文=木村奈緒 写真=皆藤将、木村奈緒
「会田誠特製謎のつまみ」を食べながら、若手芸術家たちのトークを聞く「会田誠の月イチぼったくりBAR」。2015年10月〜2016年3月の1stシーズン終了後、半年間の休息期間を経て、このたび目出度く再開の運びとなりました。第7回目の今回は、沖縄をベースに活動しているアーティスト・手塚太加丸さんをゲストにお迎えしました。
9/10〜10/9まで、恵比寿のギャラリー・WAITINGROOMで展示をしていた手塚さん。展示会場での在廊にあわせて是非、と出演をお願いして実現した今回のぼったくりBAR。東京で手塚さんのトークを聞ける貴重な機会になりました。簡単にではありますが、当日の模様をレポートいたします。
“縁のある”場所「美学校」
冒頭の挨拶で、美学校を“縁のある場所”と言ってくれた手塚さん。それもそのはず、手塚さんのご両親は美学校の修了生(菊畑茂久馬さんの講座を受講されていたとのこと)。世代を越えて美学校に関わってもらえて、当校としても嬉しい限りでした。
手塚さんは1990年屋久島生まれ。大学入学を機に沖縄に移り住み、近年は、沖縄で共同制作空間《BARRACK》を立ち上げたり、故郷である屋久島の白川山(しらこやま)にかえり続けるプロジェクト《しらこがえり》を展開したり、音楽祭に呼ばれてデコレーションを作ったり……と沖縄と屋久島をベースに各地で活動しています。トークでは、手塚さんの活動の根底にある白川山での生活やご両親の話、美術館やギャラリーでの展示の話、沖縄での活動や基地問題の話など、手塚さんをめぐるあれこれについて、じっくりとお話をうかがいました。
《しらこがえり》について
まずは、手塚さんの活動のひとつの柱である《しらこがえり》の話からスタート。手塚さんがこの日のために編集してくれた《しらこがえり》の映像を見ながら話は進みます。
白川山は、かつて川の氾濫で一度廃村になった後、詩人の山尾三省をはじめ、村に移住した人々によって現在の集落が築かれました。手塚さんのご両親も、雑誌『80年代』(野草社刊)で白川山への移住者を募る山尾三省の記事を見て、埼玉から移住したとのこと。会田さん曰く「タダモノじゃない」ご両親の下に育った手塚さん。大学でデザインを学びながら制作するなかで、「白川山の生活がどうしようもなく(作品に)出て」しまうため、一度「自分にとっての白川山」に向き合ってみるべく始めたのが《しらこがえり》だったと手塚さんは話します。2013年に始まり、今年で4年目を迎える本プロジェクトですが、現在は親世代しか住んでいない白川山で「10年は自分がこの場所を残す」(手塚)べく、10年計画で展開されています。
《しらこがえり》1年目の活動をまとめた映像。1年目は、村の人に移住した理由をインタビューして回ったそう。
映像には手塚さんのご両親の姿も。こちらはお父さん。
人と自然、制作と生活
後半は、今年はじめに原爆の図・丸木美術館で開催された「私戦と風景」展についての話からスタート。会期の1ヶ月半前から美術館裏に小屋を建てて生活を始めた手塚さん(写真上)。地元の製材所のおじさんと仲良くなり、そこで1ヶ月働いた後、ゆずってもらった木材で作品を制作したとのこと。今は建材として用いられなくなった木々の製材工程を間近に見て、木と人間の関係性の変化を感じたという手塚さん。丸木美術館やWAITINGROOMでの展示を通じて得た「人と自然の関わり」という視点は、表現者として沖縄の基地問題などを考えるうえでも、ひとつの手がかりになるかもしれないと語っていました。
樹齢40歳ころの杉、檜を製材所でカットする工程
「私戦と風景」の展示風景。床も手塚さんが張った。
こうした手塚さんの活動について会田さんは、手塚さんの生育環境に触れながら「太加丸くんは、堅実に生活が回っているサステイナブルなところが特徴で、僕の周りは良かれ悪しかれ、理想とする純粋芸術のために、やりたくもないバイトをやっているような人が多い」とコメント。手塚さん曰く「仕事と制作と生活が循環する形が理想」なのだそう。この他にも、《BARRACK》での活動などについてお話いただきました。
手塚さんのご両親とも知り合いの藤川校長と手塚さん。この日のために手塚さんのご両親が送ってくださった屋久島の焼酎を飲みながら歓談。
WAITINGROOMでの展示「doubles2『間(のめ)』」で、手塚さんをキュレーションした居原田遥さんも交えて。
本日のつまみは「スライスきくらげが安かった」(会田)とのことで、きくらげをふんだんに使った「ニラ玉」でした。
当日は会田さんの51歳の誕生日でもあり、サプライズでお祝い。
次回は11月中旬〜下旬に開催予定!
ということで、盛況のうちにスタートした2ndシーズン。今シーズンも、ひとまず半年間は毎月開催予定ですので、今回参加できなかった方も、次回以降ぜひご参加ください。これまで以上に幅広いゲストの方をお呼びする予定です。気になる次回は11月中旬〜下旬に開催予定(基本的に火曜夜の開催)です。詳細が決まり次第、美学校のサイトやSNSで告知します。皆さまのご参加、心よりお待ちしております!