コード進行の謎に迫る!バークリーメソッドで読み解く楽曲分析
第7回:小袋成彬『E.Primavesi』『GOODBOY』を分析!



2018年の夏は暑かったですね!そんな猛暑をよそに、ネット中継によりクーラーの効いた自宅でフジロックが観られる良い時代になりました(笑)。
 
今回は、2018年のフジロックにおいて極限まで削ぎ落とされたセットながら圧倒的な歌唱力によるパフォーマンスが話題になった小袋成彬氏のアルバム『分離派の夏』から2曲を取り上げて分析してみたいと思います。
 

同じ構造から始まる2曲がそれぞれどのように展開しているか比較しよう


今回ピックアップするのは『E.Primavesi』と『GOODBOY』の2曲。
まずは音源を聴いてみましょう。
出てくるコードの数を意識しながら聴いてみてください、
 

 
パッと聴いた際の印象として、コードの数と聴感上の印象は以下のようなものではなかったでしょうか。
 
・平歌部分→コードの数が少ない。(=停滞感)
・サビ→コード増える。(=曲が動く、進行感)
 
上記の特徴のうち平歌部分に注目してみましょう。
シンプルながらも浮遊感のあるこれらのサウンド、いずれも同じ構造をもっており、以下のような動きになっています。
 
Ⅰ△7 ♭Ⅶ△7
 
同じコードが全音で動く、メジャーセブンの平行移動というかたちですね。
 
 

便利な平行移動を歌ものの中で活用しよう


そもそもコードの平行移動とは、同じコードのままズルっと移動させるという動き。手軽に弾ける上に転調感が得られて簡単にかっこ良くなるという非常に便利なアプローチです。ビートメーカーの方は、サンプリングしたコードをサンプラーに突っ込んで鳴らす状態を思い出してもらうと分かりやすいでしょう。
 
単にコードを同じ形のまま動かすだけなので、コード進行や展開が少なくてもOKなダンスミュージックなどでは手軽に実力を発揮できるでしょう。
 
ではそれを歌ものの中で用いる場合どうでしょうか。
平行移動はダイアトニック的な調性重力を薄める力があり、2発動かせばそこには完結した動きの魅力が生まれます。そのある種停滞した状態が単純に気持ちよいが故に、「次をどう展開させよう…」と迷ってしまうこともありそうです。
また、メロディをどのようにつけていこう?というのも曲作りにおける楽しいながらも悩まされるところだと思います。
楽理を知らない方でも手癖で扱える平行移動ですが、それをきちんと使いこなしていくには、元キーとの関係などをきちんと把握していく事が重要だということですね。
 
では、名曲のアプローチから研究しようということで、このメジャーセブンコードの全音での平行移動に関するアプローチ、それぞれの曲についてみていきましょう。
 
 

『E.Primavesi』を分析!


Key=Eで、平歌ではこの2発が繰り返されます。

Ⅰ△7 ♭Ⅶ△7

長7度が分散して鳴らされるので平行移動感がより強調されたアレンジになっていることに注目です。
上記に加えて「新宿アルタビジョン〜」あたりでは♭Ⅱ△7が、「一人じゃ笑わないのを〜」あたりでは♭Ⅲ△7が挿入され、ちょっとしたフックになりつつサビへ移る予備動作的に機能します。
 
 
・そもそも♭Ⅶ△7って何?
さて、平行移動で出てくる♭Ⅶ△7というダイアトニック環境にはないこのコード。これをどう位置づけるかが今回のポイントですが、私はこれをモード的に解釈します。
すなわち、元キーからみればミクソリディアンモードの7番目のコード/♭Ⅶからみるとリディアンモードの1番目のコード、と捉えます。
このあたりはコード単体で考えるのではなくメロディやベースとの関係と併せて考えていくとよいでしょう。
 
 
・メロディに注目
シンプルな平行移動はそれ単体に加え、メロディとの関係によってその魅力が大きく左右されます。この曲の場合、主音を中心に動くので安定感がありつつも、コードチェンジによりメロディとの関係性が変わるので複雑な味わいを醸し出しています。
♭Ⅶ△7の際に♯11thのテンションが鳴らされることでリディアン感もうっすら感じ取れ、曲の浮遊感を良い具合に助長するメロディラインになっています。
シンセのふわっとした音色とも相まって、『落ち着きながらも浮遊感がある』曲の空気を作り出す事に成功していると言えるでしょう。
 
 
・サビでどう展開させる?
 
