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多数の方からご好評と視聴期間延長のリクエストをいただき、アーカイブの視聴販売を一週間延長することが決定しました。
販売期限は5月15日(土)23:55
視聴期限は5月16日(日)23:55
となります。
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実作講座「演劇 似て非なるもの」の8期生の修了公演と、ゲストによる二公演を開催します。公演は無観客にて上演し、記録映像を5月3日から5月9日までオンライン配信します。
また、5月5日には8期生、ゲスト、講師によるオンライントークを開催します。トークの録画は9日まで視聴可能です。ぜひご視聴ください。
今期第8期生の修了公演は朗読詩人の五十嵐五十音さんによる『右腕について』。
ゲスト公演は、哲学者で、近年は舞台で踊られたりもしている荒谷大輔さんによる『ともにゼロ地点に立つ』、そして今年2月末に写真と文による『これで最後』を出版された根本美咲さんが同作を上演してくださいます。
そして5月5日にはZOOMにて8期生の五十嵐さん、加戸寛子さん、ゲストの荒谷さん、根本さん、講師の生西でトークを行います。
参加申込みをされた方には上演作品の視聴URLとトーク参加URLをお送りします。公演とトークは5月9日まで視聴可能です。
今期は昨年の6月から受講生の五十嵐さんとオンラインで始まりました。
オンラインというか実際は携帯電話で、五十嵐さんとは毎週3時間以上にわたって話し続けました。
この一年、間違いなく一番長い時間話した相手は五十嵐さんでしたし、長電話という文化?を懐かしく思い、亡くなってしまった電話魔の友人のことを思い出したりもしました。声というメディアはどこか懐かしさ、過去から聞こえてくる声をはらんでいるような気がします。誰よりも長い会話を続けた五十嵐さんですが、今年の2月にある公演を観に行った時、彼に声をかけてもらうまで顔を知リませんでした。顔も知らない相手と親しく多岐に渡る会話を続けてきたわけです。
開講前、オンラインでの開催と決めた当初からビデオ通話ではなく通話のみにしたいと思っていました。スマホやパソコンのモニターを通して会うよりも、声だけの方が相手に会うことに近いのでは無いかという直感からでした。
秋からの追加募集では、せっかくオンラインでの開催なのだから通常では受講が難しい地方在住の方が受けてくれたらと思っていたら、自分の予想を超えてスイス在住の加戸さんが参加してくれました。
それからは、それぞれと一対一で話したり、一緒に3人で話したり、時にはゲストも交えてと、とにかく長い長い時間話をしました。もしかしたら、実際に会っていたら話せないようなことも、直接会えてはいないお二人とは話せたかもしれません。今とても貴重で不思議な時間を共有している気がしています。
さて五十嵐さんの作品『右腕について』は当初はオンラインで声と音のみで上演することを考えていました。五十嵐さんの作品をオンライン上で何度かは僕ひとりで、時には加戸さんやゲストの方と一緒に聞かせてもらいました。彼がライブで朗読している声がメインですが、予め録音された彼の声や、フィールドレコーディングで撮られた現実音や、もしかしたら彼がいるその場で聞こえている音、それらが渾然一体となって境が分からなくなるような強い体感を伴った演劇作品です。当初は観客と一対一で行う上演を考えていましたが、今回は配信用に五十嵐さんがオブジェを操り映像化してくれることになりました。五十嵐さんは映像ディレクターをされているので、今回は強烈な朗読に映像が加わったらどうなるのか、なおのこと楽しみです。
ゲストで上演してくださるのは荒谷大輔さんと根本美咲さんです。
荒谷さんは哲学者です。ジャック・ラカンや西田幾多郎についての本も出されています。
僕は今年3月3日ザムザ阿佐谷に荒谷さんが参加されているリトルネロ・ファクトリーの第二回公演『瀕死の白鳥は午睡の夢を見るか』を観に行きました。冒頭の荒谷さんがソロで踊られているシーンから度肝を抜かれて、その1時間弱の公演の間、彼から目が離せなくなってしまいました。僕が受けた衝撃の強さというのは何だったのか、何故そんなにも惹きつけられてしまったのか。舞台上の荒谷さんの存在はすごい圧の強さでした。人間というものの悲しみを一身に引き受けているようでもあり、そこには慈愛のようなものすら感じました。荒谷さんは当日パンフレットにこう書かれています。
生きながら死ぬことはできるでしょうか。
(‥)
「生」には2つの側面があります。社会の中に位置づけられるような「意味のある生」と、そうした「生きる意味」とは無関係に単に生きることの2つです。死と対立するのは「意味のある生」の方で、社会と無関係に単に生きることは「死」と対立するものではないと思われます。
(‥)
今回はそうした「生きながら死ぬこと」を舞台上で実演できないかと思いました。
