「デザインソングブックス」講師・大原大次郎+宮添浩司+本多伸二インタビュー


デザイナーの大原大次郎を講師に迎え、2014年に開講した「デザインソングブックス」。3年目からはデザイナーの宮添浩司と本多伸二が加わり、「秒写」「エクストリーム文具」「誘導画」といった「全身演習」を通算100個超、時間にして1000時間以上重ねてきました。アートブックフェアへの参加、講師と受講生、修了生同士のコラボレーションなど、学内に留まることなく展開されてきた本講座。来る講座の9年目、10年目をどう迎えるか、次なる開催形式を模索している講師の皆さんに、今年度の授業を振り返りつつ、現在の考えをお話しいただきました。

song_001

写真左より本多伸二、大原大次郎、宮添浩司

大原大次郎|1978年生まれ、武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。タイポグラフィを基軸とし、音楽、書籍、空間、映像などにおけるデザインに従事するほか、展覧会やワークショップを通して、言葉と文字の新たな知覚を探るプロジェクトを展開する。近年のプロジェクトに、重力を主題としたモビールのタイポグラフィ〈もじゅうりょく〉、ホンマタカシによる山岳写真と登山図を再構築した連作〈稜線〉、音楽家の蓮沼執太と鴨田潤と共に構成する音声記述パフォーマンス〈TypogRAPy〉などがある。http://oharadaijiro.com

宮添浩司|1979年生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業後、BANG! Design,incを経てフリーランスに。エディトリアルを主軸に、紙媒体や、商業施設のサイン計画など、グラフィックデザイン全般に携わる。建築家滝口聡司と共にブックレーベル「aptp books」を主宰。http://kojimiyazoe.com https://aptp.jp/publishing

本多伸二|1981年生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。デザイン事務所勤務を経て、2009年からフリーランスに。カタログ、ポスター、フライヤー、ミュージックビデオのタイトルや番組のデザインなどを手掛ける。本業の傍ら、サンプリングカルチャーへの偏愛を表したシルクスクリーンによるプロダクトを模索し展開中。http://hondamr.net

ゲスト講師を迎えた「デザインソングブックスの〈編曲〉」

大原 宮添くん、本多くんに入ってもらって6年目で、講座としては8年目になります。講座ではさまざまな「演習」を行うんですが、みんなで喋りながら演習をする、あの空気感をまた味わいたいというリクエストを修了生から積極的にいただいて、今年度は「デザインソングブックスの〈編曲〉」と題して修了生を対象に、1年で5名のゲストの方に入っていただき、月に一度のペースで開催しました。2ヶ月1セットで、最初の月はゲストの方からの出題と、それにまつわるディスカッションを行って、翌月に1ヶ月かけてやった演習を、ゲストの方を交えて講評・ディスカッションします。

ゲストは、1回目が編集者の野口尚子さん、2回目が映像デザイナー/クリエイティブディレクターの井口皓太さん、3回目がYOUR SONG IS GOODのギタリストでイラストレーターの吉澤成友さん、4回目はコントグループ「テニスコート」メンバーの神谷圭介さんで、デザイナーは一人もいません(収録時は5回目のゲストが未定だったが、その後、スタディストの岸野雄一氏に決定)。僕ら3人がデザイナーということもありますが、さまざまな職業と接続して展開できる「接着剤」のようなものをみんなで一緒に考えるには、別領域の講師の方がいいんじゃないかなと。実際に、受講生からは「そういう考え方があるのか」とか「こんなふうにサバイブしてるんだ」といった反響があります。今年は対面に加えてオンラインでの受講も受け入れて割とチャレンジングな年でしたが、どうでしたか。

song_002

本多 個人個人の課題の設定が見えやすかったんじゃないですかね。1ヶ月時間があったことで、課題の煮詰め方はアップした気がします。

大原  「予想と全然違う方向でこんなに良い物を出してもらった」と、ゲストの方が驚いて帰られますね。そういう言葉を聞くと嬉しいですし、僕らも毎回驚きます。初回の野口尚子さんは「『っぽさ』を再現する」という演習でした。例えば、ある漫画を引用元として、絵柄だけではなくコマ割りや文字の入れ方、画材といった要素を取り出して、作り手の意図を想像しながら別の漫画を描いてみるような。何を引用したのか、そこからどんな「っぽさ」を引き出して、展開したのかを受講生にプレゼンしてもらいました。

宮添 受講生の梅木さんは、アウグスト・ザンダーの『20世紀の人間たち』という写真集を元にして、写真集を作っていたよね。目次に書かれている人の分類や書体とかもちゃんと真似していました。

