいことをやろうとすると上手くいかないことが多い」ということです。その言葉をいただいて、余計な要素はどんどん削ぎ落としていくことにしました。

Q5. 講師の斎藤先生はどんな方ですか。
生徒がやったことについて、「いいじゃない」って、まず認めて肯定してくれる。それはすごく嬉しかったです。一方で、優しいけどスパルタっていうイメージもあります(笑)。優しく追求していくというか、作品に対してはシビアで手を抜かない印象です。「作品が説明になったら面白くない」とか、先生に「これはどういうこと?」って聞かれて自分でもよく分かっていない状態で説明すると「それで?」の一言だけ返ってくるとか(笑)。私が知らなそうなことは教えてくれますが、怠けて先生に頼ろうとすると厳しいです。でも、斎藤先生が曖昧にしないでおいてくれるから、突き詰めて考えて、その先の展開につなげていけるんです。

Q6. 修了後の活動について教えてください。
修了後も写真は撮り続けています。VCLを受講してみて、先生の口癖がうつったじゃないですけど、「とりあえずやってみよう」と思えるようになったり、まず自分が何をやりたいのかを考えるようになりました。以前は、何人かで展示をするときに、「他の人がこういうことをやっていて、余っているスペースがここだから、ここで何をやろう」って考えがちだったのが、今は「私が何をやりたいか」が最初にあって、それから皆で擦りあわせていくようになったというか。まず、自分が大切なんだと思えるようになりました。

 

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シリーズ【浮いて、泳いで、こえて行く】
タイトル「パーティ」(2011)
©Naoko Watanabe

 

Q7. 受講を検討中の方に一言お願いします。
自分が模索しているときにVCLを受講して良かったなと思っているので、何かに迷っている人にはすごくいいと思います。VCLで得たことのひとつに「自分がしたいことを一番に置く」というものがありますが、すごく小さい話だと、今日のご飯何を食べようかっていうことにもつながると思うんです。VCLでは、作品制作のことだけでなく、生きていく上での考え方の基本を教われると思います。

渡辺 直子(わたなべ・なおこ)
「ビジュアル・コミュニケーション・ラボ」2013年度(後期)、2015年度生。服飾の専門学校を卒業後、社会人写真サークルに入り写真を始める。サークル内外で写真のグループ展や、介護施設でのファッションショー、舞台衣装の製作を行った後に美学校「ビジュアル・コミュニケーション・ラボ」を受講。現在は、オークション会社で事務や商品撮影の仕事を行いながら、写真を使った作品製作を行っている。

 


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本間 志穂(2015年度生)

Q1. 美学校を知った経緯を教えてください。
音大でピアノを学んでいたんですが、どこかで美術を学びたいとずっと思っていました。大学を卒業して出会った美術系の友だちに、こんなところがあるよって教えてもらったのが美学校でした。地元で赤瀬川原平さんの展覧会が開催されていたときに「美学校」という名前を目にした記憶があったので、「美学校ってあの時の場所か」ってつながったんです。それで、美学校のサイトを見て見学に行きました。

Q2.VCL」を受講したのはなぜですか。
いくつもの講座を見学したんですが、斎藤先生がよく話を聞いてくれたことが決め手になって受講しました。話を聞いてもらえたのが、自分の中ではすごく嬉しかったんです。とにかく美術を学びたいという気持ちがあって、サイトに書いてあるカリキュラムが面白そうだったのも受講を決めた理由のひとつです。

Q3. 授業について教えてください。
前期は課題に取り組んで、後期は自分で課題を見つけていきました。とても印象に残っているのが「見せ方」についてで、自分が作ったものをその辺の机に置いて「できました」と言ったら、先生がその机も含めて見ているんです。作ったものだけを見てるんじゃないというのは自分の中では衝撃的で、一番印象に残っています。

 

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《重力》(2016)
©Shiho Honma

 

