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講師インタビュー/西村陽一郎(写真工房)

講師インタビュー/西村陽一郎(写真工房)



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講師の西村陽一郎さん

 

━━━「写真工房」は、「モノクロ写真の基礎講座」とうたっています。

西村 モノクロ写真は色がないから、かえってイメージを自由に広げられます。カラーだと赤は赤でそのまま見えてしまうけれど、モノクロだと色んな色で見えてくる。こちらの気持ちによって様々に印象が変わってきます。それが自分にとってのモノクロの魅力なのかもしれません。

━━━講座では、デジタルではなくフィルムカメラで撮影していますね。

西村 デジタルにはデジタルの良さがあり私も仕事で使っていますが、フィルムだと確かに自分の写真だと実感ができる、かけがえのない一枚と出会えます。デジタルと違い、やり直しがきかないという緊張感があるのもいいですね。薬品類の液温を測るにしても現像タンクを撹拌するにしても、そこにかけた気持ちや時間が全部、一枚のプリントに凝縮されるんです。例えて言うと、子どもは皆可愛いけれども手塩にかけて育てた自分の子どもは特別可愛い、といった感じかも知れませんね。

━━━デジカメやスマホでの撮影に慣れてしまって、カメラにフィルムを入れること自体が新鮮です。

西村 私も子どもの頃はフィルムの入れ方が分からなくて写真屋さんに入れてもらったり撮り終わったら出してもらったりして、写真屋さんってすごいなと思いました。フィルムとカメラが特別な感じでした。フィルムは基本的に1本分36枚を一度に現像するので、デジタルのように感度を途中で変えることができません。中には露出を間違えたり、ブレボケたりして思ったように写せなかったコマもあるかもしれませんが、それもひっくるめて自分の時間が写っているというか、全部が今につながっていると実感できます。そういった中から引き伸ばす写真を自分で選ぶという行為自体も「写真」だなと感じます。

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━━━西村先生が最初にカメラを手にしたのはいつでしたか。

西村 記憶にあるのは小学生の頃です。ハーフサイズのオリンパス・ペンというカメラを父が持っていて、出かけた時にお互いの写真を撮りあいました。一眼レフに興味を持ったのは中学生の頃で、それは友人の影響でした。私は昆虫や植物が好きだったんですが、彼も同じく生き物が好きで、自分で撮った鳥の写真をよく見せてくれました。同じ頃、オリンパスが主催したある昆虫写真家の講演会に母が連れて行ってくれたのも大きなきっかけになりました。初めて自分のカメラを持ったのは17歳です。私の姉は山好きで、山の写真を撮るためにミノルタの一眼レフを持っていたんですが、重くて扱うのが大変だといって譲ってくれました。それを使って見よう見まねで、花や昆虫の写真を撮り始めました。

━━━それで、撮影スタッフとして参加した昆虫映画の現場で美学校を教えてもらったんですよね。

西村 そうなんです。私がその映画でやっていたのは虫を集めたり飼育したりする仕事だったのですが、合間に写真を撮っていました。その様子を見て、写真好きだった助監督が美学校の写真工房を教えてくれました。美学校では最初の暗室の授業がフォトグラムで、想像していた以上のものが突然目の前に現れてきて、衝撃的でした。そのお陰でいまだに写真を続けていられるのかな、と思うくらいゾクゾクする体験でした。自分にとっては、暗室抜きに写真はないんだろうなと思います。

━━━フォトグラムは現在も行っていますね。

西村 フォトグラムは光で描く写真の原点のようなものなので、私が講座を受け持つようになってからも最初にやっています。それから、カメラの原型のピンホール写真。レンズの代わりに針穴を使って写します。薬品を調合して感光紙を自作する、サイアノタイプの体験もしています。写真の歴史をたどりながら原理を理解してもらうためにやっていますが、フォトグラムもピンホール写真もサイアノタイプも、それだけで作品を作ることができる、奥の深い世界です。

━━━「写真工房」の特徴のひとつは、授業日以外も暗室を使えることですね。

西村 ある程度基礎を身につけたら、いつでも使えます。進み具合にもよりますが、夏休みから使える時もあるし、夏休み明けからという時もありますね。24時間いつでも自由に暗室が使えるのは美学校だけじゃないでしょうか。

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━━━暗室作業を通して培われるものはなんでしょうか。

西村 モノクロ写真は、現像を人任せではなく、全部自分でやれることが魅力の一つだと思います。一枚のプリントを納得がいくように仕上げるのは簡単ではなくて、大変な時間や気力、労力を使いますが、その分できあがった時の喜びや充実感は格別です。また、自分でやっていると一連の行為が緊密に繋がっていて、どれもおろそかにできないということが分かるので、それぞれの場面での集中力も高まります。無意識のうちに自分にとって本当に大切なものを撮るようになるかもしれませんね。話は変わりますが、暗室作業のうっかりとしたミスから面白い作品が生まれることも結構あります。

━━━意図的に面白さを狙うのではなく、あくまで基礎に忠実に撮って現像する。

西村 フィルムや印画紙を扱ってそれなりの写真にすることは誰にでもできるかもしれませんが、魅力のある作品を作るためには、しっかりとした基礎を自分の中に持った方が良いと思います。こつこつ基礎をやることによって知らず知らずのうちにその人固有の核みたいなものができて、それと外界とが出会い、ぶつかりあった時の火花が、作品を生み出すのではないでしょうか。私のは線香花火みたいなものかもしれませんが、それでも30年間楽しんでこられましたし、これからも続いていくだろうと思います。

━━━核を作るために、まずは写真をたくさん撮って暗室で現像し、プリントすることの繰り返しが大事ですね。

西村 はい、たくさん撮ってプリントしてください。はじめは不安かもしれませんが、暗室に飛び込めば、暗室が写真を見せてくれるというか、必ず新しい世界に連れていってくれます。光を写すためには闇が必要で、携帯でもデジタルでもフィルムカメラでも、必ず中には闇があります。暗室は場が暗いですから、本当に飛び込むという感じがしますよね。美学校は色んな方に開かれていますから、モノクロ写真を体験できるチャンスを生かしていただきたいです。

2018年6月15日 美学校にて収録
聞き手・構成=木村奈緒、撮影=皆藤将

※ 西村さんの過去のインタビューはこちら。 

 

Nishimura Yoichiro

▷授業日:毎週金曜日 13:00〜17:00
カメラの持ち方やフィルムの入れ方など、順を追って実習を進めていきます。フィルムカメラによる撮影、ケミカルをつかった手現像、バライタ印画紙への手焼きプリント、筆と墨による修正などが中心のカリキュラムです。