「現代アートの勝手口」講師・齋藤恵汰+中島晴矢インタビュー


アーティストの齋藤恵汰と中島晴矢が講師を務める「現代アートの勝手口」。齋藤は、アートプロジェクト『渋家』(シブハウス)の創設にはじまり、雑誌創刊、展示企画、会社創業などを手掛け、中島は、現代アート、文筆、ラップなど、ジャンルを超えて活動を展開してきました。既存のカテゴリーに収まることなく活動を続けてきた二人が、いかにして「勝手に」活動するに至ったのか、自身の経験を講座でどのように展開しているのか、話を聞きました。

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写真左より齋藤恵汰、中島晴矢

齋藤恵汰(さいとう・けいた)|1987年東京生まれ。2008年、アートプロジェクト『渋家』を創設。2009-2011年、東京文化発信プロジェクト室と劇作家・岸井大輔の共催による『東京の条件』にて戯曲集を編集。2013年、NHK Eテレ『ニッポンのジレンマ、新TOKYO論』にて登壇。2014-2015年、森下スタジオおよび吉祥寺シアターにて演出家・篠田千明の主催による上演作品『機劇』『非劇』の作家を務める。2015-2018年、20代〜30代の批評家・研究者・作家たちによって作られた、不定期刊行の批評誌『アーギュメンツ』創刊。2016年『私戦と風景』原爆の図 丸木美術館(埼玉)、2017年『自営と共在』BARRAK大道(沖縄)、2019年『構造と表面』駒込倉庫(東京)にて展覧会のキュレーションを行った。現在は上演・キュレーションに加え映画製作のためのプロダクションを運営。脚本・小説・SNSなど各種テキストの執筆・編集を行う。

中島晴矢(なかじま・はるや)|アーティスト。1989年神奈川県生まれ。法政大学文学部日本文学科卒業、美学校修了。美学校「現代アートの勝手口」講師、MC(Stag Beat)、プロジェクトチーム「野ざらし」ディレクター。現代美術、文筆、ラップなど、インディペンデントとして多様な場やヒトと関わりながら領域横断的な活動を展開。主な個展に「東京を鼻から吸って踊れ」(gallery αM/東京、2019-2020)、キュレーションに「SURVIBIA!!」(NEWTOWN、2018)、グループ展に「TOKYO2021」(TODA BUILDING、2019)、アルバムに「From Insect Cage」(Stag Beat、2016)など。2022年に初の単著となる『オイル・オン・タウンスケープ』(論創社)を刊行。http://haruyanakajima.com/

現代アートの入口としての講座

齋藤 現代アートの勝手口」は2019年に開講した講座で、今年で3年目になります。美学校のようなオルタナティブな学校からChim↑Pomのメンバーをはじめとする、今やメインストリームとなった人たちが生まれてきたように、もともと現代アートは「勝手口」的な傾向があるジャンルだと思っています。そうした勝手口的ジャンルに僕らもあやかってきたわけですが、そこにもっといろいろな人が参加してほしいという気持ちがあり、その入口となるような講座として「現代アートの勝手口」を立ち上げました。

中島 「勝手口」という講座名には「好き勝手にやる」という意味の「勝手」、何か物事を行うときの具合いを意味する「勝手」、台所の脇にある裏口のような「勝手口」と、いくつかの意味を掛けています。現代アートという世界は一見お堅く見えるけど、もっと自由に好きなことを勝手にやっていいんじゃないかと。僕たちも勝手に活動してきたので、そのノウハウを共有して一緒にやっていこうよという気持ちがあります。

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齋藤 中島さんが美学校の卒業生ということもあって、僕が中島さんに「美学校で講座をやらないか」と提案したんですよね。

中島 僕らは中学高校が一緒なんですよ。学年がひとつ違うので在学中は交流がなかったんですけど、大学受験の予備校で再会して、2008年にケータさんが主体の『渋家』というプロジェクトを一緒にはじめて今まで関係が続いています。いわゆる腐れ縁というやつですね。

齋藤 僕は美学校に通ったことはなくて、中島さんに連れてきてもらったんです。当時は「天才ハイスクール!!!!」(講師:卯城竜太、2010〜2014年開講)があったかな。

中島 僕が美学校に通って3年目にできた講座だから、2010年かな。僕は2008年から画家である内海信彦さんの「絵画表現研究室」(2000〜2011年開講)に2年間通い、2010年から松蔭浩之さんの「アートのレシピ」に1期生として通いはじめました。クラスは違えどキュンチョメらが同期で、その後も「天才ハイスクール!!!!」からは、アーティストの毒山凡太朗くんや、ナオナカムラの中村奈央ちゃんとか、いろんな人が出ていますね。

