文・写真=皆藤将
先週10月17日から未来美展4「全身全霊」がスタートしました。会場はさいたま国際芸術祭のアネックスサイト旧大宮図書館です。みなさん、是非ご来場ください。会期は11月15日までです。
と、さらっと書きましたが、そもそも未来美展って何?さいたま国際芸術祭に参加してるの?なんで美学校が宣伝してるの?等々、疑問を持つ方も多いと思うので、そのあたりを説明してすっきりさせつつ、今回の展示を写真で簡単にご紹介したいと思います。
未来美展ってなーに?
一文にまとめると、「未来美展」とは未来美術家・遠藤一郎さんのプロジェクト「未来美(未来美術専門学校)」の参加者らによる展覧会。ということになります。
じゃあ未来美ってなーに?
それについても簡単に説明しておきます。プロジェクト名にもかかわらず専門学校とついているのがややこしいところですが、もともとは遠藤さんが個人で未来美術専門学校というトークのような企画を行なっていて、それが2014年の秋から美学校で講座として正式開講しました。つまり未来美はプロジェクト名でもあり、講座名でもあります。(会場のキャプションでは2013年から美学校で開講と書かれていますが間違いです。)
ちなみに未来美の内容については長くなってしまうのではこちらをお読みください→ 講師インタビュー/遠藤一郎(未来美術専門学校アート科)
当時はファッション系の別の学校で未来美ファッション科も開講していて、美学校では未来美アート科として開講したのでした。そして現在は東京以外でも開講していて、遠藤さん主宰で鹿児島と高知でもそれぞれ未来美鹿児島(未来美KAGOSHIMA)、未来美高知(未来美TOSA)として不定期に開催されています。という感じで、一言で未来美といっても、美学校の未来美、今はありませんが未来美ファッション科、未来美鹿児島、未来美高知と四つもあるわけです。
未来美展はこの四つの未来美の現役生と修了生が参加する他、講師の遠藤一郎さんやゲストアーティストらが参加しています。毎回参加する人もいれば、1回限りという人もいます。修了生の作品や活動が継続的に見れるのも未来美の魅力です。
そして今回は未来美展4と「4」がついていますが、未来美としての展覧会は実は6回目です。笑
このテキストはリファレンス先としての意味合いも持たせて書いているので一応整理しておくと、
1→2016年「未来美術専門学校アート科」展「渦渦」会場:TAV GALLERY(東京)
2→2017年「未来美展」会場:ニワビル(鹿児島)
3→2018年「未来美展 2」会場:ニワビル(鹿児島)
4→2019年「未来美展 3」会場:ニワビル(鹿児島)
5→2019年「TOSAのMOSA」会場:藁工ミュージアム(高知)
そして今回の未来美展4
となります。
さて、すっきりしたところで、今回の展覧会について書いていきたいと思います。
今回は未来美展単体での開催ではなくて、「さいたま国際芸術祭2020」の「Sightama Art Center Project」の一環として、遠藤一郎さんの出展ブース内で開催という形式になっています。会場はさいたま国際芸術祭のアネックスサイト旧大宮図書館です。
さいたま国際芸術祭は本来であれば3月から5月に開催される予定でしたが、コロナウィルスによる感染症拡大の影響で度重なる延期を経て、ついに10月17日に開幕となりました。
未来美展4の参加者は31名。東京、鹿児島、高知の未来美生に加え、ゲストアーティストの田中偉一郎さん、遠藤さんの活動初期から度々コラボを行ってきたコバルト爆弾αΩ、遠藤一郎さんの別名義であるカッパ師匠、そして美学校事務局スタッフの私皆藤が参加しています。
今回の展覧会タイトルは「全身全霊」。遠藤さんがステートメントで
おもうがままに、おもいどおりに。
リスク、コスト、バランス、一切無視、予定調和なし。
どこまでも徹底的に熱のおもむく方へ。
つねに最高のわくわくでしかない
と書くように、出品にあたっては展覧会としての統一的なテーマやサイズなどの制約はありません。他者を気にせず、それぞれの熱のおもむく方へ、勝手に歩み出した先に表出したものが作品として並んでいる、といった印象です。
こちらが会場の旧大宮図書館。
近年取り壊しが多い近代建築ですが、このような特徴的なファサードを持つ建築物はその街の記憶や歴史になるので、保存して市民に開いて活用している大宮区を尊敬します。
会場に入って右奥に進むと未来美のブースが見えてきます。
こちらはミラクルナビゲーターさんの作品、というか研究発表。
