美術家として日々精力的に制作を行いながら、私塾でありアートコレクティブである「パープルーム」を主宰してきた梅津庸一さん。近年は、製陶所や版画工房と協働して制作を行うほか、2025年8月にはダイエー海老名店にパープルームギャラリーをオープン。機能不全を起こした既存の美術のインフラに頼らず、前衛としての美術を体現してきた梅津さんが2025年に開講したのが「出張!パープルーム予備校 美術をつくる」です。今「美術をやる」「作品をつくる」とはどういうことなのか? パープルームの現場であるダイエー海老名店でインタビューを実施。後半では梅津さんに加え、サブ講師でありパープルームギャラリーの副店長でもある安藤裕美さんにも加わっていただき、お話をうかがいました。

梅津庸一(うめつ・よういち)|美術家、パープルームギャラリー店長。絵画、版画、陶芸、映像、展覧会企画、ギャラリー運営、批評など多岐にわたる活動を展開。 主な展覧会に「クリスタルパレス」(国立国際美術館、2024)、「ポリネーター」(ワタリウム美術館、2021年)、「パープルタウンでパープリスム」相模原各所(2018年)など。
安藤裕美(あんどう・ゆみ)|画家、パープルームギャラリー副店長。パープルームの初期から主要メンバーとして活動に参加。身近な作家の制作や生活の様子などを油彩、水彩、まんが、アニメ、銅版画を用いて描き、記録している。主な個展に「ものをつくる人々」(ROPPONGI HILLS A/D GALLERY、2025)など。『美術手帖』にて漫画「前衛の灯火」を連載。
ダイエーからはじめよう
梅津 2025年8月にパープルームギャラリーがダイエー海老名店にオープンしてからは、授業の半分以上を海老名で開催しています。フードコートで授業をしたり、実際の展覧会を見せながら話をしたり、時にはダイエーのバックヤードもご案内したり。今のパープルームの一番の現場はダイエーだと思っているので、教場で知識や経験を言葉で伝えるだけではなくて、現場に来ていただいています。
今「現代アート」と言っても、すごく多様化・多元化していて、デモみたいなものも作品だし、内職のような細かい仕事も作品とされている。「美術をやる」「作品をつくる」と言ったときに、いったい何を指すのか、美術のフィールドが見えにくくなっています。いっぽうで、アートマーケットがしっかりしてきたり、美術のインフラが整備されたことで「分類できないこと」はしづらくなって、すごく見えやすくなっているとも言える。
だからこそ、一番ベーシックとされる絵画を起点に、もう一度作品をつくることや美術について考えなおしていこうよという意味で、1年目は講座のサブタイトルを「絵画からはじめよう」としていたんですが、ギャラリーがオープンしてからは実質「ダイエーからはじめよう」になったといいますか。実は講座が開講したときは、ダイエーのテナントとして入ることはまだ決まっていなかったんです。

ダイエー海老名店2階に入るパープルームギャラリー
美学校は、戦後の前衛美術を教場から支えてきた場所だと思っています。美学校でできたコミュニティがプレイヤーを育てたり、日本のアートの風景そのものをつくってきた。ともすると、美大よりもずっと影響力があると思っていて。いっぽうで、パープルームは独自に私塾をやってきたので、美学校には親近感を持ちつつ、ライバルとまでは言わずとも意識はしていました。
自分たちでパープルーム予備校をやっていたときは、生活と教育と制作がもっと入り混じっていて、それでしか生まれない熱量がありましたが、そのやり方にも功罪があるなと。生活のすべてを投じる必要があるから、誰でも受けられるわけではないですし。特にコロナ禍以降は閉じた形でスクールをしていることの難しさを感じていて、ならば美学校の講座という形でパープルームの教育部門を続けたほうがいいかなと考えて「出張!パープルーム予備校」を開講しました。

インタビューはダイエーのフードコートで実施
作家としての基礎工事をする
梅津 1年目は11人の受講生が集まりましたが、思った以上に作家志望の人が多かったですね。結構昔に美大を卒業したけど、うまくいかずに地方でフラストレーションを感じている方もいれば現役美大生の方もいて、年齢層は幅広いです。講座に対する熱意も幅があって、毎回広島から通ってこられる方もいれば、もっとラフな感じで通っている方もいます。もともとパープルームを追っていた方も、パープルームとか興味ないよって方もいて、皆さんの見ている方向は結構違いますね。
授業はディスカッションが中心で、話す内容は実践的な内容が多いです。「こういう展示をしたときは、こういう段取りが必要でした」とか「こういうふうに言ってる人がいるけど、実際はこうでこうでこうなんです。どう思いますか?」とか。あんまり先生然としないように気をつけていて、本の内容を要約してあげると、本を読むのが苦手な人は分かった気になって気持ちよくなると思うんですけど、それだとまとめサイトと変わらない。個々に考えてもらいたいので、あえて尊敬されないような雰囲気を出しています(笑)。
課題も出しますが、課題の内容は授業の3日前とか前日に伝えています。なぜかと言うと、課題のために頑張るのは違うと思っているからです。特殊な課題は出さないので、普段から普通にやっていることをさっと出してもらう。その瞬発力が大事だなと。「自分のステイトメントと最近観た展示のレビューを書く」という課題では、みんなで全員分の文章を読んで意見を言い合いました。

