文=木村奈緒 写真=皆藤将・木村奈緒
去る5月2日から5日まで、アートのレシピ(講師:松蔭浩之、三田村光土里)第5期生による修了展「週末家族」が美学校にて開催されました(告知ページはこちら)。
展示最終日には毎年大好評の「公開講評会」を開催。講師の松蔭浩之さん、三田村光土里さんに加え、ゲスト講師として会田誠さんにお越しいただき、厳しくも愛のある講評が行われました。総勢11名の学生による40点以上の作品が並んだ本展。とても全作品は紹介しきれませんが、充実の展示風景と公開講評会の模様を合わせてお伝えします。
展示作品紹介
まぁみぃ『”You are Marcel Duchamp,right?”「君は現代アーティストだ!』ほか
作家曰く「現代美術に関わる者の一人として無視でき」ず、現代美術の祖マルセル・デュシャンの『泉』に正面切って挑んだ作品『”You are Marcel Duchamp,right?”「君は現代アーティストだ!」』。観客はオマルに貼られた「R.MUTT」のステッカーを自由に剥がして持ち帰ることができる。その他にも「主観」と「客観」を視覚的に表現した作品など、「現代美術」に真っ向から向きあおうとした作家の意気込みが感じられました。
高橋宏忠『uneasy』『Before born / After death』ほか
作品のスケール感と異様な佇まいから、会場でひときわ異彩を放っていた高橋さんの立体作品。カセットテープや蛍光色のスライム、真っ赤なキャンバスなどを用いた作品は、それぞれ「不安や不確かさ(『uneasy』)、生命(『Before〜』)」を想起させたかったとのこと。後期から入校したにも関わらず、その大胆不敵な作風について「新人ゆえにリスキーなことに挑戦できる」と松蔭さん。
渡邊悠太『警備菩薩』ほか
自分の顔が弥勒菩薩に似ていることにヒントを得て、作家自身が「警備員のバイトをする弥勒菩薩」になりすました映像作品『警備菩薩』。バックグラウンドに流れる読経に耳をすますと、「家賃5万3千円〜2ヶ月滞納〜生活困窮〜」という作家自身の窮状の訴えであることに気がつく。そして読経はやがてセックス・ピストルズの『god save the queen』に変わり、「no future, no future…」という怒声が延々と響き渡る…。菩薩に自身を重ねて涙した(?)観客も多かったようです。
大橋弘明(はしお)『マスゲーム』ほか
会場のど真ん中を占拠していたインスタレーション作品『マスゲーム』。リモコンや扇風機など、日常生活で見慣れた家電がミリタリー柄にペイントされている。「ミリタリー柄に染められることのない=軍事目的で使われることのない家電」と、「自分たちが戦争に行くわけないと思い込んでいる若者」を重ね合わせたそう。もともと服飾学校でファッションを学んでいた大橋さん。三田村さんは「ファッションの表層的な価値観に対する批評眼が養われている」と講評。
田田野『EVERY DAY ⊂ EVERY YEAR』『みんなの天然色』ほか
3秒間に1人が自殺している日本の現状をループ映像で再現した『EVERY DAY ⊂ EVERY YEAR』。男女の性器の色をネットでサンプリングし、クレヨンとして再現した『みんなの天然色』など、アイロニカルで一筋縄ではいかない作品を連発した田田野さん。資本主義経済や自殺など、社会問題を扱った作風について、会田誠さんは「扱うテーマも、ひねくれた性格も現代美術家向き」と評価。講師の松蔭さんと同年代で、今期の学生の中では最年長だった田田野さん。松蔭さんは「年をとったら頭が固くなるという既成概念を毎回ぶち破ってくれた」と、田田野さんとの刺激的な一年を振り返っていました。
きくもとゆみこ『掘りまた埋める』『たゆたう』ほか
日頃より舞台美術の制作に携わり、アートのレシピと並行して「実作講座『演劇 似て非なるもの』」も受講していたきくもとさん。本展では「言葉」に焦点をあて、観客参加型の作品を発表。自分の気持ちを表す「言葉」を砂に埋めたり、砂から掘り出したりする『掘りまた埋める』。電球を揺らすと現れる文字の影から、物語の永続性を連想させる『たゆたう』など、掘る、吹き消す、揺らすといった行為を通して、観客が自身の内面と向き合うことのできる「仕掛け」に富んだ作品でした。
