【イベントレポート】特別講座「美術館は静かにどこへ向かうのか」第二回「日本の美術館の歴史を辿る」


文=木村奈緒 写真=皆藤将


1月から3月まで全3回にわたって開催される特別講座「美術館は静かにどこへ向かうのか?」
1月に行われた第1回にひきつづき、第2回が先日開催されました。

昨年9月の清里現代美術館の閉館に端を発した本企画(清里現代美術館は、1990年9月に開館した私立現代美術館。ヨーゼフ・ボイスなど世界的な作家の作品を常設展示していたが、財政難により閉館の危機に。結局閉館に対する大きなアクションがないまま、2014年9月に閉館した)。第1回は「美術館の閉館は誰の問題か?」と題し、美術館をとりまく現状を、お集まりいただいたみなさんとともに再確認しました(第1回のレポートはこちらからご覧ください)。

続く第2回のテーマは、「日本の美術館の歴史を辿る」。ゲスト講師は、東京工科大学デザイン学部准教授の暮沢剛巳さん。『美術館の政治学』(青弓社)、『美術館はどこへ?―ミュージアムの過去・現在・未来』(廣済堂出版)など、美術館に関する著作も多い暮沢さん。今後の美術館像を考える上でかかせない、日本の美術館の歴史をレクチャーしてくれました。充実の講義の模様をダイジェストでご覧ください。

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ゲスト講師の暮沢剛巳さん

ミュージアムの誕生

暮沢さん「そもそも、美術館とは、美術品を収集・展示の対象とする博物館のことです。」
日本では、「ミュージアム=美術館」と訳すのが一般的ですが、厳密に言えば、美術館とは「Museum of Art」のことで、民俗資料館や科学館などと同様、博物館の一種だそうです。日本において博物館(美術館)の重要性が意識されたのは、開国後。欧米を訪れた使節団が、大英博物館やルーブル美術館を目にして、日本にも同様の施設が必要だと痛感したんだとか。

そして、1872(明治5)年。翌年のウィーン万国博覧会への出展準備を兼ねた日本最初の博覧会が、湯島聖堂大成殿で開催されます。この博覧会こそが、現在の東京国立博物館(トーハク)の起こりです。明治15年に上野公園に場所を移し、現在に至ります。現在では、第1回文展(1907年)以前の美術品を常設コレクションとして所蔵しているそう。

美術館の誕生

東京国立博物館の誕生から約50年後の1926年、現在の東京都美術館の前身である東京府美術館が開館します。
暮沢さん「日本独自の公募団体展の会場として構想されましたが、実は常設コレクションを所有していた日本初の美術館なんです。」

第1回聖徳太子奉賛美術展(1926)に始まり、読売アンデパンダン展(1948〜1963)、「人間と物質」展(1970)など、美術史上重要な企画展も開催されています。老朽化のため1975年に建て替えられましたが、その施設もまた老朽化したため2010年からは、約2年をかけて大規模改修。リニューアルオープンしてからの都美館の方が馴染みがあるという人も、最近では多いかもしれません。

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皆さん、メモをとりながら真剣に受講しています。

百貨店と美術展

最近では、美術展を見に行くといえば、ギャラリーや美術館が一般的。ですが、暮沢さんによれば「戦前、国内に美術館は数えるほどしかなく、多くの美術展は百貨店で開催されていました」とのこと。

百貨店の火災で作品が損傷したことなどを受け、1974年に法規制が布かれた後は、衰退してしまったそうですが、その後も、西武美術館(後にセゾン美術館に改称)など、現代美術の企画展に力を入れた美術館も誕生し、百貨店が文化の一翼を担っていた時代が思い出されます(セゾン美術館は1999年に閉館)。

近代美術館と現代美術

さて、日本における美術館の成り立ちが分かったところで、次は、誰もが疑問に思っている(?)美術館の謎に迫ります。それは、「近代美術館と現代美術館の違いって何?」という疑問。

例えば、NYのMoMAは1870〜1880年以降/メトロポリタン美術館はそれ以前の作品を主にコレクションしているそうですが、最近はコレクションの時代区分も流動的になっているとのこと。「近代=◯◯年〜◯◯年」といった明確な区分があるわけではなく、世界各国の近代美術館(Museum of Modern Art)のコレクションによって「近代美術」が形成されているとも言えそうです。

日本初の近代美術館は、1951 年に開館した神奈川県立近代美術館。翌年には東京国立近代美術館が京橋に開館(1969年に現在の竹橋に移転)。現在、北海道・茨城・群馬・埼玉・富山・滋賀・和歌山・徳島などの各県に県立近代美術館がありますが、1993年に開館した新潟県立近代美術館が事実上最後の公立近代美術館ではないか、とのこと。なぜなら、近代の作品はこれ以上は増えないから。たとえ近代美術館を作っても、コレクションを揃えるのが難しいんですね。

一方、現代美術館(Contemporary art museum)は、アメリカ ロサンゼルスやシカゴの現代美術館、イギリス テート・モダンなどの大規模館の存在感・影響が大きいとのこと。日本では、1989年に開館した広島市現代美術館が初の公立現代美術館。90年には東京都写真美術館、95年に東京都現代美術館。97年にICC(NTT インターコミュニケーション・センター)が開館しており、大まかに言うと80年代と90年代に近代/現代の区分がありそうです。

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暮沢さんの考える「これからの美術館」とは

これからの美術館

現在までの美術館の歩みをたどってきたところで、最後に考えるのは、「これからの美術館」について。 指定管理者制度の導入や、昨今の表現規制の問題などを考えると、美術館を取り巻く状況は依然として厳しい。そこで、暮沢さんが期待するのが「デザインミュージアムや新しいタイプの自然史博物館の登場」だそう。

そんな「これからの美術館」の参考例として挙げてくれたのが、パリのケ・ブランリミュージアムや、リヨンのコンフリュアンスミュージアム。いずれも、民俗資料や自然史をアーティスティックな手法で展示しているそう。実際に両方の美術館を訪れたという暮沢さんは、「芸術人類学のような分野を、本格展開したら良いのではないか」と提案。参加者の方々からも、「それならば、アイヌミュージアムはどうか」「秘宝館的な展示がみたい」などの意見が出ました。

正直、今後も同じような現代美術館ばかりが出来てもつまらないわけですから、既存の美術のイメージや、美術館像に囚われない美術館構想が持ち上がってくることが望ましいのかもしれません。
ただ、これからの美術館像は誰かが決めるものではなく、みんなで考えていくことが理想。暮沢さんも「是非、みなさんの考える理想の美術館を聞かせてほしい」とおっしゃっていました。

ということで、ミュージアムの起こりから将来の美術館までを駆け抜けた第2回の講義「日本の美術館の歴史を辿る」もこれにて終了。いよいよ次回が最終回になります。これまでイベントに参加されていない方も、このレポートを読めば大丈夫!奮ってご参加ください。

<次回予告> 特別講座「美術館は静かにどこへ向かうのか」第三回「これからの美術館との付き合い方
1951年に日本で最初の公立近代美術館として開館した神奈川県立近代美術館の館長である水沢勉氏を迎えて、これまでの神奈川県立近代美術館の歩み、そしてこれからの美術館像についてお話を伺います。地域と美術館の関係や、あなたにとっての美術館とは何なのか?実際に美術館の運営に携わる方の声を聞くことで本講義のテーマをより身近に考えてみたいと思います。ご予約・詳細はこちら