たとえば、ひとりの受講生が、ある作家の展示を結構素直に褒めていたので、ちょっと待てと。その作家が他の作家との差異化をはかるために、どういう選択をしてきたかを、ギャラリーや作家の名前を挙げながら説明して。あこがれている作家を素朴に褒めるようなレビューを書いてしまうと、一生そこに従属することになってしまう。そうなるといくら頑張っても無になってしまうから、まずはちゃんと基礎工事をする必要があるよと。
つまり、アートのメディアで謳われているキャッチコピーとか、レビューで書かれていることって、ライトユーザー向けの謳い文句でしかなくて、僕たち作家はそこに書かれていない、なんなら本にも書かれていないテキストを読まないといけませんよって話をしています。内心尊敬している作家でも、少し警戒心を持って意地悪く見る必要があると。そんな感じで、ひとつのワードをきっかけに、高い解像度で話を広げていっています。
あと、講座ではゲストをたくさん呼んでいます。1年目は梅沢和木さん、浦川大志さん、筒井宏樹さん、中ザワヒデキさん、奥村雄樹さん、西島大介さんに来ていただきました。パープルームギャラリーにお客さんとして来ていたキュレーターの保坂健二朗さんにも無茶振りをして、その場で授業をしてもらったり。僕が制作をしている町田の版画工房カワラボ!での授業も予定しています。
講座としての修了展は開催しませんが、おのおのが展示場所を自分で探して展覧会をやってほしいなと思って、今はそれに向けてのアドバイスをしています。講座の修了展にしてしまうと「出張!パープルーム予備校」出身の作家ですって色がつきすぎてしまうので。アーティストとしての自立を考えた場合、あまり色がつかないほうがいいかなと。今年度は作家志望の人が多かったので、実際に展示に至らないにしても、プランは出してもらうようにしています。

浦川大志さんのゲスト講義にあわせて美学校の教場で開催した展覧会
「ドローイング1969-2025 前衛美術の残滓とコレクティブ時代の気分たち」
急な開催にもかかわらず、多くの人が来場した
客商売のベーシック・本来のオルタナティブに立ち返る
梅津 ダイエーでパープルームギャラリーを開いてみたら、お客さんの7割ぐらいが地元の方々でした。毎日親子連れが2〜3組は来ます。お姉ちゃんが学習塾に通っていて、その待ち時間にお母さんと妹さんが毎週来るとか。地元民から固定客が生まれています。でもそれはごく一部の海老名民とか大和民であって、美術やギャラリーに興味のない人が大半ですからね。催し物会場とかポップアップストアだと思われていることも多くて、展示が終わるころに「さみしくなります」とか言われて「いやいや、まだいますよ」って(笑)。
テナントとしてダイエーに入ってみて、ことのほか店長としての自覚がありますね。ダイエーに美術のテナントが入るのは初めてらしくて、最初は僕もおどおどしていたんですが、バックヤードの通用口から売り場に出勤してくると、ちょっと気持ちが切り替わるんです。「いらっしゃいませ」みたいな気持ちになる。美術業界で活動してるときも、観客とプレーヤーっていう客商売の関係があったはずだけど、ダイエーに身を置いたことで、僕がお客さんを迎える側なんだっていう客商売のベーシックな部分にあらためて気がついた。