【サビの進行】
 
どうせ酔えない美酒〜
Ⅵm7 Ⅲm/Ⅴ Ⅴm7 Ⅰ7
その瞳の奥を〜
Ⅳ△  Ⅲm/Ⅴ Ⅴm7 Ⅰ7
[※繰り返し]
 
ただ眺めていた
Ⅵm7 Ⅲm/Ⅴ Ⅴm7 Ⅰ7
 
時に責めてみた
Ⅳ△ Ⅳm△7 Ⅴm7 Ⅰ7
 
 
難しい事はせず、平行短調の中心であるⅥm7にガッと飛んでいます。
それまでが浮遊感&停滞感があったので、このくらいシンプルにダイアトニックの世界に戻ってきても分かりやすくて良い感じに。Ⅵm7に対して二次ケーデンスなどでアプローチするのも手ですが、この曲の場合、装飾的なコードでキレイにまとめすぎるといわゆる普通のJ-POPのようになってしまい逆効果となる可能性が高そうです。R&Bのクールな感触を保つには、現状の♭Ⅲ△7からⅥm7というざっくりしたコードチェンジの方がベターでしょう。コード進行で説明するよりも小袋氏の歌唱力が曲の推進力だというところでしょうか。
以降はⅤm7ーⅠ7の二次ケーデンスなどを用いながら切ない雰囲気で曲が進んでいきます。『時に責めてみた』の部分で一瞬入るⅣm△7が効いていますね。
 
 
 

『GOODBOY』を分析!


続いて『GOODBOY』のコードをみていきましょう。
同じ平行移動をどのように扱っているか聴き比べてみてください。
 
こちらの曲のキーは先ほどより半音低いE♭。平歌では同じく以下の2発が繰り返されます。一発目のテンションノートと、繰り返されるスパンの長さに注目してみてください。。
 

Ⅰ△7 (9) ♭Ⅶ△7

 
・メロディに注目
メロディの歌い出しの音が9thのテンションから始まっているので、いきなりいい感じの響きです。先ほどの『E.Primavesi』の歌い出しと比べると、コードに対するメロディの『浮き具合』が異なることが感じられると思います。
また、この曲はコードチェンジのスパンも長いですね。E♭△7(9)のコードでじっくり停滞させ、そのモードを聞き手にしみ込ませた後に、曲全体の世界が全音下の♭D△7にガクっとずり落ち、最後にまたE♭△7(9)に上昇して爽やかに繋がっていく…というイメージです。
 
 
・サビでどう展開させる?
【サビの進行】
 
磨りガラスを〜
Ⅳm7 ♭Ⅶ7 Ⅰ△7
I’m a good boy〜
Ⅳm7 ♭Ⅶ7 ♭Ⅲ△7 ♭Ⅵsus4
騒いだり冷めたり〜
♯Ⅳm7 Ⅶ△6 ♭Ⅱ△9
 
 
モダンなR&Bでは王道のⅣm7→♭Ⅶ7→Ⅰ△7という変形のケーデンスに接続されます。ドミナント7thの全音上のメジャーセブンに解決する動きで、特に00年代のR&Bでこの進行のヒット曲多かった気がします。
注目すべきは3段目。半音上で同じケーデンスを繰り返したのち、E△9に着地。で、そのままキーがEに転調したまま二番へ移行します。
 
一番を敢えて半音下のキーから始めることで、二番で半音上に転調してそのまま気持ちよくエンディングへ、という全体の設計が面白いですね。曲の尺自体が短いので、こうしたギミックが上手く機能しているように思います。
 
 

ということで今回の分析、如何だったでしょうか。
今回は2曲を比較しながら、メロディや全体の構成もふまえて分析するという試みをためしてみました。
 
同じ『メジャーセブンの平行移動』という基本構造をもちつつ、『それを如何に展開させるか』『どんなメロディを載せるか』『どういうサウンドでプレゼンテーションするか』によってアプローチの引き出しは色々増やしていけることが感じられたと思います。
 
「この解釈はこうした方がよいのでは」とか「こんな曲の分析してほしい」等々、是非本校Twitterまでご意見ご感想などなどお寄せくださいませ。
 

 


〈作曲〉
Kikuchi Naruyoshi

▷授業日:隔週水曜日 19:00〜21:30
楽曲の構造を支える『音楽理論』をゼロから学ぶ講座です。魅力的なコード進行が、どのような仕組みで作られているのか?ポップスからジャズやボサノバまで、複雑な響きを持つ音楽の構造を読み解き、使いこなすためのスキルを身につけます。

Takayama Hiroshi

▷授業日:隔週水曜日 19:00〜21:30
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