2023年4月28日〜5月2日にかけて、「’21-’23 美学校シルクスクリーン工房 修了展」が開催されました。展示タイトルのとおり、2021年〜2023年にかけて本講座を受講した修了生4名による展示です。本稿では展示写真を中心に、展示の模様をレポートします。
会場は美学校・本校より徒歩5分ほどの場所に位置する美学校スタジオ。会場には、修了生と講師・松村宏さんの作品、シルクスクリーンを刷るための道具(の一部)が展示されました。修了生は鏑木宏、本多伸二、和多田アヤ、広く。の4名。いずれも「シルクスクリーン工房」で2年間シルクスクリーンを学んでおり、普段はグラフィックデザインや写真などを本職としています。
出展者4名の作品があしらわれた展示のDM
DMもシルクスクリーンで1枚1枚手刷りされました
講座では、課題を通じてシルクスクリーンにおけるさまざまな技法を学びます。講座は1年で修了しますが、身につけた技法をより深めるため、自分の作品をより良いものにするために複数年受講する方も少なくありません。今回展示をされた4名の修了生も、1年目に身につけた技法の中から、深めていきたい技法を用いて自身の作品制作に取り組んできました。
鏑木宏さん
写真左より《SAM》《Sleeps》《PALOMA》
アニメーションディレクターとして、『君に届け』『となりの怪物くん』『GREAT PRETENDER』などのアニメを監督されている鏑木さんは、愛猫をモチーフにした作品を展示。大胆な構図とビビッドな色使いが目を惹きます。とりわけ注目すべきは、ふわふわとした猫の毛並みの表現。「ブロッキング」という手法(意図しない露光抜けの穴を塞ぐための〈目止め液〉や〈アルミテープ〉を直接版面に塗布、貼付し図柄を描く手法)を用いて毛先の一本一本を描写しています。
広く。さん
写真左より《デイブレイク》《サンセット》《トワイライト》
イラストレーターとして、新日本プロレスオフィシャルグッズなどをデザインされている広く。(ひろく)さんは、《デイブレイク》《サンセット》《トワイライト》と、一日の時間の流れを冠した連作を展示。人物と花の組み合わせが美しい本作は、マットフィルムに黒のオイルパステルやダーマトグラフなどで直接描画し、カッターナイフで削りを入れて版下を作成・製版しています。非常に手間のかかる技法ですが、削りを入れることにより、画面にキラキラとした輝きが生まれます。
和多田アヤさん
写真いずれも《RED VIOLET YELLOW RED VIOLET YELLOW RED VIOLET YELLOW》
商業写真からメモリアルフォトまで、膨大なポートレート撮影や国内外での活動を重ね、写真家としてのキャリアを築いてきた和多田さんは、フロッタージュの技法を用いた作品を展示。《RED VIOLET YELLOW RED VIOLET YELLOW RED VIOLET YELLOW》と題された本作は、レッド・バイオレット・イエローの順に各色を3回ずつ刷っており、計9層のインクの重なりによって描かれています。刷る際には紙の下に、家や直方体の形をしたボードゲームのコマをランダムに投げ入れており、その凹凸によって刷り手の意図を越えた表情が画面に表れています。刷るたびにコマが動くので、同じ作品はふたつとしてありません。
本多伸二さん
写真左より《#001》《#002》《#003》
グラフィックデザイナーとして各種カタログやポスター、ミュージックビデオのタイトル、番組のデザインなどを手掛けている本多さんは、一見CGと見紛うような精緻な作品を展示。カッティングナイフで切り抜いたニス原紙という製版用の紙を、アイロンの熱でスクリーンに直接貼り付けることで版をつくっています。ひとつのスクリーンの上で、繰り返しニス原紙を張り替え、メディウムで薄めた半透明のインクを何層も重ねているため、途方もない作業量を要します。そのぶん、シンプルにして、いつまでも飽かずに眺めていられるような奥行きが生まれています。現在、本多さんは本業の傍ら、シルクスクリーンを用いたグラフィックユニット・ZONSHANGでも活動中。シルクの技法を生かした独自のプロダクトを制作されています。
講師・松村宏さん
講師の松村さんは、これまでに仕事として刷ったポスターとレコードジャケットを展示。1988年に開かれた坂本龍一のピアノソロコンサートのポスター(デザイン=木下勝弘)、2022年にプリントしたYMO『BGM』『テクノデリック』(いずれも1981年、デザイン=奥村靫正)と、どれも貴重な作品です。時を経てもまったく色褪せないどころか、今なお鮮烈に感じられるデザインとプリントに圧倒されます。
会場入口に置かれたシルクスクリーンを刷るための道具
版は広く。さんのもの
すでに本業で活躍されながらシルクスクリーンを学んだ修了生の作品を通し、シルクスクリーンという技法の習得が、それぞれの表現や仕事に広がりをもたらしていることを実感した本展。話をうかがった修了生の方は、すべての刷りにおいて一定のクオリティを維持することの難しさと、印刷の入口から出口までを一人で行えるという手仕事ゆえの面白さを教えてくれました。
これから何か「つくる」ことをはじめてみたい人にも、すでに自身の仕事や表現を確立されている方にも開かれている「シルクスクリーン工房」。「シルク人口」の増加を願う松村さんのもとで学んでみたい方を引き続き歓迎しています(講座は定員に達し次第、締め切りとなります)。
取材・構成=木村奈緒、撮影=皆藤将
▷授業日:毎週月曜日 13:00〜17:00
カリキュラムは非常に厳しく設定してあります。1年目では困難だがまずは基本的なトレーニングから始める。同時に意図した色が確実に定着出来るメリットを生かして色彩研究にも取り組みます。