大原 身近な人たちの働いている様子をポートレートとして撮影して、かなり丁寧にインタビューも行っているんですよ。梅木さんは普段、オーダーメイドでヒアリングしながら服を作られているんですが、そういう個人の活動とも結びついているし、ザンダーを通して梅木さんの表現に接続している。被写体の方に連絡して、1ヶ月でこれだけのポートレートを撮れる行動力がまずすごいですよね。

song_003

梅木さんの講評の模様

大原 原田さんは、サヴォア邸の空間に立ち上がる線を抽出しながら、キャンバスに漆喰状のメディウムとジェッソを混ぜた地を作って、アクリルで線画に起こしていました。すでに学外でも活動している人たちは、自分の作風や活動と結びつけやすい内容じゃないかなと思います。

song_004

原田さんの作品
ル・コルビジェの建築から特徴的な線を引き出す

本多 松川さんは、荒木経惟の写真集『月光写真』を元に、アラーキーのインタビューなどを読んで、写真の撮り方にアラーキー節を取り入れていました。松川さん自身は活動とは称していないですけど、ライフワークとして日頃からスナップショットを撮ってるんですよね。そこにアラーキーというチョイスがちゃんと接続していて面白いなと思いました。神谷圭介(テニスコート)さんの「可笑しみのレッスン」という演習でも、松川さんは4万枚ぐらいの写真の中から、自分が可笑しみを感じるたった数枚の写真を選んできていて、松川さんのような人を見ていると、美学校で授業をやっている感じがして面白いです。

song_005

上がアラーキーの写真集、下が松川さん制作の写真集

大原 井口皓太さんの演習は、テレビがブラウン管から液晶に変化したように、映像を乗せるハードが変わると映像自体はどう変わるのか?という内容で、結構みんな苦戦していましたね。映像で応える人が少ないのが「デザインソングブックス」らしくもあり。

song_006

井口皓太さんの演習「映像(ハード)の“かたち”再考し、映像(ソフト)の表現を探る」
映像を映し出すメディアがどんな形状にも変化できると仮定した上で、どのような表現が可能になるかを構想

song_007

長さんの作品
中心にある銅版画を始点に、額装のマットからフレームを越えてさらに壁面へと、
周囲の余白に世界観がシームレスに繋がるように描画している

大原 吉澤成友さんの回は、ジャケットデザインやグッズ展開といった、音楽におけるデザインが演習内容でした。コロナ禍でライブの開催が難しくなったり、YouTubeやサブスクが主流になってCDの売上が減少してきた一方で、レコードやカセットテープのようなフィジカルメディアが今も根強く支持されているような時代の変化の中で、従来のパッケージデザインに縛られずに、もう少し自由に考えてみてくださいという内容でした。これもデザインソングブックス特有というか、直球のジャケットを作ってこないところが面白かったですね。吉澤さんにとってもこういう展開は初めての体験だったようで、次作のリリースの時に、ぜひみんなと組んでプロジェクト化したいと言ってくださいました。

song_008

吉澤成友さんの演習「Guitar Blend」
受講生が課題曲を聴いた上で、パッケージやグッズを提案

song_009

song_010

坂本さんの作品
“織物” と “Dub” の構造をヒントにビジュアルを展開

大原 神谷圭介さんの「可笑しみのレッスン」は、以前に宮添くんが「デザインってあんまり笑いの要素を取り入れないよね」と話していたのがきっかけになっています。自分だけがほくそ笑んだり、ちょっとだけずらして楽しんだり、そういう視点についてみんなで考えようという演習でした。

宮添 デザインに笑いの要素を入れづらいのは、デザインが本人「直」のモノじゃないというのが大きいですよね。笑えるものって、その人自身が笑わせにかかる場合が多いじゃないですか。だけどデザインは、誰かのものをやることが多いから、勝手に笑っちゃいけない感じもあるというか、笑わせちゃいけない可能性が高いことが多いんです。

本多 デザインで成立している可笑しさって、「なんか分かるような、分からないような」ぐらいのものじゃないですかね。そうでないと嫌味が出るだけだし、「面白いでしょ」って出された感じがすごく伝わってしまって、逆に面白くないみたいになっちゃう感じがします。デザインが持ってしまっている「やだ味」みたいなものって、笑いを求めなくても勝手に発生していて、もうみんなに気づかれてるよなと思います。

song_011

song_012

神谷圭介さんの演習「可笑しみのレッスン」における増田さんの作品
ひとつの行為を大人数で行う際に醸されるような、集合体の可笑しみを軸に制作

コミュニケーションの場としての「デザインソングブックス」

大原 もともと僕ら3人とも近くに事務所があって、毎晩のように会ってお互いの近況を報告していて、そういうコミュニケーションの積み重ねがすごく大事な時間で、仕事にもフィードバックされていました。そこで交わされるような会話と、それまで行っていたワークショップを合わせて美学校にスライドさせたのが「デザインソングブックス」の出発点です。本多くんと宮添くんが3年目から加わってくれて、その後、二人も自分たちで出版やマーチャンダイジングのレーベルを始めたり、修了生とも一緒に仕事をしたり、修了生同士もチームを組んで活動していたりするので、授業形態としてはかなり円熟しているかなと思っています。

