【レポート】「 テクニック&ピクニック」第1回 修了展


2022年4月10日から23日まで、神田のTETOKA/手と花で「TEKNIK & PICNIC “視覚表現における創作と着想のトレーニング〜” 美学校 伊藤桂司講座・第1回 修了展 “テクニック&ピクニック”」が開催されました。TETOKA/手と花は、小林千絵子さんと手塚敦嗣さんが2013年にオープンしたオルタナティブスペース。カフェとギャラリーを併設しており、数々の展示やイベントを開催されています。

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TETOKA/手と花

テクニック&ピクニック」は、「グラフィック、デザイン、イラストレーション、美術などの創作における技術の獲得(テクニック)と楽しさの探求(ピクニック)を目的」とした講座。一年をかけて「コラージュ」「テンプレートと定規のみを使って描く風景・人物」「画材の実験(同じモチーフを異なる画材で描き、画材の特性を再認識・再発見する)」「ZINEの制作」「古本、中古レコードのカスタマイズ(古本、中古レコードを自由な発想でカスタマイズし、世界に一つだけのアートピースを創る)」「インプットとアウトプット(影響を受けた作家を再研究し、その方法論を援用した作品制作を試みる)」など、バラエティに富んだ課題に取り組んできました。会場には、それらの課題を中心とした受講生9名の作品と、講師・伊藤桂司さんの作品、講座で制作したZINEなどが並びます。

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初日と最終日にはイベントも開催され、会場は賑わいを見せました。会場に集まった受講生の皆さんに、あらためて「テクニック&ピクニック」での一年を振り返っていただきましたので、その声と展示の模様をお伝えします(講座では現在2023年度受講生を追加募集中です)。

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前列左より、佐藤宜也、イルリヒト、伊藤桂司、肥後まり
後列左より、千葉倫子、勝田珠美、五十嵐千紘、
豊田みずほ、田中紀衣、大塚惇騎
(写真提供=TETOKA/手と花)

◉ 講座の受講理由/実際に受講してみて

パースやコラージュといった技術を獲得したくて受講しました。実際に技術は身につきましたが、自分のことをよく理解できたことが一番良かったと思っています。課題を通してアウトプットをする際に、自分の好きなものがどうしても反映されてしまうし、他の受講生のアウトプットを通して、自分以外の人が影響を受けたものを知ることで、自分の好きなものをより理解できました。自分の嫌なところも良いところも含めて、これが自分なんだってことがより明確になり、それが作品制作だけでなく、仕事や日常生活にも生かされていると思います(大塚惇騎)

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大塚惇騎さんの作品

イラストレーションの視野を広げたいと思って受講しました。「テクニック&ピクニック」という講座名には、楽しく学ぼうというイメージがあると思いますが、課題自体は奥が深くて、しっかりやればそのぶん力がつく内容だったと思います。コラージュは初めてだったのですごく新鮮でした。コラージュを作る際に、つい人をくり抜いたりしてしまうんですが、人をくり抜いた周りの背景を利用するとか、紙をぐちゃぐちゃにしてニュアンスを出すとか、素材の解釈の仕方が面白かったです。グラフィックの視座・視点は鍛えられたと思います(豊田みずほ)

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豊田みずほさんの作品

いろんな人に触れ合って価値観を広げることに時間を費やしたい、あと漠然と絵を描けるようになりたいという願望があって、いろいろと学べる場所を探していました。だけど絵画教室で水彩画を学ぶのも、美術予備校に通って美大受験をするのも、目的には合わないし、かといって専門学校は18歳以上でないと入れないしで、そのときちょうど美学校で生徒を募集しているのを見つけて、これだ!と思い入学しました。昔から自分は画力がないという意識を抱えてしまっていて、「良い絵=画力が高い」と思っていた時期が長かったのですが、受講して他の受講生の方々の作品を見ることで、自分の傾向が分かるというか、能力に依存せずに「自分にはこれがある」と思えましたし、絵画として認められるものの幅が広がりました(五十嵐千紘)

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五十嵐千紘さんの作品

◉ 印象に残った課題

印象に残っている課題は、「インプットとアウトプット」です。もともと凸凹した立体系の作品が好きで、「それなら、こういう人が好きなんじゃない」って伊藤先生がクルト・シュヴィッタースを教えてくださって、結果的に作りたいものが作れました。コラージュは、なかなか違う世界にジャンプできなくて苦労しました。最初はどういうものが良いコラージュなのかすら分からなかったんですが、先生の「これはいいね」とか「これはちょっと違うね」を聞いているうちに、違いが分かるようになりました。自分の頭の中だけにとどまらない場所に発想を飛ばすのは、何に対しても大事だなと思うので、コラージュは苦手だからこそ今後もやっていきたいです(千葉倫子)

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千葉倫子《assemblage》(部分)

展示のフライヤーに使っていただいた絵は「インプットとアウトプット」と「パースペクティブによる空間認識」の課題で学んだことを取り入れていて、講座を受講していなかったらできなかった作品です。もともと真似事が好きではなくて、いかに独自性を出せるかに重きを置いていたので、他の作家さんを自分の中に取り込んで、真似でもいいから描いてみること自体が衝撃的でした。研究したのは佐々木マキさんというイラストレーターの方で、色の乗せ方や陰影の付け方など、課題を通して今までの自分にないスタイルを色濃く出せたのが収穫でした。結局、自分が表現できるものしかアウトプットできないので、好きな作家さんの力を借りていいというか、良いエッセンスを取り入れていいんだと思えました(勝田珠美)