齋藤 会田誠さんのクラス(「バラバラアートクラス」、2001〜2004年開講)がChim↑Pom結成のきっかけになったように、卯城さん(Chim↑Pom)のクラスから出てきた人たちが僕らの同期にいたし、僕らも渋ハウスでChim↑PomのDVDを見たりしていました。そういうオルタナティブで実験的なアートをやっていくコンテクストを、僕らは僕らとして引き受けて「現代アートの勝手口」をつくろうと思った次第です。

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芸大に落ちて「勝手に」芸術をはじめる

齋藤 そもそも、僕は東京藝術大学の先端芸術表現科を受験して受からなかったんですよ。

中島 僕も同じ。当時は何か表現したい欲望はあるけど、何をどう表現したらいいかわからない状態でした。親に私立の美大は学費が高いからダメだけど、芸大ならまあいいだろうと言われて。

齋藤 僕も同じことを言われました(笑)。一次試験が小論文と素描で、二次試験が面接だけだったから僕でもいけるんじゃないかと思ったんですけど、まったく無理でした。僕は本当に絵心がないんですよ。

中島 本当にないよね(笑)。それで僕は法政大学の文学部に入って、ケータさんは大学社会に反旗を翻して……。その後、美学校に入ったり渋ハウスをはじめたりするわけですが、つまりもう勝手にやるしかないと思ったんです。僕らは芸大や美大といった王道は進めないけど、芸術をやりたい気持ちはあったので、勝手にやっていこうと。

齋藤 高校時代はポストモダン文学とかが好きで小説家志望だったんですけど、すでに一通りのことがやり尽くされていて自分が新たにできることはあまりないと思ったんですね。実際、文芸誌の主要なメンバーというのはなかなか入れ替わらない。そうなるとやれるのは自費出版を主体とする詩かオルタナティブな表現活動しかないと選択肢が絞られるなかで、結果的に現代アートを勝手に発見したわけです。

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共通言語をつくり、制作の機運を高める

齋藤 現代アートの勝手口」の授業内容を大まかに言うと、1学期が座学で、2学期がゲストを招いての講義やワークショップ、3学期が修了展のための準備及びディスカッションというカリキュラムになっています。修了展は必須ではないですが、受講生の希望で今のところ毎年やっています。

中島 1学期に座学をやるのは、まず受講生たちと共通言語を作っておきたいからです。さまざまなことを議論するにしても、最低限押さえておくべき概念や言葉がないと話が通じないので。今年は現代美術、現代思想、近代文学などの課題図書を精読しました。毎週3章ぐらいレジュメを切って読んでいくので、最初は人文系のゼミのような感じですね。

齋藤 2学期はオルタナティブ──僕はアンダーグラウンドと言うほうが適当だと思いますが──に表現活動を行っている人たちをゲストに呼んでいます。去年は、ヨーロッパでも活動しているアグネス吉井というダンスユニットに来てもらったり、アーティストの遠藤麻衣さんにシャドーフェミニズムズについての講義をしてもらったりしました。僕らもいくつかワークショップを行って実際に手を動かしてもらうことで制作の機運を高めていきます。

中島 3学期には、修了展に向けて作品をつくっていきます。受講生のつくりたいものに寄り添いながら議論を重ね、作家としてつくった作品を修了展で発表します。受講生は、本当にいろんなタイプの専門性を持った人が来ています。今年度も、芸大でクラシック音楽を学んでいた人、美大生で映像制作をしている人、演劇をやっている人、ファッションの勉強をしている人、大学院で文化人類学を専攻している人、一度制作をやめてしまったけど制作活動を再開させたい人……すでに自分の活動を展開している人も多いですね。

齋藤 すでに活発に活動しているけど、どうステップアップするかを一緒に考えたいという人は多いと思います。今、現代アート自体、セオリーが分散していて一人の作家や研究者が担えるセオリーはかなり限られてしまうんです。異なるセオリーを持っている人が集まったほうがネットワークも広がるし、そういう意味で、今後も「現代アートの勝手口」を僕ひとりでやっていくのは難しいと思っています。それと同じで、受講生もひとりでやることに限界を感じて講座に来ている側面はあるんじゃないでしょうか。