美学校は社会人の方が受講されているのがとても面白いんですよね。一度社会に出て、なお模索している人たちなので、その時点でかなりの精鋭なんです。そういう人たちと一緒に何かをできる場は失われるべきではないと思っています。最近だと、講師の本多くんが美学校で「シルクスクリーン工房」の授業を受講生として受けていて、「大原くん、いろんな刷り方ができるんですよ」って声をかけてくれたこともすごく嬉しかったですね。

song_013

大原さんの原画を本多さんがシルクスクリーンで印刷
クレヨンを溶かした自作のインクを使用しており、指でこすると色をぼかすことができる

本多 美学校に来ると、東京の真ん中に変わったミドルエイジの人たちがいっぱいいることを知れて、そのこと自体が励みになりますね。普通に生活していると、それをやっていてどうやって生きていくんだよって思うことがいっぱいあると思うんですけど、美学校だと意外と生きていってるなって目視できるので(笑)。どこぞの界隈で有名にならなくても、それでいいのかなと思えます。

song_014

宮添 講師として呼ばれましたけど、今日まで自分が「先生」だと思ったことはなくて、行くたびに教わることが本当にたくさんあります。毎週であれ月に1回であれ、そうした場がなくなると、考える時間がかなり減ってしまうと思うので、授業はものすごく重要な時間です。

大原 「デザインソングブックス」で蓄積された演習が100以上あって、相当な数を続けてきたことが足腰になっているんだと思います。その足腰で押し広げるというか、教室内に留めないようにしたいですね。ここでやってきた「手遊び」と「手探り」の積み重ねを、本などの形にして広げていくことも課題です。

みんなが「デザイン」という言葉を翻訳していい

宮添 自分がデザインを意識したのは、音楽を通じてです。高校生の時に発売されていたレコードのジャケットを見て、音楽を聴いているんだけど、それ以上にすごい見た目だなって思ったんです。デザイン学校に行ってた友達のお兄ちゃんに「これはなんとかっていうデザイナーの人がデザインしてるんだよ」って聞いて、デザインというものを意識しはじめました。そういうので生きていけたらいいなと思って、その後の進路にはかなり影響がありました。

song_014

本多 たぶん中学生ぐらいの頃ですけど、おかんのワープロに文字が「ドラゴンクエスト」の題字みたいになる機能があって、それが超楽しいと思ったんです。これで「ダイの大冒険」のロゴ作ろうって(笑)。あとはTシャツですね。グラフィックデザイナーってTシャツのデザインをする人だと思っていて、高校生ぐらいの時にデザイナーになりたいと思いました。

大原 僕もそれに近くて、物の作り方が分からないから、やることが大体コラージュなんです。それをデザインと呼んでいいか分からないですけど、二人と同じような時期に、好きなものを切り貼りしていました。たまたま同級生が音楽家としてデビューすることになったので、切って貼ったようなものを作ったんですが、それが結果的に初めてのデザイン仕事になりました。その頃に比べたら、当然だけど今はデザインの捉え方や価値観自体が全然違うんじゃないかと思います。

本多 これまで可視化されていなかったというか評価体系に組み込まれていなかっただけで、もともと色々なデザインがあったんでしょう。

song_0

大原  「デザイン」という言葉自体が正しく翻訳されきってないから、ずっとカタカナで表記されているけど、各々がデザインという言葉を翻訳していいんじゃないかと思っていて、僕は「デザイン」=「手遊び」と「手探り」と捉えています。日本語の「遊び」には、「プレイ」だけじゃなく「余白」とか「隙間」といった意味もあって、「遊び」があると壊れにくくて長持ちもするし、何より楽しい。大人になって全力で手遊びをする場はすごく貴重なんじゃないかな。

宮添 開講時から講座紹介文に書いてある「デザインってなんだろう?」という問いかけが、まさにそれだよね。

本多 ただ、「デザインってなんだろう?」と言うと、「デザインに興味があるあなたたちへ」というメッセージとして伝わってしまう可能性は若干あるよね。

宮添 確かにね。そこに興味がなかったら講座にも興味がないってなっちゃうよね。

大原 講座名を変えるか……

本多 手遊び……

宮添 手遊びクラブ……それはちょっとヤバいね(笑)。

大原 講座の枠組みを一旦横に置いて話すと、学校に限らず、場所に人が集まって賑わいが生まれることって、とても貴重なことで。例えば、家の近くの海岸では自然と人が集まって遊んだり話し始める光景をよく目にするんですが、そういう自然発生的なコミュニケーションが点在する場にはとても惹かれます。だから、岸野雄一さんがレコードコンビニや盆踊りといった活動をされていることにとても共感しますし、「デザインソングブックス」としても遊びのある場作りについて、さらに探っていけたらと思っています。

2021年12月26日収録
聞き手・構成=木村奈緒 写真=皆藤将


デザインソングブックス 大原大次郎+宮添浩司+本多伸二 Ohara Daijiro

▷授業日:隔週木曜日 19:00〜22:00
『デザインソングブックス』は、その生モノに取り組みながら、独自の<ツール><方法><環境>を探り、書くこと(記述と設計)と話すこと(発声とパフォーマンス)、デザインをするための過程から実践までを共有する場です。年齢、経験不問です。ぜひご参加ください。