めっきり涼しくなり夏の終わりを感じさせる今日この頃ですが、みなさま、最高の夏は過ごせましたでしょうか?
今回のコード分析は、この夏、細金卓矢氏によるMVが話題となった、tofubeats『No.1 feat. G.RINA』をお届けします。
どこかで聴いたことのある親しみ易さの中にちりばめられた強烈なフック。ビデオ内で鰹節と醤油をかけられるご本人のユーモラスな姿そのまま(?)に、ポップさの中にもエッジの効いたセンスが伺える一曲となっております!
この『どこかで聴いたことのある』感じは何なのか?そして、耳に残る尖った要素の正体は何か?
今回はこの二点に注目していきましょう!
いざ耳コピ…の前に
ということでコピーしていきます。
ところで、楽譜のない曲を『耳コピ』していく場合、どこから手をつければ良いのでしょうか?連載四回目にして根本的な問題が出てきましたが(笑)。
一般的なポップスをコピーする場合、ある程度の仮説を立ててからコピーに臨むのが効率的です。というのも、ポップスにおいては、ある程度定番のコード進行というものが存在するからですね。まず曲を聴いた段階で、「お、この曲はあのコード進行に似ているな」という具合に、アタリを付けておく訳です。
音楽(とりわけポピュラー音楽)は何も無い所から発想される訳ではなく、しばしば先行する音楽を少なからず参照して作られ、そして聴かれるものなのですね。
今回の楽曲も例外ではありません。曲の骨子になっているコードは、古今さまざまな音楽で使われる進行。『どこかで聴いたことのある』感じの正体はまさにここにあるのです!
いざ分析!耳コピのアタリを付ける
前置きが長くなりました。この曲の『どこかで聴いたことのある』要素である、コード進行の骨格の部分を見ていきましょう。
曲の基盤となっている運動の原型は『Ⅵ♭→Ⅴ→Ⅰm』系。キーに合わせると、『B♭→A7→Dm』です。
コードを弾けない方は、単音でも良いので音を出してみてください。
どうでしょう?この動きを聴いたことがない人はいないと思います。これぞ、シンプルなロックからR&Bまで、あらゆる楽曲に使われており、必ず誰もが『どこかで聴いたことのある』原型的な運動の一つです。
このシンプルな3コードを基盤として、さらにアタリを絞り込んでいきましょう。パッと聴いてみたところ、以下のような印象を得ました。
♭Ⅵ→Ⅴ→Ⅰm→Ⅳ→Ⅳm→♭Ⅶ→Ⅰm
これをキーに併せて、セブンス及び付加要素を付け加えてみます。
♭BM7→A7→Dm7→G7→Gm7→C→♯Cdim→Dm7→Cm7→F7(9)
上記が、一聴した時に「あ、コレに似ているな」と感じたコード進行です。
コード数多いですが、是非自分でも弾いてみてください。どうでしょう?これも絶対に一度は聴いたことのあるコード進行ではないでしょうか?
仮説をもとに音を検証!
では、仮説をたたき台に、実際に0:42からの4小節のコード進行をコピーしていきましょう!エレピの音だけでなく、ベースの音も意識して音をとってみると、このようになります。
♭BM7→Gdim→C/D→C/G(→Am/G)→Gm7→A/♯C→C/D→Cm7/♭E→F7(9)
さきほどの仮説と比較してみてください。仮説と実音との差分を楽しむのも耳コピ&分析の醍醐味であります。そしてこの『差分』にこそ、その曲ならではの面白みが込められているのです。
仮説との差分を読み解こう!
仮説との差分はいくつかありますが、今回は最も大きな差異である、『Ⅴ→Ⅰ』要素の変化に注目しましょう。
マイナーkeyでは通常Ⅴ7をハーモニックマイナーから借用しますが、この楽曲では、A7の箇所が同じハーモニックマイナーコードのドミナントコードである『Gdim』に置き換えられています。ディミニッシュコードは等分割コードなので、これをさらにGdim=C♯dimと置き換える事が可能ですね。そしてC♯dimはパッシングデミニッシュでもあります。この複合的な要素を担ったディミニッシュコードが、ダイナミックに動くベースラインとの絡み合いより、Gdim=C”dimに響きを変えて立ち現れてきているのです。一筋縄ではいかない繊細な機微が、和音の中にしっかり表現されていることが感じられるでしょうか?(ちなみにもう一カ所はA/C♯の転回系分数コードに置き換えられています)
まとめ
コード分析第四回目、如何だったでしょうか。今回は、耳コピの基本的なワークフロウである『おおよそのアタリを付ける→アタリを元に実際に音を取ってみる』という流れを併せて紹介しました。今回の『No.1 feat. G.RINA』、まだまだ面白い要素が詰まっています。特にベースラインは、非常に面白く効果的な動きを見せていますので、よく耳をすませてみてください!
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