「発掘!美学校」
第2回 美学校がイギリスで開かれる展覧会に出ます。


お知らせみたいなタイトルになりました。そう、朗報です。美学校がイギリスで開催される展覧会でフィーチャーされることになりました。前回の「発掘!美学校」第1回で、美学校が卒論で書かれたり、何かの記事になったりすることを願いますと書きましたが、連載第二回目(しかも半年ぶりの更新)にして美学校がフィーチャーされる展覧会をお知らせできるとは嬉しいかぎりです。

この展覧会は、ファルモス大学写真学部教授のアリス・モード・ロクスビーさんの企画で、共同企画者として美学校の元講師でもあるアーティストの嶋田美子さんが関わっています。企画自体は2011年頃から進められてきており、今回やっと会期と会場をお知らせることができるようになりました。

正式な展覧会名などはまだ先となりますが、まずは、以下に会期と会場の情報を載せておきます。


会期:2013年11月12日−2014年1月18日
会場:英国サウスハンプトン大学付属美術館ジョン・ハンサード・ギャラリー John Hansard Gallery, Southampton, United Kingdom


さて、気になるのが展覧会の中身です。この展覧会は、「叛アカデミー:グローバル・オルタナティブ美術教育」とういうテーマで、60年代に存在したオルタナティブな美術学校に焦点が当てられるそうで、その事例として美学校の他、アイオワ州立大学内のインターメディア・プログラム、コペンハーゲンのエクスペリメント・スコーレン(実験学校)の三校が紹介されます。

美学校以外の二校について、簡単に説明しますと、「アイオワ州立大学内インターメディア・プログラム」は、1969年アイオワ州立大学内にハンス・ブレーダーによって創設されました。講師にはヴィト・アコンチ、アラン・カプロー、そして美学校でも講義をしていたナム・ジュン・パイクなどがおり、アナ・メンディエッタやレイ・チャールズなどのアーティストを輩出しています。

「エクスペリメント・スコーレン(Ex-skolen、実験学校)」は、1961年にデンマークで、王立美術アカデミーに対抗して始められ、「恊働」を旨とし講師、生徒の区別を付けず、互いに教え、互いに学ぶシステムを取っていたそうです。美術だけでなく様々なジャンルの人々も参加していたそうで、曰く、「美学校よりもっとめちゃくちゃ。」、学校というより、塾、コミューンに近く、不法占拠などをして教室を確保することもあったそうです。

美学校については、主に設立当初にフォーカスが当てられるそうです。以下に出展予定の一覧を「「叛アカデミー:グローバル・オルタナティブ美術教育」企画書」より転載しておきます。

  • 1.菊畑茂久馬 描写教場−山本作兵衛「炭坑画」模写(写真コピー)1970−71および関連資料と制作風景写真
  • (注)これは菊畑教場生徒30余名が1年間かけて約450点の山本作品(水彩)を油彩で200号キャンヴァス9枚に模写したものである.実物の油彩画は田川市図書館に展示/保存されている.その大きさと、保存状態からいって海外の貸し出しは難しい.本展では写真資料から実物大のコピーを作って、9枚のうち2、3枚を展示する
  • 2.赤瀬川原平 絵・文字教場−「零円」札(本物)、美術手帖「資本主義リアリズム講座」千円札記憶画、1円でお買い物/領収書プロジェクト、生徒とともに作ったミニコミ
  • 3.中西夏之 アトリエ−「循環する肖像画の計画」1969−70 プラン及び初年度生徒片野一徳ドローイング
  • 4.松沢宥 最終美術思考−自筆カリキュラムノート、ドローイング、「プサイの函にまぎれ込んだ22の紙片」ヨシダヨシエ編 松澤宥シルクスクリーン作品
  • 5.小畠広志 木刻・面打教場−手板 1970−71
  • (注)美学校の理念の中でも重要なものは「手技の習得」であった.この一見封建的なアカデミックな方針は美学校の先鋭的な思想や主な講師の前衛的表現と矛盾すると思われるかもしれないが、この「手技」へのこだわりは職人養成のためではなく、「技」修練のリゴリズムから発生する倫理的な姿勢と物質との真摯な対話によってのみ、真の想像力が可能だという確信に基づいている.
  • 小畠教場で使われた「手板」(木彫の手本)は小畠が東京芸術大学所蔵の実物を無断で石膏コピーして美学校に持ち出したものだが、当時芸大彫刻科では「手板」は過去の遺物として使われていなかった.展示に使用するのはその石膏コピーを手本にした第一期生、鳥山豊氏の作品である.
  • 6.中村宏 絵画教場 – 教場写真、生徒の「記憶画手帖」
  • 7.立石鐵臣 細密画教場 – 初年度特待生作品
  • 8.美学校ポスター(中西夏之デザイン、赤瀬川原平ロゴデザイン)
  • 9.美学校69−71年度教場パンフレット(中西、松沢、中村、小畠、木村恒久デザイン教場、小杉武久音楽教場)
  • 10.箱机(中村宏、中西夏之デザイン)
  • (注)神保町校舎の床は開講当時全部畳敷きだった.この箱(80x45x30cm)は横にするとあぐらまたは正座での座り机、縦にすると椅子に座った場合の机、または複数の上に板をおいて大机の脚として利用された.会場に畳を敷き、これらの箱を置いて初期の美学校を再現し、箱を実際に使っていくつかの授業内容を再現してみる.
  • 11.美学校神保町校舎内部写真 (70年週刊プレイボーイ掲載その他)
  • 12.現代思潮社初版本(カバーデザインが美学校関係者の手になるもの)
  • 13.参考映像資料 モード・ロクスビーと嶋田による美学校のビデオドキュメンタリー
  • 足立正生「赤軍・PFLP世界同時革命宣言」(1970)同ポスター(赤瀬川デザイン)
  • 14.年表

現在の美学校には、設立当初の資料はほとんど残っていないので、どれも貴重なものばかりです。(「箱机」のみ現在も現役ですが、)

展覧会に興味のある方は、美学校アーカイブにアップされているアリス・モード・ロクスビーさんと嶋田美子さんによる下記の文章も読んでみてください。企画についての詳細他、インターメディア・プログラムやエクススコーレンについての記載、そして美学校関連の年表などもあります。

  ・「叛アカデミー:グローバル・オルタナティブ美術教育」企画書
  ・Anti-Academy exhibition
  ・現代思潮社・美学校関連年表
  ・世界の美学校(のようなもの)1
  ・世界の美学校(のようなもの)2

ということで、美学校は研究対象として充分価値があります。今回の展覧会は1969年の設立から数年間にフォーカスが当てられていますが、個人的には2000年以降の美学校もかなり面白い(教育システム的にも、講師的にも)と思っています。学生や研究者のみなさん、美学校を研究しましょう。(結局これが言いたい。)

そして最後までお読みになってくれたみなさん、是非イギリスまで展覧会を見に行きましょう。(皆藤)