“J-POP REALLY SOUNDS NOTHING LIKE AMERICAN OR BRITISH POP MUSIC. LIKE THE CHORD PROGRESSIONS THEY USE…IT’S REALLY MYSTERIOUS MUSIC.”
『J-POPはアメリカやUKのポップスともまるで違うんだ。例えば彼らのコード進行にもそれは顕著で、本当にミステリアスな音楽だよ』
UKのベース・ミュージックシーンで活躍し、親日家としても知られる若手プロデューサー、Submerse氏の言葉です(註)。
且つてJ-POPといえば、やれ海外のモノマネだの、劣化コピーだの、いわゆる『本物志向』にとっては一段低いものと見なされる対象でした。
しかし、アニメやゲームといったカルチャーをハブに、日本の音楽が広く海外に聴かれる機会が増える中で、単なる劣化コピーではない『極東の変わった(面白い)ポップス』として受容されている状況が見られるのは興味深いですね。
そんなSubmerse氏も注目するJ-POPにおけるコード進行。J-POPプロデューサーのトップランナーの一人である中田ヤスタカ氏の仕事には、コード進行の妙味が詰まっています。緻密に構築されたサウンドの謎に迫っていきましょう。
いざ耳コピ&分析!
perfume「have a stroll」
まずはイントロ〜Aメロから見ていきます。最初の繰り返しで聴かれる4つのコード。スタンダードな進行(Ⅱ→Ⅲ→Ⅳ→Ⅴ』)にいきそうなところを、後半部分で上手く『平行移動』(Ⅱ→Ⅲ→Ⅴ→Ⅵ)が使われている点に注目。
『平行移動』とは、あるコードが、そのままの形で移動することです。楽曲の調性重力を軽くし、クールな浮遊感をもたらす効果があります。
鍵盤を持っている人は、自分でも弾いて音を確かめてみてください。コードがぎっちりと詰まって暑苦しくなりそうなところで、ほんの少し『フワッ』とするような感覚になりませんか?
一方の歌メロは、ペンタトニック第三音中心で構成されており、こちらも調性重力を軽くする効果に一役買っていますね。
サビのコード進行では、同主短調のⅣmから、モダンなR&Bでしばしば使われる『Ⅳm→♭Ⅶ7→ⅠM』系の進行につながります。
楽曲トータルで聴くと、ブラックミュージック臭さがほとんどしないのが面白いところ。
『B7/♯F』は、原型Ⅱ→Ⅴ→Ⅵを連想させる飛び道具と解釈しました。コード進行を分析していくと、色々な解釈が可能な音がしばしば出てきます。耳コピする上で、こうした音は『落としどころ』に悩まされる部分です。
さて、ブリッジにも少しだけおいしいポイントが。
ここはコードだけ見ては駄目で、メロディーも意識する必要があります。
コードだけ取り出すとシンプルな『Ⅱ→Ⅲ→Ⅵ』進行なのですが、コードに対するメロディのスケールが、面白い効果を生んでいます。Ⅱの時点では『ドリアンスケール』なんですが、Ⅲへのコードチェンジの瞬間、『エオリアスケール』に変わるんですね。
順当にいくと『フリジアスケール』を使用すべきところを、一音違いのエオリアスケールを使っているんですね。たった一音でこんなにも雰囲気が変わる!という点を意識してみてください。ここではコードの力ではなくメロディーの力が大きな役割を果たしています。
コード進行
key=B
イントロとAメロ
♯Cm7(9) ♯Dm7 E/♯F ♯F/♯G ×4
EM7 ♯Dm7 ♯Dm7/♯G×7 ♯Cm7 E/♯FBメロ
EM7 Em(13) ♯Dm7 ♯F/♯G×2
Em7 A7(9) DM7 Bm7(9)
♯Cm7 ♯Dm7 EM7 ♯Gm/♯Fサビ
Em7 G/A BM7 ♯Gm7
Em7 ♯Gm/♯F ♯Dm7 ♯Gm7
EM7 ♯Dm7 ♯F/♯G B7/♯F
♯Cm7 E/♯F BM7ブリッジ
♯Cm7 ♯Dm7 ♯F/♯G
まとめ
『バークリーメソッドで読み解く楽曲分析』如何だったでしょうか。今回の課題曲、難易度としては、菊地成孔さん『楽理基礎科』(2013年5月から開講)を修了されるとギリギリ分析可能といった感じの一曲。
ちなみに例年、菊地成孔さんクラスを受講される方は、『転調』に興味を持つ人が比較的多いようです。複雑な響きの楽曲を創るとき、色んなキーのコードを使いこなせるのは強みですからね。
しかし、ここであえて言いたいのは、『たった一音違うだけでも、雰囲気はがらりと変わる』ということです!そしてそれは、コード進行の力もあるんですが、メロディーの方がより強くムードを決定づける力がある、という事なんですね。コード進行の理論を学ぶとともに、トータルで楽曲の中でどのように活かされているか、を意識すると、もっと楽しくなりますよ。
と、コード進行の話のつもりが、メロディの重要性の話になってしまいました(笑)。この曲以外でも、中田ヤスタカ氏は、J-POPのマナーを持ちながら、そこを拡張していくような巧みな楽曲を多く作っていますので、皆さんも是非耳コピに挑戦してみてください!
(註)出典
http://www.factmag.com/2012/07/10/submerse-on-j-pop-garage-and-tokyos-so-much-of-everything/
テキスト:yuichi NAGAO
耳コピ&分析協力:菅野寿夫
〈作曲〉
▷授業日:隔週水曜日 19:00〜21:30
楽曲の構造を支える『音楽理論』を学ぶ講座です。魅力的なコード進行が、どのような仕組みで作られているのか?全くのゼロから始め、ポップスのコード分析が可能な可能になるまでのベーシックな音楽理論を学習します。
▷授業日:隔週水曜日 19:00〜21:30
楽曲の魅力の源泉ともいえる『メロディ』を作る技術を学ぶ講座です。才能や偶然で済まされがちなメロディの作り方を体系立てて学び、曲作りのスキルを多面的に身に付けます。短いフレーズをつくることから始め、オリジナル楽曲を仕上げていきます。