舞台上の荒谷さんから、これまで受けたことのないような感動を覚えました。正直に言うと感動したというよりも、動揺してしまったという方が近いかもしれません。後日、ごく個人的に荒谷さんと出演者の一人であった福澤香織さんにオンラインでインタビューさせて頂きました。
いろいろお話を聞かせてもらったものの、やはり自分が観たあの踊りの衝撃の謎は解かれないままです。
今度はソロでの荒谷さんの踊りを観てみたいと思い上演をお願いしました。
(さらに謎に絡め取られる可能性が高いですが)
根本美咲さんは今年2月末に写真と文による本『これで最後』を出版されました。素晴らしい装丁は鈴木健太くんで、SNS上でこの本のことが告知された時から強く気になっていて、ご本人に早々と1冊予約をお願いしました。
亡くなった「じいちゃん」のこと、彼女が働く児童館で出会った発達障害のある子どものこと、
時間が行ったり来たりしながら、ごくごく個人的なことが綴られ、写真が撮られている。
とても個人的であるからこそ、この本に僕は胸を打たれました。
余白が多く、黒味のページまである構成がまた素晴らしくて、
決して長くはないこの本をじっくり読み通すと、まるで一つの舞台をみたような充実感がありました。
根本さんの文章はエッセイのようで、詩のようでもあり、時には戯曲の台詞のようでした。
この本を根本さん自身に上演してもらったらどうだろうか!というアイデアが閃いて、お願いしたら快諾してくれました。後で知って驚いたのは、この本はたった20部しか作られなかったということです。
根本さんは多くの人に見て欲しいという気持ちはなかったと言いました。
その20冊しかないうちの一冊を受け取り、感銘を受けたこの本を上演という形で、新たに根本さんに息を吹き込まれ、これまた多くの人間ではないかもしれないけれど、新たにこの本の世界に触れる人が増えたら、とても嬉しいことです。
ところで五十嵐さんと6月からほぼ毎週続けた長い長い会話の中で印象に残った言葉は、
演劇でやりたいと思っていることは社会の外に出ることだ、ということでした。
社会の外に出るということは、それがお金に還元されるようなものではいけないということ。
言ってみればそれは世間的にはあえて無価値でいるということです。
荒谷さんの「生きながら死ぬこと」こととは何なのか。
今回の即興での踊りにタイトルをお願いしたら『ともにゼロ地点に立つ』と付けてくださいました。
ゼロ地点に立つこと。それはきっと社会的な属性を剥ぎ取った状態で踊り、剥き出しの生そのものとして存在するということです。そして見るということは見たものと無関係ではいられなくなるということです。
荒谷さんの踊りを目撃した人間も自ずから共にゼロ地点に立つことになるでしょう。
五十嵐さんの言う「社会の外に出る」ということ、荒谷さんの言う「生きながら死ぬこと」は、
とても近いことを言っているのではないでしょうか。
そして、かなりの時間をかけて制作したものを、たった20部しか本を刷らなかった根本さん。
彼女もまた二人と似た魂を持った人のような気がしています。
最後になりましたが、今回は上演ではなくトークにのみ参加予定ですが、受講生の加戸寛子さんはスイス在住のYouTuber。スイスの大学院で文学を研究し、好きな映画について率直に語り続け、パトリス・ルコントにインタビューも敢行する。彼女は情熱と行動の人です。
五十嵐さんと加戸さんの共通点は詩人であるということ。
詩人であるということはどういうことでしょうか?
ぜひ、上演とトークをご覧になって頂けたらと思います。
(生西)
実作講座「演劇 似て非なるもの」第8期 オンライン公演とトーク
◎オンライン公演
公演作品:
五十嵐五十音『右腕について』
荒谷大輔『ともにゼロ地点に立つ』
根本美咲『これで最後』
日 程:2021年5月3日(月・祝)〜5月9日(日)
販売期間:5月10日(月)〜5月15日(土)23:55
アーカイブ視聴期間:5月10日(月)〜5月16日(日)23:55
形 式:録画配信(VIMEO)
◎オンライントーク
出 演:五十嵐五十音(8期生)、加戸寛子(8期生)、生西康典(講師)
ゲスト:荒谷大輔、根本美咲
日 時:2021年5月5日(水・祝)17:00〜19:00(※5月9日までアーカイブ視聴可)
販売期間:5月10日(月)〜5月15日(土)23:55
アーカイブ視聴期間:5月10日(月)〜5月16日(日)23:55
形 式:録画配信(VIMEO)
料 金:1,000円(公演とトークセット)
申込み:https://engeki-nitehinarumono-2021-archive.peatix.com/(peatix)
- スマートフォン、パソコン、タブレットなどのご使用端末やご自宅のインターネット環境でVIMEOの視聴やZOOMの使用ができることをご確認の上お申し込みください。
- お客様都合でのキャンセルは承っておりません。
第8期生修了作品
五十嵐五十音 『右腕について』
テキスト・朗読・映像:五十嵐五十音
