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物々交換所 第2回「ゲーム脳の恐怖」

物々交換所 第2回「ゲーム脳の恐怖」


酒井貴史


今回のタイトルは森昭雄氏の著書名の引用ですが、その内容には一切関係なく「現実の社会にテレビゲーム内のルールや感覚を持ち込む」という意味で用いています。 

 

 宝箱


ロールプレイングゲームと呼ばれるジャンルのテレビゲームの中では、路上や建物の中にある宝箱を開けることでアイテム(そのゲーム内で使用できる道具や武器、通貨等)が手に入ります。
子供の頃ゲームが1番の友達だった僕は、これを現実の世界でもやりたくなりました。
何の物語もない凡庸な風景に、それがあるだけで非現実を連れてきてくれる宝箱がほしくなりました。
ちなみに万引きではこの欲望は満たされません。お店の棚に並んでいるそれは「商品」であるため、「発見されるのを待っている無主物」である宝箱とは根本的に異なるものです。
そこで始めたのがゴミ箱を漁ることでした。粗大ゴミの日の集積所を回り廃棄物を物色する時間は、願望を僅かに満たしてくれました。
しかし、それから時が経ち気づいたことは、僕が望んでいたのは「宝箱を発見して開けること」ではなく「路上や建物内に(自由に中身を取ることのできる)宝箱がある世界」そのものだということでした。
世界をそのような形に作り替えるために、自分で町中に宝箱を配置してまわるという方法では先が見えています。
宝箱それ自体が自己増殖していく仕組みを考えなければなりません。

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株式会社人間 「あの宝箱」
http://takarabako.2ngen.jp/

 

宝箱とはなにか


ネット上の掲示板には、テレビゲームの中のダンジョン(洞窟や廃墟)内にある宝箱は誰が何のために準備しているのか?という議論も存在します。
http://rocketnews24.com/2011/06/04/

もちろん真面目な討論ではなく、ゲーム内容を意図的に読み替えることで制作者の意図しない舞台裏をプレイヤー側が勝手に空想して披露しあう、いわば歌舞伎や文楽の裏方である黒子に対し役者と同様に物語を与えてみる玄人同士の遊びのようなものです。
そのような前提で僕の予想を言うと、宝箱はかつてそのダンジョンを探険した誰かが次にその場所に来る探索者のために余剰の物資や装備を置いて行ったものです。いつか来るかもしれない遭難者のために登山者が山小屋に置いてきた缶詰や薪のような緊急物資とも言えます。匿名の贈与です。

 

 宝箱を片付ける


「匿名的な余剰物の贈与の連鎖」の循環が継続するための課題として、「いつまでも貰い手の付かない宝箱の淘汰」があります。
何が入っているか分からない売れ残りの宝箱を片付ける作業は、業者が宝箱を設置するというような作業よりも遥かに多大なコストを必要とするでしょう。
『現実の街中に宝箱がある世界』の実現の難しさはここにありました。自己増殖する宝箱全体の中身を把握することは誰にもできません。宝箱の消費者が同時に管理者でもある状態にする必要があるのです。
不特定多数の匿名者が自発的に無償で「宝箱の中身を整理整頓し、必要に応じて間引く」作業を行うような動機とはどこからやってくるか。
『物質の贈与に対して労力の贈与で報いる』というのが宝箱のエントロピー増大を押さえるために理想的な形です。しかしそのようなルールを明記してしまったとたん、損なわれてしまうカオスをいかに温存するかが問題です。

 

 宝箱の生態系


新陳代謝を行い、増殖と淘汰が行われる「宝箱」は一種の生物に例えられるかもしれません。
生き物の生態は周囲の環境によって形成されます。しかし同時に生き物は自ら環境に働きかけ、調整していく性質を持っています。
今のところ「物々交換所」という呼び名で生存のための試行錯誤を続ける宝箱が、世界の現実といかに相互作用していく事ができるか、これからも観察を続けます。

 

 


物々交換所

物々交換所はまだ使える不要品を収集して貰い手を探すための場所です。ここに置いてある物は遠慮なく持ち帰ってください。
物を置く時、貰う時にどんな物があるかツイッターでつぶやいてください。もしくは交換所の棚を整理してもらえるとありがたいです。

酒井貴史

kokanjo

1985年10月28日宮城県山元町出身。2009年武蔵野美術大学卒業。現在、物々交換所管理人。詳しくはツイッターから。https://twitter.com/koukanjyo