宇田川汐里『些細な蓄積』『影にゆめを見る』
光に照らされて闇の中に浮かぶジャングルジムの影。色とりどりに輝くメリーゴーラウンド。どこか懐かしくも、少し怖いようなノスタルジックな風景を創りだした宇田川さん。宇田川さんにとっては「子どもの頃に見た景色こそがリアルな景色」であり、それを再現することで、大人になってしまった今とは違う見え方を再確認してみたかったとのこと。三田村さんは「かわいいだけでなく、ちょっと怖いと感じてしまう要素を生かしていくといいのでは」と講評。
サスキア・サキ『脱、脱毛…?』
新進気鋭のモデルとして活躍中のサスキアさん。モデルという職業柄、気になっていた「脱毛」をテーマにしたセルフポートレート『脱、脱毛…?』を展示。海外ではワキ毛を生やしているセレブが多いのに、日本には脱毛広告が溢れている。「ワキ毛は脱毛すべきなのか?」そんな疑問を作品にした。脱毛後の毛穴が「いちごのぶつぶつ」に例えられることから、いちごに扮し、ワキ毛も生やして撮影に臨んだそう。三田村さんは「モデルだけあって、これまでの美学校の生徒にはなかったセンスがある。そのセンスを生かしてほしい」とアドバイス。
立岩有美子『石・草人間』『the miracle water』ほか
会田さんに「良い意味でも悪い意味でも天才肌」と評された立岩さん。教場の一角を陣取って作品を展示、というより立岩ワールド炸裂。「家の近くの森林を歩いた時に、草と人間が融合する感覚を怪人として表現」した立体作品『石・草人間』。ヘレン・ケラーのエピソードを引用し、目が見えない状態で顔に水をかけてもらい、水を感じた部分に「みずー!」と叫びながらマジックで「水」と書き続ける映像作品『the miracle water』など、繊細さと暴力性がないまぜになった世界観がやみつきに。松蔭さんは自分の「レシピ」が全く通じない立岩さんについて、ある時「何かに化ける可能性はある。イチかバチか賭けるしかない」と思ったと複雑な(?)心情を吐露。
斎藤はぢめ『トーキョーガールズコレクション』ほか
これまでも「コスプレ」をテーマに作品を制作してきた斎藤さん。コンビニ店員の制服や死装束など、社会的意味を持つコスチュームを自身がまとう・演者にまとわせることで、社会的規範や演者の感情に揺さぶりをかける作風が高く評価されてきました。本展で発表された『トーキョーガールズコレクション』は、未婚で子どものいない女性に、妊婦や母親のコスプレをしてもらい、「出産」に関する心情の変化を捉えた映像作品。あくまで「コスプレ」のはずが、演者にリアルな感情の変化が生じ…。これぞまさにリアルな「トーキョーガールズ」の姿でした。
羽吹理美『展覧会内展覧会「アート・ベン」』
キュレーターを志している羽吹さんは、展覧会内展覧会を企画。会場はなんと美学校のトイレ。なんでも、5期生全員で参加した横浜トリエンナーレの「アート・ビン」(巨大なゴミ箱に作品を投棄するという、イギリス人アーティスト、マイケル・ランディの参加型作品)で、成功作の裏側にはたくさんの失敗作があることに思いが至った羽吹さん。その構図が、開講以来数十年にわたって学生や講師陣の排泄物を受け止めてきた美学校のトイレと重なり、「BIN」が「BEN」になったというわけ。週末家族に出展しなかったボツ作品や、作家がボツにしたアイディアを実現させてもらった作品を展示したトイレは、失敗作ならではの初期衝動に満ちた、エネルギーある展示空間になっていました。
……と、ご紹介してきた通り、11名全員が一年間同じ「レシピ」を学んでも、その「調理方法」はそれぞれ全く異なるのが「アートのレシピ」の魅力です。5月16日(土)には、2015年度5月期の初回授業見学も開催します。展示を見て、記事を読んで興味を持たれた方、受講を迷っている方は是非この機会に見学にいらしてください!
▶参考リンク
togetter「アートのレシピ第5期生修了展『週末家族』公開講評会の模様」
▷授業日:毎週土曜日 13:00〜17:00
俗にいう「現代アート」に限らず、音楽、映画、サブカルもアングラも含めた文化全般を視野に入れた講義、ワークショップを実施します。かならずしもアーティストを養成することが目的ではないですが、節々でアートの実践を体験してもらうことで、クリエイティビティー(=創意工夫)の本質を知ることを目指します。