ミラクルナビゲーターさんは縄文の石器文化についてフィールドワークを続けていて、今回は石棒をテーマに発表しています。毎年未来美では合宿を行っているのですが、実は今年の1月と9月にミラクルナビゲーターさんのコーディネートで日本最大の石棒を見に行ったのでした。入り口では『ミラナビ』という小冊子が配られているのでご興味のある方は是非お持ちになってください。
会場の様子。様々な作品が縦横無尽に吊り下げられています。中央の作業服は遠藤一郎さんの作品です。
作業服の先には、同心円状に並べられた小石とその中央にミラクルナビゲーターさんが石器を使って手作りした石棒が置かれ、さらにその奥には「ほふく前進御百度参り」の映像が二面で上映されています。
遠藤さんの作品についても説明しておきます。旧大宮図書館の前は氷川神社の参道となっていて、その参道は全長2kmあり日本最長だそうです。その参道を遠藤さんは、ほふく前進で御百度参りするというプロジェクトを2月8日からはじめ、1日も休まずついには5月17日に100回を達成しました。今回はそのプロジェクトをインスタレーション作品として発表しています。
写真は5月17日の100回目の様子。
吊り下げられた作業服はほふく前進で着ていたもので、コンクリートや石の地面を這ってこすっていたため、ボロボロに傷ついて幾重にもビニール状の当て布が施されています。
芸術祭の会期中は、遠藤さんがカッパ師匠となり会場の外でお茶をしていますので、見かけた方は声をかけてみてください。
さて、未来美生たちの作品ですが、30人以上が参加しているので、今回は今年東京で受講している4名の現役生にしぼって紹介したいと思います。
小野美幸「Spin the brain(脳みそを紡ぐ)」
天井から吊り下げられているカラフルなものが小野さんの作品。様々な形のフェルトを縫いつけて、それをパッチワークにしています。上部には上向きの矢印と自身の写真の頭から目玉焼きやナポリタンが飛び出ているコラージュが施されています。
松宮うらら「流れる・登る」(写真中央)
大自然の風景を思わせる大きなパッチワークの中央上部に山の絵画が3枚配置されています。
肥田将磨「恥垢」
会場脇の通路になっている小階段に、絵画作品、木枠、仮面、土、モニターなどが乱雑に置かれて展示されています。モニターには肥田さんが仮面をつけて踊る映像が映し出されています。
瀧内彩里「善と悪」
会場奥の小部屋一部屋をまるまる使ったインスタレーションです。中央に祭壇のようなものが配置され、両サイドには回転するダルマ、その中央には神仏を思わせる金色に塗られた両性具有の人物の立体が座していて、背後には人間の生涯と、男女の性的特徴が混合した人物の絵が飾られています。その周りには「目」が文字や標語で、そして象徴として呪術的に描かれた作品が並びます。さらに床には「平等」、「生産性」、「努力」など、一見すると善だが押し付けられると悪にもなるような言葉がカッティングシートではられています。
以上が今年6月から受講している現役生の作品となります。
他にもご紹介したい素晴らしい作品や一風変わった作品(例えば全国のラーメン二郎のラーメンを絵画にした作品や、自身のアルバイト遍歴を伝記にした作品、SANDOというピンクの筒をくぐり抜ける作品など)があるのですが、膨大になってしまうのでここまでにとどめておきます。残りはさいたま国際芸術祭ととも是非会場でご覧ください。
ちなみにYouTubeの遠藤一郎さんのチャンネルで未来美展4の動画が毎日アップされています。参加者一人一人の作品が紹介されているので、こちらもチェックしてみてください。
未来美展 4「全身全霊」
出展:中村るつ、きーりょん、町田有理、川上遥か、島崎桃代、新チトセ、シマカミ リッカ、横江孝治、黒坂ひな、チキン・コルマ、東村恵子、ミラクルナビゲーター、木村奈緒、肥田将磨、石垣真琴、岸野織子、皆藤将、河童モルヒネ、細倉一乃、深浦亜希、久保亜図美、小野美幸、川路智博、松宮うらら、永石浩幸、YUTAKA.H、瀧内彩里、濱田工望、コバルト爆弾αΩ、カッパ師匠
特別ゲスト:田中偉一郎
会期:2020年10月17日(土)〜11月15日(日)[月曜休館]
時間:12:00〜18:00
会場:旧大宮図書館(埼玉県さいたま市大宮区高鼻町 2-1-1)
入場料:無料
☆予約制 https://art-sightama-official.peatix.com(「さいたま国際芸術祭2020」への予約で入場することができます。)