「ルポ 場末の現場から」
第2回イベントレポート「工藤哲巳ナイト」



去る2013年9月12日(木)、美学校にて「工藤哲巳ナイト」を開催しました。

現在、国立国際美術館(大阪)で回顧展が開催されている「工藤哲巳」という一人の作家にフィーチャーしたイベントで、当日は「工藤哲巳」という人物に吸い寄せられたお客さまとともに、ハプニング・レクチャーなどを通して「工藤哲巳」を体感しました。 その一部始終をレポートいたします!

イベント開始!と思いきや…


まだまだ残暑が厳しい折、エアコンがない会場には約20名の方々が駆けつけてくれました。ほとんどが初めてお目にかかる方で、イベント開始前から工藤の魅力を思い知らされることに。

19時10分。定刻より10分ほど遅れてイベント開始。まずは、イベントの企画者であり司会者である私、木村奈緒からイベント企画の趣旨をご説明。私自身、工藤の存在を知ったのは半年ほど前。一見気持ち悪い工藤の作品を見て「なんなんだこれは」と思ったのがそもそもの始まり。それ以来「なぜこんな作品を作ったのか、作家はどんな人なのか…」と工藤のことが頭から離れず。

そんな折、回顧展の巡回先でもある東京国立近代美術館で回顧展のプレ・イヴェントが開かれると聞き、一も二もなく参加。多角的に語られる工藤の話を聞き、すっかり「工藤ウィルス」に冒された私は、一人でも多くの人に工藤について知ってもらいたい!こうなったら自分でイベントをやるしかない!と心に決めたのでした。

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(プレ・イヴェントのチラシ)

しかし、工藤初心者の私だけではさすがに厳しい、そこで協力を仰いだのが回顧展の企画者である島敦彦さん(国立国際美術館副館長兼学芸課長)。突然のお願いにも関わらず、快諾してくれた島さん。私もお客さんと一緒に工藤について学びたいと思い、工藤に関するレクチャーをしていただきました。

早速レクチャー開始。まずは工藤の基本的な説明から。「工藤哲巳は1935年生まれ、同時代の作家に中西夏之や…」2

 檀上にあがる闖入者

レクチャー開始早々にも関わらず、にわかにざわつく会場。よく見ると一人の闖入者が。スキンヘッドに着流しの着物を着た闖入者はそのまま壇上に座りこみます。先端に電球がついた男性器状のものを股間に挟み、電球が点灯。ぐるぐると上半身を回転させながら何やら唱えている…。「ヒューマニズムの腹切Re:mix…ヒューマニズムの…」そう、彼は工藤が1963年の第3回パリビエンナーレで行ったハプニング「ヒューマニズムの腹切り」を現代版にアレンジして、工藤哲巳を演じているのです!

普段は若手現代美術家として活動している中島晴矢くん。以前から三島由紀夫や芥川龍之介のパフォーマンスを行っていたことや、偶然にもスキンヘッドの風貌が工藤に重なり、出演をお願いしたのでした。

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「ヒューマニズムの腹切Re:mix」を演じる中島晴矢くん

最後は股間の電球を割り、股間から立ち上る白煙と共にハプニングも無事?終了。気を取り直してレクチャー再開です。

工藤哲巳入門


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 写真奥左:島敦彦さん 右:木村奈緒

まずは、工藤を語る上で外せないハプニングをはじめとする身体的行為について。学生時代の「制作実演」、渡仏後に精力的に行ったハプニングの数々、挑発的なハプニングから一転、内省的なセレモニー、パフォーマンスへと変化していった様子などなど、言葉が通じないヨーロッパにおいて「身体的言語」としてハプニングを用いていたことが良く分かります。7 2

 工藤哲巳のレクチャーをする島敦彦さん

工藤の挑発的なハプニングや作品だけ見ると、過激な人なのかな、などと想像してしまうのですが、言葉が通じない中で自分を知ってもらうためにハプニングを行うなど、作家としてとても戦略的というか意識的だったのだなと思います。(もっとも工藤は作品それ自体より、作品を通して誘発される議論や思考を重視したのであって、その目的を達成するためには、何よりもまず作品に目を留めてもらわなければならない、という点で意識的にならざるを得ないのでしょう)

もちろん工藤の活動はハプニングのみに留まりません。続いては、工藤が生涯にわたってどんな作品を作ってきたのか、スライドとともに振り返りました。8 2

 工藤が好んで読んだ原子物理学や集合論の書物から引用されたと思われる 「増殖連鎖反応」や「融合反応」と題された20代の作品から、渡欧後徹底的にヨーロッパ人をいじめ抜いた作品、攻撃の対象が芸術家自身になった頃の作品、自身の原点である津軽に回帰していった晩年の作品など、作品から工藤の半生が見えてくるようでした。なぜサイコロや鳥籠を頻繁に用いたのかなど、作品の背景についても興味深い話が伺えました。