「ファンシーの切断面 そして、無人の待合室」
パープルームギャラリーの隣のテナントだった
婦人服店シノンの閉店をきっかけに企画された展覧会
パープルームギャラリーは、40テナントあるうちのひとつでしかないんですよね。そのなかでも主要なお店じゃなく変なお店。それによって美術の身の程を知るというか。雇われてるんじゃなくて、自己責任で身銭を切ってやることを思い出して、オルタナティブってこういうことかなと。2010年代は、オルタナティブが成立している時代もあったと思うんですけど、プレゼンスがあがっていくと美術館の展示に呼ばれて当たり前とか、メディアに取り上げられて当たり前になって、オルタナティブそのものが難しくなってしまった。僕自身もそうなってる部分があって、すごく反省しました。
ダイエーでは、どんなに自信のある展示をしていても、たいがいの人はフードコートとかにいるわけです。かといって呼び込みに行くのも変なので、興味のある人がすっと入ってこれる場をじっと我慢して用意するしかない。たとえお金にならなくても。それが「美術」なんじゃないか。美術の世界では不条理と思われたり、なんで理解されないんだって思うことこそが、多くの人の常識であって、昨今のソーシャリー・エンゲイジド・アートとかは、それをすっ飛ばしてやってきちゃってたんだなって。僕も含めてですけど。ダイエーにいると、そのことを毎日思わざるをえません。言葉にすると本当に当たり前の話なんですけどね。

観客をつくり、美術をつくる
梅津 今のところ講師は僕がメインですが、1年目も安藤さんが一人で担当した回がありましたし、ゆくゆくは安藤さんの比重を大きくしていきたいと思っています。安藤さんって他人にあんまり興味がないんですけど、人にモノを伝えていくのも作家として必要な能力だし、安藤さんにしかできないこともたくさんあると思うので、それをやってほしいなと。
安藤さんの強みは、一点突破というか集中力がすごいところですね。藝大に入って「つまんない」って理由で中退してますからね。猪突猛進というか白か黒かというか。今の世の中って良くも悪くもグレーばっかりなので、安藤さんみたいなタイプは不利ではあるんだけど、大事な姿勢だと思うんですよね。古き良き前衛の精神が僕よりもあって「安藤、なんでそっちに行ってるんだよ!」って思うことがたびたびある(笑)。何より安藤さんは地道な努力をずっとしています。毎日制作もしてるし「パープルームTV」の編集も全部している。「出張!パープルーム予備校」は、やる気があれば最高の講座だよね?
安藤 楽しい講座ですけど、作家になったり美術でやっていく覚悟があったら来たらいいんじゃないかな。
梅津 違うでしょ!「まさか美学校でこんなに密度の濃い授業が展開されるとは、私も驚きました」でしょ(笑)。
安藤 梅津さんが展示づくりとかについて真剣に話す回は、みんなの満足度が高いですね。2年目は、私ももうちょっと講師として頑張ろうかなと思ってます。これまでは、何か思ってもそんなに言わなくていいかと思うことが結構多かったんですけど、自分がパープルームで経験してきたことや見てきたことが受講生に役立つなら話してもいいのかなと思います。

梅津 あと、講座を通して観客も育てたいんですよね。パープルームには限りなくプレーヤーに近い観客がいっぱいいて。今の作家は、単に自分の承認欲求を満たしたいとか、他人から認められたい人が多くて、受け手のことを考えていない。でも作家じゃなくて観客に主導権が移ることも多々あるんですよ。だから作家が常に主人公キャラではダメで、脇役にならなきゃいけないタイミングがあることも伝えていきたいです。
今回のパープルームギャラリーの展示に、香川から3回も通ってきてる人がいたり、noteでめちゃくちゃ長い感想文を書いてくれたりする人がいるんですけど、そういう人たちに対して活動していきたいですよね。美術ってそこを甘えがちなジャンルだと思っていて、つい美術館やギャラリー、インフルエンサーやキュレーターの動きに乗っていこうとしてしまう。そうなると作家は商材と変わらない。ファンがいれば良いってことじゃないですけど、観客をつくることも、美術をつくるうえで欠かせない要素だと思っています。

2026年2月25日でダイエー海老名としての営業を終了し、イオンに生まれ変わる
41年間の営業に対して多くのメッセージが寄せられていた
パープルームギャラリーを含む専門店は変わらず営業を続ける
フロントラインとしての現代アートをやる/作家として立つために
梅津 今の若手って、発表の機会は結構あるんですよ。卒展に若手専門のギャラリストがスカウトに来て、すぐグループ展に出たり。発表しやすくなって良いと思う反面、消費されやすく飽きられやすい。こういう作品がウケるといった傾向と対策がSNSを介して可視化されすぎていて、変に焦ってしまったり、作風が早い段階で固定されてしまったりする。だから、講座では受講生がギャラリーのコンペに受かって喜んでいても、安易に「おめでとう」とは言いません。美術ってお稽古ごとの発表会ではないですからね。講座は冷水をかける場所でもあるんです。
1990年代の美術が輝いて見えるのは「なかった」からです。発表場所がなさすぎて、苦肉の策でやったことが今輝いて見える。でも、同じようなことが今の僕たちにできないわけではない。中途半端なご褒美がいっぱいあるから、みんなそっちに行っちゃうだけで、一回そういうものをデトックスじゃないですけど、断ってみたほうがいいんじゃないか。昔は現代アートというものが、前衛というかフロントラインだったと思うんですけど、今は現代アートのなかに制度疲労をおこした水脈があって、その中を古くなって濁った水が流れている。そういう中で活動することは精彩を欠いていて、知的な営みでもなんでもありません。

