物々交換所 第11回「反戦展「70years」について」


 酒井貴史


2014年9月25日~29日開催された「反戦展」において、来場者が持参した書籍と『1940年代の日本で出版された書籍』を物々交換し、収集した現代の書籍を70年後の2080年まで保存するという作品を出品しました。

70years togetterまとめ

私たちは本に書かれた文章や画像といった情報そのものよりも先ずはその外側の「包装」から情報の信憑性や重要性を推し量ります。
第一の包装は《共有量》です。『どの本屋に行っても平積みされている本』と『古本屋の隅で埃を被っている本』とでは前者の情報がより信憑性が期待できる気がします。
その次に重視される包装が《即時性》です。ニュース速報、新聞、雑誌など、情報媒体はリアルタイムで新しいほど正確と思われます。

では量が多く、古い物はどうでしょう。
70yearsまとめで大量の「写真週報」が現代の書籍と交換されていますが、これは戦前の内閣情報部制作の広報誌として大量に出版されたものです。

「写真週報」とは

読者の戦意高揚を目的に実情とは乖離した戦況報告が見られ、それは発行年が終戦に近づくほど顕著になっていきます。このようなことが言えるのも、この書籍の発行以降70年という時間が経過し、また別の新しい大量の書物から情報を得る事ができるが故です。
それでは本とは、時間経過により不可逆に誤った部分が増えて行くのでしょうか?
個々の具体的な固有名詞や数値に関して言えば確かにそうかも知れません。古い資料に於いて、私たちは現在正しいとされているものと相違する情報に注目しがちですが、しかし、そこに見て取れるある種の形式文自体は古くならず、特定の「新たな局面の兆し」が語られようとする際、繰り返し用いられます。

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【1930年に締結されたロンドン軍縮条約は1936年で期限が切れ、世界は再び無条約時代に入った。
然し、帝国海軍の堅持する他國を脅かさない、他國に侵略されないといふ根本の考えは少しも変らないのに、今年三月ロンドンに開かれた英米仏三國海軍査問委員會は、「帝國が制限外の軍艦を造つている」といふ途方もない浮説を理由にしてエスカレーター条項を適用することに決めて終つた。かうして列強は一斉に未曾有の大軍艦増産を以て大鑑巨砲主義の新造船のスタートを切りつつある。もう、世界七洋いづこの水面上にも平和の波は見られない。東亜の鎮め、われわれは、世界に誇るわが海軍力を以てして、今直ぐに國防に不安を感ずるやうなことはないとはいえ、今後、ますます各國の動きに注意を払い「来らざるを恃むことなく待つあるの準備を完成する」ことを忘れてはならない。】
(一部旧字体を変換)
昭和13年(1938年)5月25日号 写真週報 第15号

場所や時代を問わず用いられる、この「繰り返し新たに記述されつづける形式」は、読者に思考の材料を提供するのでなく、思考方法そのものの転換を促す作用を持っています。
これに対し読者は完全に受け身であるかというと決してそうではなく、「思考の転換」を呼びかけられる以前にその時期の状況に反応して転換の必要性が感じ取られており、それを反射する形で広報媒体に記述がなされます。
つまり出版物に出現する形式文と社会情勢の相互作用から、どのような思考方法がその時期に共有されていったか推測できます。

1940年代の書籍と2010年現在の書籍を等価のものとして交換し、一律に2080年まで保存する。
という特殊な状況を作ることでその本の情報媒体としての共有量や即時性の包装がはずれて「記述の形式」の集積として見比べることができるかもしれません。ここから「過去に起こった共有観念の増幅の経緯」がフィードバックできれば、触媒としての書物から読み取れることはもっと大きくなります。


物々交換所

物々交換所はまだ使える不要品を収集して貰い手を探すための場所です。ここに置いてある物は遠慮なく持ち帰ってください。
物を置く時、貰う時にどんな物があるかツイッターでつぶやいてください。もしくは交換所の棚を整理してもらえるとありがたいです。

酒井貴史

kokanjo

1985年10月28日宮城県山元町出身。2009年武蔵野美術大学卒業。現在、物々交換所管理人。詳しくはツイッターから。https://twitter.com/koukanjyo