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講座レポート「未来美術専門学校アート科」

講座レポート「未来美術専門学校アート科」


 

真っ黒な世界で光り輝く点になれ

ー未来美術専門学校アート科

写真・文=木村奈緒


遠藤一郎という男を知っているだろうか。絵の具で汚れた服を着て、あるいは「FIGHT 世界」などと愚直なメッセージを書きなぐったTシャツを着て、日本全国を走り回っている男だ。

男の職業は「未来美術家」。2006年頃から、黄色い車体に青字でデカデカと「未来へ」と描かれた車「未来へ号」で車上生活をしながら、北は北海道から南は沖縄まで車を走らせている。行く先々で出会った人の夢を車体に描き込んでもらっているのだ。さながら巨大絵馬と化した未来へ号の専属運転手・遠藤は、時に六本木ヒルズに体当たりしてみたり、時に美術館で46日間ほふく前進をしてみたりする。そうかと思えば、日本だけでなく中国やインドで凧揚げプロジェクト「未来龍大空凧」を展開。現地の人々が夢を描いた連凧を大空に舞わせてみたりする。2012年からは、日本列島にメッセージを描くプロジェクト「RAINBOW JAPAN」を立ち上げ、日本列島を縦断。GPSの軌跡で日本全体を勇気づけるメッセージを描いている。「一体何のために?」その問いには決まってこう答える。「愛と平和と未来のために。」

 

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未来へ号も現在は5台目に。写真は4台目のマイクロバス。

 

ド直球なメッセージを文字通り体当たりで伝え続けて、今では森美術館での展覧会に参加するなど、美術界からも美術界以外からも一目置かれる存在となった。そんな遠藤がこのたび美学校で「未来美術専門学校アート科」を開講する。常に移動し続ける回遊魚のような遠藤が、決まった場所を持つのはそれだけで驚きだ。なぜアート科を開講したのか、どんな講座にするつもりなのか。開講直前に開かれた開講記念トークの模様を交えながらお伝えしたい。

 

未来美術専門学校アート科

実は遠藤、すでに服飾学校で「未来美術専門学校ファッション科」を開講している。「あちこちで◯◯科を増やしていこうと思っている」そうで、アート科はファッション科に次ぐ開講だ。
2014年10月9日、トーク会場の美学校には約30名の聴衆が集まった。登壇者は講師の遠藤一郎、美術家・会田誠、island JAPAN代表・伊藤悠の3名。会田は、遠藤が美術家として活動を始めるきっかけをつくった人物。伊藤は、遠藤を始めとするアーティストのマネジメントや展示、プロジェクト企画を手がけており、遠藤を最もよく知る人物のうちの一人だ。

 

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トーク開始前の模様。写真奥左から伊藤、遠藤、会田。旧知の3人が集まった。

 

「開講記念トーク」と銘打ったものの、どんな講座になるのかはまだ誰も知らない。まずは講座の紹介がてら、講座紹介文を読み上げることに。遠藤が深夜に美学校スタッフ・皆藤に電話越しに伝えた紹介文。「書いた本人が読むわけにはいかないでしょ」との理由で、伊藤が代読した。ここでは抜粋して紹介するが、全文は講座ページで読んでみてほしい。

“どうしようもなく役立たずだけど、究極に役に立つ、最強のど素人、夢バカ。
やりたいことをやるのは苦しいけど、負けない。
何がアートなのかなんてことを授業でやるつもりはなくて、やりたいことをどういうふうに実現するか、ひも解いていきたい。本当にお前がやりたいことは何なのか。”

“大きな課題としては、仕組まれた価値観からの脱却、その先に広がる自由への踏み出し。それはかなり難しい。でも好きなことに命かけていいじゃん。命なんだし、人生なんだし、一つなんだし。あたりまえの自由、それを開放する。”

紹介文を聞いた会田は「言っていることは前から同じだけど、パワーアップしている感じがするよね。もう一歩でヤバいというか(笑)でも基本的に関心したよ」と率直な感想を述べた。「これを読んでフランクに『よーし、やってみよう』とはならないですよね」と遠藤。「だけど、伝えられるのはこれくらいしかないですからね。当たり前だと錯覚していることからぼーんと飛び出て、もっと面白いものをやっていくための心構えの講座にしたい。」

 