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地下茎のようにつながるネットワーク

齋藤 先ほど、「現代アートの勝手口」はオルタナティブなコンテクストを引き継いで立ち上げたと言いましたが、これはある程度小規模な人間関係が継続していくことによって成立していると思っています。講座で合宿をやったり、授業でもコミュニケーションを主体とする回をつくったりすることで、人間関係を一緒にあたためていく。そうすることで、何か面白いものがぽこっと出てくるんじゃないか。今年の合宿では福島に行ったんですけど、面白かったですよね。

中島 凄かったね。福島県の大玉村、富岡町、大熊町を訪れたんですが、大玉村は「野ざらし」というプロジェクトを一緒にやっている建築家の佐藤研吾さんに、富岡町と大熊町はhumunus(フムヌス)という演劇ユニットにアテンドしてもらいました。humunusは僕が芥正彦さんの舞台に役者として出ていたときに知り合ったんですよ。好き勝手に活動していくなかで出会った人と福島で再会して、被災者の方を紹介してもらったり、地下茎のようにネットワークがつながっていく感覚がありますね。

齋藤 やっぱり今はコロナの問題もあって、人との繋がりをつくりにくいと思います。いわゆる学校法人は管理社会化が進んで、そもそもネットワークが維持できなくなっている。

中島 今やSNSはインフラとして大多数がやっているものという前提になっているから、SNSで濃い関係は生まれないし、コロナや管理社会化によってリアルな関係性も構築しづらくなっているよね。自由な空間がないからこそ、僕らは講座を通じて場をセッティングしたい。それこそが授業で知識や情報を伝えるよりも大事な行為だと思っています。

齋藤 今では、受講生同士が講座で出来たつながりを使って、自分の実践に幅を持たせていける状況が生まれてきているよね。

中島 OB・OGで初台にアートサロン「えん川」を立ち上げたりね。歌手としてフジロックに出たさらささん、歌人としてデビューしている手塚美楽さん、ペインターとミュージシャンを並走している田嶋周造さんなど、現代アートに限らず、それぞれ勝手に活躍している修了生が多いです。

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世界の文化多様性の一端を担う

齋藤 僕は、現代アートの「なんでもアリ感」を有効にすることこそが、現代アートにとって最も重要な課題だと考えていて、さらに言えば、それを有効にしていくときに「勝手に」場所を設置することが大事だと思っています。今年、ルアンルパがドクメンタでやっているノンクロン(インドネシア語で「仲間とたむろすること」の意)も基本的には同じだと思います。僕らは「現代アート」という看板を立てつつ、面白い出来事が起こる状況を勝手に設置して、みなさん一緒にやっていきましょうと呼びかけている。それが「現代アートの勝手口」なんです。

今、すごく大雑把に言って、合理的で良い労働環境で働かされる世界と、非合理だけど興味深い出来事が起こる世界に二極化していく情勢があると思うんですね。実際に、働きやすい会社に勤めながら「現代アートの勝手口」を受講している人も一定数いますが、そういう人たちは労働環境に不満があるわけではなく、非合理な世界、アンダーグラウンドな出来事が存在する世界を一緒に作ることによって、世界の多様性を実現していきたいと考えているんじゃないかと思うんです。二極化そのものが問題だとも言えるけど、人間は両者を横断する活動を望む生き物だと僕は信じています。

それこそ、神保町に小さい出版社がたくさんあることによって多様性が保証されているように、現代アートという看板を使うことによって、小さい多様性を実際に作れるのが現代アートの醍醐味だと思います。現代アートをやることによって自分の人生が豊かになる面はもちろんありますが、それとは別に、世界の文化多様性の一端を自分たちが担っていると意識できるところが面白いポイントじゃないでしょうか。

中島 アンダーグラウンドな場所は、必ずしも開かれているわけではないですよね。最近はいらぬ炎上を防ぐために、ますますクローズドにする傾向が強まっていて、どう入っていけばいいか分からない場合もあると思います。ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』で、棚を動かすと地下室への階段が出てくる場面がありますが、「現代アートの勝手口」でいろんな地下室の入口を示すことで、受講生には修了後も好き勝手に活動していってもらいたいですね。

2022年9月7日収録
取材・構成=木村奈緒 写真=皆藤将

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現代アートの勝手口 齋藤恵汰+中島晴矢 現代アートの勝手口

▷授業日:毎週金曜日 19:00〜22:00
「現代アートの勝手口」は、この20世紀を総崩れにした30年の後に、改めて勝手に現代アートをやろうという集まりです。私たちは広く深く種々の形式を取り扱います。知的好奇心の赴くままに一緒に遊べる人と、これからの遊び方を再発明したいのです。この講座を通し、三河屋のようにひとの勝手口から勝手に出入りして、その勝手を盗み合えるひとたちと出会えれば幸いです。