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勝田珠美《パトとモニのひみつのタロット》

「ブラインドドローイング」と言って、目を閉じて音楽を聴きながら音から連想されるイメージを描く課題は衝撃的でした。偶然だったとしても、自分では絶対に意識できない線が描けて、一枚の絵として好きだと思えるものが出来あがりました。自分でゼロから生み出すのが苦手なんですが、2〜3人のチームで即興的に絵を描く「インプロヴィゼーション」では、最初に誰かがモチーフを描いているので、それを見て「○○に似ているから、これを付け足したらもっとそれっぽくなるかな」といった感じで取り組めましたし、自分の作ったものが予想外のところに行く目新しさがありました(五十嵐)

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クロージングイベントでのライブペインティング
講師と受講生が即興でペイントを重ねた

◉ 伊藤桂司さんについて/講座を修了して

伊藤桂司さんは四の五の言わずに、むちゃくちゃ格好良いものを提示してくれる人です。桂司さんのセンスですよね。センスの話になると「センスはロジカルで組み立てられる」「言語化できる」という話もよく聞きますよね。言葉で説明できれば納得感を上げれますし、再現性も上げられるので、すごく大事なことだと思います。けど、それだけじゃないと思います。パーンと出した瞬間に、本質的に格好いいと思ってもらえることってシンプルにイケてますよね。説明なんかいらない。四の五の言わずに、むちゃくちゃ格好良い。それが僕は最高のクリエイティブだと思います。「テクニック&ピクニック」では言葉にできない表現力を圧倒的に学べます。伊藤桂司さんがあの手この手でたくさんの気づきを与えてくれます。日本の「格好良い」を底上げする。それが桂司クラスです(佐藤宜也)

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左上より佐藤宜也《ピンク》、《黒うさぎ》(部分)

講座は、まさに毎週が「ピクニック」でした。ラッキーなことに、桂司先生とはプログレやジャーマンロック等、好きな音楽の趣味がたまたま一緒で、語れば毎度盛り上がるし、未知のクールな音源もたくさん教えていただきました。先生は「人生をポジティブに生きる」というテーマが核にあって、制作における作業技術のみならず、その精神的アティテュードにも非常に影響を受けました。これは今後の人生と作品制作に大いに生かしていきたいと思っています。また、そのスタンスで仲間たちと繋がりができた事も素晴らしい成果です。当面の目標としては、一度個展をやってみたいと思っています(イルリヒト)

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イルリヒトさんの作品

私は「インプットとアウトプット」でヴィクター・モスコソという人の研究をしたんですが、好きな作家を調べる時間をもらったことで、あらためて自分の絵の癖を考え直すきっかけになりました。受講生と一緒に作品を作ったり、周りとの関わりを作っていくのも印象的でした。ひとつの方法でうまくいかなくても「次は油絵にしよう」といったように切り替えて、同時にいろんな絵を描いていけたら嬉しいです。さまざまなことをやりながら、もっと自分が活躍できる場を広げていけたらと思います(田中紀衣)

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「インプットとアウトプット」で制作した田中紀衣さんの《無題・連作》

自分が作ったものを評価されることがすごく怖くて臆病になってしまった時期がありました。でも、桂司先生は否定することなく、それぞれの良いところを引き上げてくださるような教え方で、自分にとってすごくプラスになったし、表現する楽しさを引き出していただきました。また、他の方へのアドバイスも見ていて勉強になりました。美学校は自由度が高くて、来ている生徒の方も、作品の雰囲気もそれぞれで、みんな同じところに収斂していくのではなく、自分の個性を発揮しているのが良かったです。一人で作っていると行き詰まったり苦しくなったりしてしまうことがありますが、週に1回美学校に来て、先生からご教授いただいたり、受講生の方から刺激をもらったりするのが、自分にとって大事な時間でした(肥後まり)

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肥後まり《american dream》

桂司先生は、生徒のことを等身大に見てくれていて、生徒の持っているものや好きなものを読みとって、こうしたらいいんじゃないかって一歩先を提示してくれました。踏みとどまったり、堂々巡りしてしまった時に、桂司先生に新たな視点を提示してもらうことで出来た作品も結構あります。昔からモノを作ることは好きだったんですが、授業を受けたことで、技法の面白さを知って、自分の幅が広がった感じがします。ただ漠然と「何か作ろう」じゃなくて「コラージュでやろう」とか「音楽を聴いて目隠しで描いてみよう」とか、選択肢が増えました(五十嵐)

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左より佐藤宜也《イエロー》
肥後まり《brume de chaleur》《春眠不覚暁》

◉ 講師・伊藤桂司さんより

受講生たちがとにかく一人ひとり面白くて、吸収力が強いし、創造に対してすごく意欲的で、逆に刺激をもらいました。僕の役割は、原石を見つけてそれを輝かせてあげることだと思っています。みんなちょっとずつ何かしら持っているはずなんですよ。大学だと、どうしてもシステマティックにやらなければいけない部分があるけど、美学校は自由度が高いし、19時〜22時に授業をやるのも新鮮でした。授業をやって終わってしまうだけだと、学生たちの良さを引き出せなかったかもしれないので、修了展は本人たちにとってもすごく有意義なんじゃないかなと思います。展示の機会をくれたTETOKA/手と花にも感謝しています。

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伊藤桂司《Morning Songbirds》

2022年4月23日 収録
聞き手・構成=木村奈緒 写真=皆藤将


テクニック&ピクニック〜視覚表現における創作と着想のトレーニング〜 伊藤桂司

▷授業日:毎週月曜日 19:00〜22:00
グラフィック、デザイン、イラストレーション、美術などの創作における技術の獲得(テクニック)と楽しさの探求(ピクニック)を目的として、シンプルながら多様なアプローチを試みていきます。