コード進行の謎に迫る!バークリーメソッドで読み解く楽曲分析
第5回:Teddy Riley ft.Tammy Lucas 『Is It Good to You』を耳コピ&分析!



最高の夏も遥か彼方に過ぎ去り、もうすっかり季節は冬。みなさまいかがお過ごしでしょうか?コード進行解析第五回目をお送りします。

本連載、ここ2回ほど2010年代を彩る日本人作曲家たちの仕事に迫ってきました。今回はぐっと時計の針をさかのぼり、レジェンド・プロデューサーの仕事を解き明かしていきたいと思います。ということで、今回はTeddy Riley ft.Tammy Lucas『Is It Good to You』をお届け!

か、かっこええ…(゚Д゚)
Teddy Rileyといえば、80s後半〜90年代初頭、R&Bにヒップホップのエッセンスを大胆に導入した”New Jack Swing”と呼ばれるスタイルを確立。自身のグループであるGUYや、Heavy D & Boysなどの人気グループを世に送り出し、一躍ヒットプロデューサーとなりました。その後も、マイケル・ジャクソンのプロデュースや、若き日のファレル・ウィリアムス(Neptunes)を育てるなど、ブラックミュージック全体へ与えた影響の計り知れず。まぎれも無いレジェンドの一人であります。

今回の『Is It Good to You』は、1992年にリリースされた、映画『Juice』のサウンド・トラックに収録されている、まさにNew Jack Swingを代表する一曲。オッサンには懐かしく、若い人には新鮮に響く。この名曲に秘められたメソッドに迫って行きましょう!

いざ耳コピ&分析!


今回のテーマはずばり『転調』であります。これまでも本連載では様々な形で『転調』を扱ってきました。今回扱う曲では、モダンなブラックミュージックのお手本のような転調が用いられていますので、そこにフォーカスを当てたいと思います!

と、その前に…『転調』とはそもそも何でしょうか?
簡単に答えを言ってしまうと、『ある楽曲において使用されている任意の音環境を、別の異なる音環境へと移動させること』です。あるいは、『ある音環境に、違う音環境からの音を召還してくること』でもあります。何のこっちゃ。

よく分からないという人は、とりあえず鍵盤を用意してください。そして、『ド』の音を中心に、白鍵のみを使ってしばらく適当に弾いて遊んでみてください。これは、『ド』の音を中心としたCメジャー(Cイオニアン)という音環境が提示されている状態です。この環境内に留まるうちは、大きく破綻した音が鳴る事はありません。ではここに、何か適当に黒鍵の音を混ぜてみましょう。
…どうでしょうか?明らかに黒鍵の音が『異物』として入り込んできますよね?ものすごくざっくり言えば、転調とは、任意の環境下において、このような『異物』を上手く取り込んでいくためのテクニックなのです。(註)

『Is It Good to You』を構成する3つの環境


今回の曲は、以下の3つの音環境から構成されています。

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これらの環境を行き来しながら(=転調しながら)曲が進んでいく訳です。それぞれどのような関係になっているのかをみていきましょう。

まず、環境①と環境②ですが、これらは『平行長短調』という関係になっています。環境①の三番目のコードであるE♭m7を一番目に持って来て並べ替えたものが、そのまま環境②を構成するコードとなっている事がお分かり頂けますでしょうか?同じコードの構成でも、重心を変えるだけで、音楽上の機能と役割が変わるのですね〜。
引き続き環境②と環境③を見ていきましょう。この二つは、主音を同じくする長短調、という事で『同主長短調』という関係になっています。

このように、互いに関係し合う異なる音環境から上手くコードを召還していく(=転調する)ことで、一気に響きが豊かになっていく事を実感してみてください。

コード進行


Aパート

|Fm7(9) | | ♭B/C (Cm) | |(循環)

Bパート
|♭AM7 | B/♭D | Cm7 |♭Bm7 ♭D/♭E |

|♭Am7 | Em/♭D | Cm7 Cm/F |Cm/♭B Cm7 |

まとめ


今回はざっくりと転調について説明してみましたが、如何だったでしょうか。転調においてよく使われるテクニックというのも存在するのですが、その説明はまたの機会に。とはいえ、転調に「これが正解」というような絶対的なルールというものはありません。皆さん鍵盤を触りながら、カッコいい音を飛躍を探ってみてください。

(註)
機能和声における転調とモードにおけるモーダルインターチェンジとを、敢えて区別せずに記述した。これらは機能や意味合いが異なってるため、正確には分けて考える必要があるのだが、あくまでも今回ベーシックな考え方の入口という事でご了承願いたい。

テキスト:yuichi NAGAO
耳コピ&分析協力:菅野寿夫


〈作曲〉 楽理基礎科 菊地成孔

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