年齢を重ねると、効率化を考えたり、これはやっても意味がないんじゃないかと考えてしまいがちだと思うんですけど、僕はなるべく自分がやってこなかったことにもチャレンジしていきたい。スポーツ選手で言うところの、筋トレとか走り込みのようなものがなくなっていくと、すごく空虚なブランディングに頼ることになってしまう。だからなるべく現場感を失わないようにしたいと思っています。僕が美大批判をしている理由も、絶対に美大からのオファーが来ないようにするためなんですよ。教えることが本業になってる作家って本末転倒ですから。
自ら退路を断っていくというか。美大も無理で、コマーシャルギャラリーにも所属せずとなった場合、細かく走りながら元気にやっていくしかない。もはや現代アートなのかすらも怪しいというか。僕が今やっているのは、版画・陶芸・ダイエーですからね(笑)。
ともかくも「出張!パープルーム予備校」を受講したら、自分でちゃんと活動していけるようになります。どこどこのギャラリーに所属しやすくなるとか、外からの承認を得るとかじゃなくて。最初はバイトをしながら作家活動せざるをえないとしても、そこからいかに自分が主導権を持って楽しく美術をやっていくことができるか。そのための所作を反面教師的にでもいいから僕らの現場を通して学んでもらえたらと思っています。
2026年1月29日収録
取材・構成=木村奈緒 写真=皆藤将
〈絵 画〉
▷授業日:毎週土曜日 13:00〜17:00
モノ(事柄)を観察し考察し描察します。モノに対する柔軟な発想と的確な肉体感覚を身につけます。それぞれの「かたち」を模索し、より自由な「表現」へと展開する最初の意志と肉体の確立を目指してもらいます。
▷授業日:毎週水曜日 18:30〜21:30
細密画教場では目で見たものを出来るだけ正確に克明にあらわす技術の習得を目指します。この技術は博物画やボタニカルアート、イラストレーションなどの基礎になるものです。
生涯ドローイングセミナー 丸亀ひろや(+OJUN+宮嶋葉一) 
▷授業日:毎週木曜日 18:30〜21:30
Drawing「線を引く。図面」などを意味します。美術の世界では、紙などに鉛筆やペン、水彩などで描かれた表現形式を言います。描ける材料ならどのような画材でも持参してください。毎回ドローイングの制作を行います。
▷授業日:毎週土曜日18:30〜21:30(毎月第三週は日曜日13:00〜17:00)
本講座では自立した作家として歩み出せるように、制作実践のための可能性を探究し続けます。内容は基礎素材論に始まり、絵画制作に必要な準備の方法を習得するために、古典から現代までの作品研究等をゼミ形式で随時開催します。
▷授業日:昼枠 毎週木曜日13:00〜17:00/夜枠 毎週木曜日18:00〜21:00
油絵を中心としながらも、アクリル絵の具、水彩なども含めて幅の広い表現を試みていきながら素材自体も自分で選んで絵を描いていきます。絵を描くのと同時に「私は何故絵を描くのか?」と「どのような絵を描きたいのか?」の両方を考えながら絵に向かっていきましょう。
テクニック&ピクニック〜視覚表現における創作と着想のトレーニング〜 伊藤桂司 
▷授業日:毎週月曜日 19:00〜22:00
グラフィック、デザイン、イラストレーション、美術などの創作における技術の獲得(テクニック)と楽しさの探求(ピクニック)を目的として、シンプルながら多様なアプローチを試みていきます。
▷授業日:隔週金曜日 13:00〜17:00
本講座では絵画を起点に今一度美術の在り方を考えます。全体を変えることはできなくとも自分なりの価値基準の物差し、あるいは持続可能な活動の下地をつくることはできるかもしれません。制作だけでなく座学、個人面談などを通して総合的に絵画に紐づくあれこれを探求します。
▷授業日:隔週水曜日 13:00〜17:00
この講座では、技術を1から教えるのではなく、それぞれの絵をどう面白く展開していくかを探っていきます。基本的には油彩で描きたい絵を自由に描いてもらいますが、時には課題やテーマを決めて描くこともあるかもしれません。放課後の部活のように絵を描き、話をしていきましょう。