Q4. どんなテーマで制作に取り組まれましたか。
前期の課題を通じて「言葉や記号を使うのが好きだね」と先生に指摘されました。それまでは無意識でしたが、確かに詩や文章が好きだったんです。それで、作文用紙に自作の文章をくり抜いた作品を制作することにしました。先生は、「どこかに文字をくり抜く機械がないかな」って言ってくれたんですが(笑)、自分の手で一文字一文字くり抜く作業そのものも、私にとっては大事でした。4ヶ月くらいかけて完成させて、展示空間でどうやって見せるかも試行錯誤して、とても勉強になりました。

Q5. 講師の斎藤先生はどんな方ですか。
見た目が柔らかい分、中身は結構鋭いです(笑)。痛いところを突かれてドキッとすることはよくあります。作品の素材に石を使ったときも、自分はなんとなく感覚で石を選んだんですけど、「石の持つ歴史的背景も含めて使うなら説得力があるけど、そうでないと単なる借り物になる」と指摘されて。天井から作品を吊るしたいと空想したときも、現実でねじ伏せてくるというか(笑)。「どうするの?どうやって吊るの?」って。頭で空想しているだけじゃダメで、甘い世界じゃないんだって、先生の話を通じて感じました。すごく有りがたかったのは、受講中も修了後も、私が何かやるときには先生が必ず見に来てくれたことです。今までそんな人はいなかったので、すごく嬉しかったです。

Q6. 修了後の活動について教えてください。
修了展の作品は、自分の中で納得いかなかった面もあったので、その作品を発展させて制作したり、授業で試したものを実際に作品として形にしたりしています。なんだかんだ言ってVCLで得たことが何か作るときの土台になっているので、迷ったときはそこに戻って制作しています。「自分の中にないものでは作品は作れない」と先生に言われたので、小さい頃から続けてきた音楽から出発して作品を作ることもあります。

 

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《彼方》(2017)
©Shiho Honma

 

Q7.受講を検討中の方に一言お願いします。
受講を迷っているとき、先生に「進路に迷ったりモヤモヤしている時には、余計な雑音は遮断して、手を動かすことに悩む方に移った方がいい」って言われたんですが、受講してみて本当にそうだなと思いました。作品を通して悩んでいく方が絶対に面白いです。先生はとてもよく話を聞いてくれるので、少しでもひっかかるものがあれば、ぜひ先生と話してみてください。

本間 志穂(ほんま・しほ)
「ビジュアル・コミュニケーション・ラボ」2015年度生。現在は働きながら創作、表現活動を行う。主な活動歴に、舞台「中也×おんがく」(2015、2016年)企画、個展「静かな変奏」(ギャルリイグレグ八ヶ岳/ 2017年)、劇団ゲッコーパレード「リンドバークたちの飛行」一部分演出として参加(旧加藤家住宅/島薗邸2016、2017年)。音楽会の企画やインスタレーション制作など分野を限定しない姿勢で取り組んでいる。

 


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小西 佐和(2014年度生)

Q1. 美学校を知った経緯を教えてください。
会田誠さんのツイッターをフォローしていて、「美学校」ってちょくちょく出てくるなと、興味を持って調べたのがきっかけで知りました。専門学校で靴作りを学んで、卒業後も靴作りの仕事をしていたんですが、クライアントワークにストレスを感じはじめて、自分のために何か作りたいと思うようになったんです。週1ペースで通える美学校ならいいなと思って説明会に参加しました。

Q2.VCL」を受講したのはなぜですか。
説明会では、とにかく一度見学したほうがいいと聞いてVCLを見学しました。ガツガツの現代美術ではなく、なんでもできそうと思えたのと、斎藤先生とお話して感じた緩さがいいなと思って受講を決めました。

Q3. 授業について教えてください。
私は後期から入ったので、すでに他の受講生が前期にやった課題から始めました。当時は受講生が私を含めて3人だけで教室が使い放題だったので、廃材で何かを作る課題のときには、河原で集めてきた雑草やゴミを教室に吊るしたりしました。草を吊るしてみたら結構いいなと思えて、そのアイディアは修了展でも活かすことができました。課題によって、自分が全然目を向けなかったところから自分の好みを発見できたのは良かったです。課題に取り組みながら、他の受講生への先生のフィードバックを聞くのも勉強になったので、美学校に来て良かったなと思いました。

