未経験・初心者を対象にリトグラフの初級講座を開催します。初級1(10月〜12月)では石版画によるリトグラフを、初級2(2月〜3月)ではPS版を使った写真製版によるリトグラフを学びます。
初級1「石版画によるリトグラフ入門」[終了]
開催期間:10月20日〜12月8日
この技法は1798年にドイツのミュンヘンで発明されました。ドイツ、バイエルン地方で採掘された石灰石を版材として、水と油の反発作用を利用して制作する版画です。版を作るためには薬品等を使う化学的な技法です。版面を彫ったり腐食させたりしません。平らな石の上に描画材料を使い直接描いていきます。石版画は他の版種(銅版・木版)等の様なマチエールはほとんど表現出来ません。しかし、石の上に描画材で自由に描いたものを忠実に紙に写し取ることができます。淡い調子、解き墨による濃淡の表現等をも刷り取ることが可能です。表現者の手と脳に対して、とても正直に反応する版画だと考えます。石に描画する楽しみ、描いた物が紙に写しとられる面白さなどを感じることができます。
初級2「PS版(写真製版)によるリトグラフ入門」
開催期間:2月2日〜3月22日
PS版は、オフセット印刷で使われており、アルミ版に感光剤を塗布したものです。(市販されているものを使うとすぐに版を作ることができます。)フイルムをPS版に貼り付け、焼き枠で感光させ、その後、現像液に浸し、水洗いして版が完成します。石の版やアルミ版のように化学変化させる時間は取らなくてよいので、できた版は、すぐ刷りに入ることができます。フイルム作成については簡便な方法として、マットフイルムやトレッシングペーパーにダーマトグラフの鉛筆や製図用インク、オペークインク、リトクレヨンなどで描画します。また、カッティングしたものやスクリーントーンを貼り付けたり、写真のコピーをコラージュしたりして、作成することもできます。PS版自体は薄くて取扱いやすく、最大60cm×70cmくらいの画面作成まで可能です。フイルムさえ用意すればすぐ作ることが出来るため、たくさん版を作り、色を重ねる多色刷りに向いています。色を重ねることによって、思いがけなく生まれるテクスチャーを追求することもできます。
※リトグラフについてより詳しく知りたい方は、「リトグラフ(石版画)工房」のページをご覧ください。
版画制作は、イメージを版に描き、それを複数化するために印刷をするというところから出発している。印刷されたイメージはできるだけ同じものであり、何枚刷ったというエディションが付けられる。出版としての版画である。手軽にイメージを作品化し複数印刷可能な時代に生きている。そういった状況の中で、あえて創作の方法として、版画制作を選び取る理由は何か?
「版を使って、コピーではない、オリジナルな作品を作れる」と考えているからだ。版画制作には、あいまい性と肉体性があると思っている。自分の考え通りではない別のもの、見えにくいもの、自然とかいろいろなものとつながった力を借りることができるのではないだろうか。版を含めて自分以外の要素とのぶつかり合いが直接自分の身体を通過したとき、思った以上の何かをつかみ取ることができるのではないか。身体性でいえば、鉛筆を直接手で持って描くことで画面の暖かみを感じたり、いろいろな持ち方でタッチの違いを出せることに気付いたりする。墨にしても、にじみをつくるには自然の力を借りるのだ。色もインクを混ぜ、自分の思う色を作り、刷ってみて、混ぜない原色のインクの透明感を知る。一つ一つの小さなことを五感を通して、発見することが制作の上で重要なことだ。
リトグラフは版画技法の中では最も絵画に近い。版に直接描いたものが版になり、刷られて、リトグラフとなる。版に描く、キャンバスに描くという直接描くということが同じでも、「版」という媒介項があるということが最大に違うことである。
リトグラフは水と油の反発作用を利用して、刷るため、アラビアゴム液等を使って版に化学変化を起こす。薬品や器具や機械の扱い、技法や知識が必要となる。そういったものが介在するため、計算されえない「版」の力がある。自分が考えたことだけではなく、向こうからやってくるものがある。立ちあがってくるものがある。それをキャッチし、受け止める力が必要になる。それには、訓練がいる。自分以外の要素が入るので、うまくいかなさも含め、版という外部の力を借りて、自分の思い通りにするのではなく、自分の思ったことをきっかけにして、思った以上のことができる可能性があると思う。自分にコントロールできない部分とも、関わって。「余分」「余計なところ」に関心を持つことが予想もしなかったことを引き出してくる。
手や機械や薬品を使って、刷っていくと「ああしたら」「もっとこうしたら」と限りなく出てくる。何回も何回も刷ってみる。ほんのわずかなところで、別のものを見ることができる。いつまでやっても飽きない深さや巾がある。「刷る」という身体の行為がきっかけとなって場が広がり、息づく空間ができる。リトグラフには色の美しさ、透明感、輝き、強さがあると思う。インクの顔料は油絵の具と同じ亜麻仁油系で、色が重なって透明感や強さが増す。私自身は、金属版で、色を重ねることで作品を作ってきた。刷って出た色がまだ弱いと思うと、またインクを載せて刷る。もう一度、もう一度。そうして輝きをつかまえたい。作品が奥から輝いてくるのが好きだ。そして、空間の中、光で、時間で変化する印象を持つことの出来る作品を作りたいという願いがある。
「版画とは芸術表現の不思議の実験室」(李禹煥)
「作家が知りえたものを描き写すのではなく、表現しつつ知るのだ」(李禹煥)
講 師:佐々木良枝、増山吉明
日 程:
初級1「石版画によるリトグラフ入門」[終了]
2015年10月20日、27日、11月3日、10日、17日、24日、12月1日、8日[毎週火曜/全8回]
初級2「PS版(写真製版)によるリトグラフ入門」
2016年2月2日、9日、16日、23日、3月1日、8日、15日、22日[毎週火曜/全8回]
時 間:13:00〜17:00
場 所:美学校 本校(地図) 東京都千代田区神田神保町2-20第二富士ビル3F
受講料:初級1/50,000円(材料、消耗品費込み)
初級2/50,000円(材料、消耗品費込み)
定 員:6名(先着順)
作業行程
・石版画によるリトグラフ入門
1日目
石版画の説明
●作品制作1
石版石磨き リトグラフ用クレヨンを使用した描画
2日目
刷り
3日目
●作品制作2
2版を使った多色刷り
リトグラフ用クレヨン/リトグラフ用解き墨を使用した描画
4日目
刷り
5日目
●作品制作3
2版を使った多色刷り 石版石磨き 1版目描画
6日目
刷り
7日目
2版を使った多色刷り 石版石磨き 2版目描画
8日目
刷り 作品発表
・PS版(写真製版)によるリトグラフ入門
1日目
リトグラフ・PS版の説明
●作品制作1
マットフィルムに描画
2日目
PS版焼き付け、現像-版作成
刷り
3〜6日目
●作品制作2
3版を使った多色刷り
7日目
●作品制作3
60×70cmの作品制作(大きい画面)
8日目
刷り 作品発表
リトグラフによる作例
▷授業日:毎週火曜日 13:00〜17:00
石や金属の版の上に脂肪分を含んだ画材で、自由に描いたものを版にすることができ、ドローイングや自由な描画、筆やペンで描いた水彩画のタッチを出したり、色を重ねることによって複雑な色合いを出すことができる技法です。