まだまだ終わらない!工藤哲巳ナイト


 工藤について理解も深まったところで、一旦休憩タイム。ハプニング、レクチャーときて次は何がくるのか?!休憩開け、イベントはある美術家の映像で再開されました。

「会田誠が語る工藤哲巳」

そう、実際に工藤哲巳に会ったことのある会田誠さんに工藤についての印象を伺ってきました。港でほろ酔い気分(瀬戸内国際芸術祭で男木島に滞在中でした)の会田さんに直撃。「工藤哲巳ってどんな人でした?」

会田「うーん、あの人の人格を説明するのは難しいなぁ、、」と言いながらも「とにかくハードなアル中で飯食わないんだよね。アンプルっていうの?強壮剤のハードなやつが主食で。」「声がまろくて、断言するんだよね。カリスマ性があるというか。惹きつけられる人は惹きつけられる」とのこと。

もちろんこれは会田さんから見た工藤の一面で、工藤がどんな人だったかは是非回顧展で工藤の作品を通して感じてもらえればと思います。

ハプニング、レクチャー、コメント映像。ときたらさすがにイベントも終わりか…と思いきや、9

 ここで普段着に戻った中島くんがお盆を手に持って登場。お盆には白い液体の入ったカップが…。これ、実は精液(を模したお酒)なんです!工藤の作品のひとつである「インスタント・スパーム」(即席精液)を再現してみました。工藤のハプニングを記録した映像には、かの瀧口修三らもインスタント・スパームを飲んでいる姿がおさめられています。

今や精子の凍結保存なんてものもありますし、そんな現状がユーモラスにヴィジュアル化されているようです。実際はコンドームに精液を入れ、コンドームの先端を噛みちぎって飲むのですが、今回は衛生面を考慮して、コンドームから直接飲むのは中島くんのみ。お客様方にはカップに入れた精液を飲んでいただきました。

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写真左:インスタント・スパームを手にする中島くん  写真右:飲み終えたインスタント・スパーム

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 さらに話が深まった質問タイム最後は会場からの質問タイム。

工藤が千葉県房総の鋸山に制作した巨大な岩壁モニュメント「脱皮の記念碑」を見に出かけたという熱心な男性からの質問や、科学者だった父親が昔言っていたこと(将来食物を人工的に作れるようになる、など)と工藤の作品がリンクするといった感想をいただき、充実した時間となりました。

そんなこんなで、工藤が生きていたころの雰囲気を少しでも再現したい!と欲張ってやりたいことを全て盛り込んだイベントもこれにて終了。もちろんこのイベントだけでは工藤の作品・魅力について伝えきれないことも多かったので、ぜひ展覧会に足を運んで実際に作品をご覧いただければと思います。

私とて半年前に工藤哲巳に出会わなければ、このようなイベントを開くことも、薬局でコンドームを吟味することも、リアルな精液を追及してヨーグルトとお酒の調合を何度も試すことなどなかったでしょう。でも、工藤哲巳に出会えて良かったと思っています。私を含め、今も多くの人が工藤を支持するのは、工藤の作品が「人間はどう生きるか」という根源的な問いをはらんでいるからではないでしょうか。

放射能や環境汚染についても早くから言及していた工藤。原発事故を経験した現在の日本において、工藤の作品はより一層リアルに迫ってきます。私は工藤の作品を見て、これは紛れもなく「わたしの肖像」だと思いました。工藤が人生をかけて提示しつづけた私たちの姿に向き合い、どう生きるべきなのか考えていきたいと思います。

編集後記


 「工藤哲巳回顧展-あなたの肖像」@国立国際美術館行ってきました。圧巻!の一言。工藤哲巳作家人生の全てがつまった展示です。制作メモなどの資料展示も、コレクション展も充実!(コレクション展は工藤と同時代の国内外の作家・工藤に影響を受けた作家の作品を展示)

東京、青森にも巡回予定ですが、大阪でしか見られない展示になっていると思いますし、何より今すぐに見られますのでみなさま是非大阪へ。2014年1月19日(日)までやっています。

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これが噂の自立する図録!展覧会が追体験できるかのような内容です


「あなたの肖像−工藤哲巳回顧展」

国立国際美術館:2013年11月2日(土)〜2014年1月19日(日)
東京国立近代美術館:2014年2月4日(火)〜2014年3月30日(日)
青森県立美術館:2014年4月12日(土)〜6月8日(日)

展覧会特設サイト:http://www.tetsumi-kudo-ex.com/

「工藤哲巳ナイト」アーカイブ 

・映像(USTREAM)

・Togetterによってまとめられた関連ツイート

 


「ルポ 場末の現場から」

筆者 木村奈緒が企画したイベントのレポート、気になる人へのインタビューなど、私の趣味に偏った主観的ルポルタージュを発信。都会の片隅で忘れ去られがち、見過ごされがちなヒト・モノ・コトに光をあてていく(予定)。

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木村奈緒

1988年生まれ。上智大学文学部新聞学科でジャーナリズムを専攻。卒業後、メーカー勤務の傍ら美学校に通いだして人生が横道に逸れ始めて脱サラに至る。これまで企画したイベントに「工藤哲巳ナイト」(2013、美学校)などがある。