「右腕を切られて失ったが、左腕はまだある。」というフレーズがメモ紙に残っていて、たぶん10年前ぐらいに思いついた気がするフレーズで、それがどんな事を言うための言葉だったのかは忘れてしまいましたが、それをテキストに延長して、声に出して読んで、映像を付けて、演劇にしました。
五十嵐五十音 Gojuon Igarashi
1980年生まれ。朗読詩人。
美大を卒業後、会社員を経て、現在はフリーランスの映像ディレクター。
ゲスト作品
荒谷大輔 『ともにゼロ地点に立つ』
身体:荒谷大輔
photo by bozzo
あなたがこれまで何をやってきたかは、問題ではありません
誰でも、いつでも、どんな状況にあっても、ゼロ地点に立ち返ることだけはできます
それは、積み上げたものを手放すだけのことですから
完全に平等で、誰にでも与えられている可能性
世界の崩壊や自己の破滅を望まなくても、隔たった他者との関係が、そのまま救済になるでしょう
その快楽をお伝えするため、ゼロ地点を提示してみたいと思います
荒谷大輔 Daisuke Araya
江戸川大学基礎・教養教育センター教授・センター長。専門は哲学/倫理学。主な著書に『資本主義に出口はあるか』(講談社現代新書)、『ラカンの哲学:哲学の実践としての精神分析』(講談社メチエ)、『「経済」の哲学:ナルシスの危機を越えて』(せりか書房)、『西田幾多郎:歴史の論理学』(講談社)、『ドゥルーズ/ガタリの現在』(共著、平凡社)など。日本文藝家協会会員。近年、演劇の脚本やダンス作品のドラマトゥルクを担当したり、自分で踊るようになりました。
根本美咲 『これで最後』
写真・文・朗読:根本美咲
今年の2月に本をつくりました。撮りためた写真と、日々の瞬きの中でたまに思い出す、もう会えない人たちについて書き留めていた文章を纏めた本です。生西さんにお誘いいただいて、上演することになりました。実作講座「演劇 似て非なるもの」には縁あって、2016年の夏に大学の先輩である鈴木健太くんに声をかけてもらい、4期生の公演で照明や受付として場づくりのお手伝いをしたり、6期生の太田七海さんの作品に出演したりしました。ここでは誰にでもできそうだけど私にしかできない役割みたいなものを与えられているような気がします。今回も私が今できることをやろうと思っています。
根本美咲 Misaki Nemoto
1993年熊本生まれのおとめ座。
絵を描くのが得意な子どもでした。今は都内の児童館で働いています。韓国のアイドルが好きです。チャームポイントは癖毛。占い師に手相を見せたら「地上にいることが奇跡」と言われたことがあります。
ゲスト作品制作スタッフ
撮影・編集:綾野文麿 Fumimaro Ayano
照明 他:小駒豪 Go Ogoma
音響(根本作品のみ):長尾悠市 Yuichi Nagao
協力:鈴木健太 Kenta Suzuki 他
加戸寛子 Nobuko Kato
ビジネス・スクールの後、外資系企業で財務部長など歴任。現在、スイスの大学院で比較文学の勉強中。YouTubeで映画レビューをしています。将来はインタビュー(英語、フランス語)や、エッセイ、詩をもっと書きたい。フランス語を上達させたい。短編映画もつくりたい!
Nobi Nobi Movie https://www.youtube.com/channel/UC-wMJyFGmJoNCTJpqCaLApw?view_as=subscriber
Twitter https://twitter.com/NobiNobiMovie
生西康典 Yasunori Ikunishi
1968年生まれ。舞台やインスタレーション、映像作品の演出などを手がける。
作品がどのようなカタチのものであっても基本にあるのは人とどのように恊働していくか。
近作は、その日集まった人たちと、その場でつくり、その日の夜に公演したワークショップ形式の『日々の公演』(2019、BLOCK HOUSE)など。待機中の新作は6月13日に配信開始予定のオンライン公演『棒ダチ 私だけが長生きするように』。http://www.tokyorealunderground.net/program/0613.html
インスタレーション作品:『風には過去も未来もない』『夢よりも少し長い夢』(2015、東京都現代美術館『山口小夜子 未来を着る人』展)、『おかえりなさい、うた Dusty Voices , Sound of Stars』(2010、東京都写真美術館『第2回恵比寿映像祭 歌をさがして』)など。空間演出:佐藤直樹個展『秘境の東京、そこで生えている』(2017、アーツ千代田3331メインギャラリー)。書籍:『芸術の授業 BEHIND CREATIVITY』(中村寛編、共著、弘文堂)。
▷授業日:週替わりで月曜日と金曜日 19:00〜22:00(6月から開講)
「演劇」は既成のイメージされているものよりも、本当はもっと可能性のあるものなんじゃないかと僕は思っています。それを確かめるためには、何と言われようとも、自分達の手で作ってみるしかありません。全ては集まった人達と出会うことから始めます。