「最強のド素人、夢バカ」

「ヒントは外に転がっているから」実際の授業は課外授業が多くなるようだ。この日のトークも、遠藤が各地で出会った「最強のド素人、夢バカ」な人々の話を中心に展開した。オオスズメバチを手なずけるおじさん、250年物の梅干しを売るおじさん。世間で言われる「常識」は通用しない人々だ。
「常識とはかけ離れているけど地球上で生きている。それで全然平気なんだよ。そういう人たちは、とてつもない引き出しを世間に提供しているんですよ。それがマジで大事なんだって。やりづらいですよ、今の世の中。でも本気でやんないと。」
ちなみに、その人が「夢バカ」かどうかを見分けるバロメーターは「何言ってるか良く分からない」人かどうかだそう。「(夢バカな人たちは)めちゃくちゃ前のめりだから言葉が文章にならないんだよね。無意味な倒置法とか使ってて何書いてあるか分からない(笑)」

「常識的な」物の見方が通用しない人物や出来事を「考察するのはつまらないし、いろんな可能性をつぶしてしまう。目の前で起こっていることは真実だから、それを見るしかない。そういうことを積み重ねて、やっと言葉に変えて伝えられる準備が出来てきたんです。」積み重ねたものを外に吐き出すことを必要としていた遠藤にとっても、アート科の開講は待ち望んだものだった。

会田は熱っぽくしゃべる遠藤を「現代のソクラテス」と例えて「表現のベースである辻説法を極めるのがいい」と助言。伊藤は「美学校の校長先生も、今だったら出すものがいっぱいある。口で話すのが一番伝わる、と思って講座をやれって言ってくれたんじゃないかな」と話した。

 

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未来へ号を運転する遠藤 

 

「もっとみなぎりたい」

遠藤の活動の原点は高校時代。当時、姉の死を経験したことがその後の遠藤に大きな影響を与えた。「最悪の高校時代で、チャリで原爆ドームに行ったりして。根が超根暗なのよ。色んな絶望があって、世の中とんでもなく真っ黒で。ひどい、どうしようもない、どうすればいいのか、うーーーー……未来へ!としか言いようがなくて。それで『未来へ』なんです。それを伝えたいんです。」

最初は音楽で伝えようとしたが、メッセージとは反対にアングラな方向に進んでしまい、伝わらなかった。「かっこつけるのをやめよう」と思って始めたのが「ふつう研究所」。自宅のちゃぶ台に書いた「ふつう研究所」の文字が会田の目に止まり、無名な若者の集まりである研究所の活動を世間に紹介してくれた。「ふつ研」では、楽器の出来ない若者20~30人が集まって、拾った楽器でドラクエのテーマを演奏するなど、ダメでもできることを一生懸命やった。「ふつう」「素人」最高というメッセージはこの頃から変わらない。

「伝えなきゃと思う理由は、もっとみなぎりたいから。もっとみなぎりたいし、もっと楽しみたいし、もっと命を大いに燃やせるはずだと思うわけだよね。何も、テンション高くイエーイと言えということではない。正直、地球は成れの果てのように真っ黒く感じてしまっている。だとしたら、点々と光り輝かせていくことを絶対にやらなきゃならなくて。それをやるにはかなりのバカになる必要がある。でもバカになるのはすごく勇気が必要で、多くの人は出来ない。それでもちょっとずつ光を増やしていくために、かっこつけずにやっていかなきゃならないんだよ。」

未来へ号はどこに停まっていても一発で見つけられる。これは嘘でもなんでもなく、マジでそこだけ光っている気がするのである。未来へ号は真っ黒い世界において光り輝く点なのだ。おそらく「未来美術専門学校アート科」からも、遠藤に負けない強い光がたくさん生まれてくるのではないか。そんな光にあなたもなりたいと思わないか。どうせ「命なんだし、人生なんだし、一つなんだし。」「当たり前の自由」それを解放しよう。

 

 

Endo Ichiro

▷授業日:毎月第三週の土曜日と日曜日
未来美術家・遠藤一郎による新講座。本当にお前がやりたいことは何なのか。お前の夢を好きなまんまにやれ、わがままに。夢バカ最強宣言。非実力派宣言。最初の一歩。世の中にはへんなやつが必要だ!!

 

 

ライタープロフィール


木村奈緒

木村奈緒

1988年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。メーカー勤務などを経て、現在は美学校スタッフとして広報を務めながら、フリーライターとして文章執筆やイベント企画を手がける。過去の企画イベントに「ヨーゼフ・ボイスナイト」「工藤哲巳ナイト」など。現在、美術家・会田誠さんのエッセイにて共同執筆中。Twitter@nao0108