 

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《夢》(2015)
©Sawa Konishi

 

Q4. どんなテーマで制作に取り組まれましたか。
修了展では《夢》と《幼年期》という作品を制作しました。《夢》では、オーガンジーで作った子供服と枯れ草を天井から吊るして、子どもの幽霊が飛んでいるような光景を作りました。《幼年期》は、子どもの頃の写真を瓶に入れてハチミツ漬けにした作品です。いずれも幼年期がテーマになっているのは、課題や先生との話を通して、自分が内面から作品を作るタイプだと気づいたからです。自分の記憶や過去に使っていたもの、家族に関するものを使って制作することが多かったんです。それで、幼年期をテーマに制作することにしました。《幼年期》は、おばあちゃんがよくジャムを作ってくれたこともあって、最初は写真のジャム漬けだったんですが、ジャムだと写真がよく見えなくて(笑)。やっぱり作品の見せ方が大事なんだと気がつきました。

Q5. 講師の斎藤先生はどんな方ですか。
思ったより厳しかったです(笑)。インスタレーションの見せ方ひとつとっても、「美学校だからできません」という言い訳を許さない感じがあって。でも、常に展覧会場に近い空間を作ることで、修了展もシミュレーションできたと思います。一番堪えたのは、メールで先生と作品に関するやり取りをしていたときに「もっと自立した方がいい」と言われたことです(笑)。本当にその通りだったんですけど、自分の本質的な部分に刺さる一言で、自分を見つめなおすきっかけになりました。アートと向き合うということは、自分の隠しておきたい部分に触れざるを得ないということなのかな、と。後で先生に聞いたら、「そんなに大した意味はなかった」と言われましたが(笑)。私が迷走していたときには、「小西さん、こういうの好きなんじゃない」と言って、私が全然知らない作家や写真集を紹介してくれたりして、すごく影響を受けました。斎藤先生との対話は、カウンセリングを受ける感覚に近いです。

Q6. 修了後の活動について教えてください。
修了展で自分のモヤモヤを吐き出して少しスッキリしましたが、同時に、自分は作品を作るタイプじゃないとも感じました。自分はアートを支える仕事がいいんじゃないかと思ってアートマネージメントを学んだり、今も美術館のボランティアをしたりしているんですけど、それはそれで自分にぴったりくるわけでもなくて……。そんなときにVCLのOB展(「『10+』〜美学校ビジュアル・コミュニケーション・ラボOB展〜」)の話をいただいて、思い切って参加することにしました。半ば無理やり自分を「作るモード」に持っていくことで、やっぱり作るのは楽しいし面白いと思えるようになりました。これもVCLのつながりのおかげです。

 

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《幼年期》(2015)
©Sawa Konishi

 

Q7. 受講を検討中の方に一言お願いします。
何をやりたいかは決まっていないけど、何かやりたいんだっていうモヤモヤしたものを抱えている人――VCLに入るときの私なんですけど――にお薦めです。先生に話を聞いてもらったり、ここで何かをやったりすることで、やりたいことが見つかると思います。映像をやりたいとか、デッサンをやりたいとか、明確に決まっていないモヤモヤタイプの人にお薦めしたいなって自分の経験から思います。

小西 佐和(こにし・さわ)
「ビジュアル・コミュニケーション・ラボ」2014年度生。福祉作業所でのアルバイトの傍ら、靴とアクセサリーの製作販売を行う。東京都美術館アート・コミュニケータ「とびラー」5期生。個人史と歴史とのかかわりや、身に着けるものへの関心をもとに作品を制作している。2018年1月に個展(GALLERY BROCKEN)開催予定。https://konishisawa.tumblr.com/


 

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