講師インタビュー/間島秀徳(超・日本画ゼミ)



※ 本インタビューは開講前の2012年に行われました。

━━━新しく始まる「超・日本画ゼミ」は、どのような授業になるのでしょうか?大まかな展望を教えてください。

鎌倉で日本画塾という小さな学校をやっていた経験があるので、美大でもやってないことだとか、いわゆるカルチャーセンターなんかで描き方を教えるだけのレベルとは全然違うところまで話を広げてやれたらいいなと思っています。あとはどんな人が来るかによっては、面談をして、個別に制作カリキュラムを組んでもいいですしね。

それとできる範囲で外にも行きたいですね。例えば筆を作っているところがあったらそこに直接行っちゃうとかね。描き方だけじゃなくて、伝統工芸の現場に行って、制作工程はどうなってるんだろうとか、すごい技術で作られているものを見たりとかね。

日本画をやるということは日本画の描き方を学ぶというよりは、素材を学ぶということも含まれると思いますし、それは必ず絵画の原理を考えるきっかけになると思います。

━━━カリキュラムにあるように、まずは素材論から入っていって、絵画を探求していくという流れでしょうか?

そうですね。日本画ゼミと謳ってはいるんですけど、ただ単に日本画を描く技術を学ぶということではなくて、もう少し深めていきたいですよね。

自由に、好きなように描きなさいと言ってしまうと、何でもありになってしまって、かえって何を描いたらいいか訳がわからなくなってしまうこともあると思います。描きたいと思っていても何を描いたらいいのか迷っているという人には、素材論をやるのが一つのきっかけになると思うんですね。そこから自分がひらめいてくることもあるでしょうし。

━━━描きたいモチーフからではなく、素材から絵に入っていくというのも面白いですね。

日本画の場合は油絵と違って、割と素材がそのまま残っている分野なんですね。油絵具は人が使いやすいようにどんどん改良されてきているんですけど、岩絵具はまだ絵具になっていない手前の段階が残っています。

拾ってきた石を砕いたって絵の具になるわけですし。だから原始的な絵画とも繋がりがあるんですよね。その辺に転がっている石にだってちゃんと色がありますし、それをちゃんとつぶして、接着剤でつければ絵の具になるわけですから。

あとは自分に何ができるんだろうという問いかけばかりではなくて、作品にもっと興味を持つというか、その方がもっと色々なことに気がつくんじゃないかなと思います。昔の作品を見たり、今の作品を知ったりするということで現在的な作品のあり方を考えたいですね。

━━━今の現代美術の世界では日本画というと写実的なものがメインストリームにあると思います。もちろんそういうものだけが日本画ではないですよね。

もちろんです。何か作品を見た時に、あの絵ってこういう文脈でこういう技法で描いているあれでしょって、言えるぐらいになってほしいんですね。ちゃんと分析できるように。ただ単純にあれが流行っているだとか、これがかっこいいとかだけではなくて、自分がどこを目指すのかというのも考えていってもらえたらいいですね。

自分の気になる作家を出し合って議論してみたりだとか、古い新しいを含めて話し合ったっていいでしょうしね。素材論だけじゃなくて作家研究とか作品研究というのは、技法に繋がることなので、その作者がどういう方法で描いているのか読み取ることは大事ですね。技法を積極的に真似するような描き方だってあっていいわけですし、その技法を読み取って制作していくということもできると思います。

━━━「超・日本画ゼミ」の最終的な着地点は考えてますか?

一年では無理かもしれないですけど、二年やるならどこかで発表までいけたらいいですね。プレゼンの方法というか、その人がどういう方法で、どういう方面でやっていったらいいのかというのも考えていきたいですし。それも研究だと思うので。色々ありますからね、発表の方法も。

━━━間島さんの作品についてお伺いしたいと思います。現在の作風になるまでの経緯を教えてください。

80年代に学生だったんですけど、その時点で6,70年代的な、絵画は終わっただとか、色々好きなことができないんじゃないかなと思ったり、何か過渡期な時代だったと思うんですよね。大学を出る頃にはバブルになっていくんですけど、でもそんなのわからずにやっていましたね。

━━━アメリカやヨーロッパではちょうどニューペインティングが出てきた頃でしょうか。

ニューペインティングが出てきて、絵画的なものが復活しつつあるのかなという雰囲気が伝わってきたところでしたね。それは日本画を描いている人もそうだったと思います。

私は古典絵画が好きで、それでいて現代美術にも両方興味があったので、それで意識的に日本画から始めようと思いました。大学に入ってみるとまず素材がショックでしたね。材料が全然思い通りに使えない。それもいい経験だったと思います。材料がうまく使えなくて、まずガクって落ちるんですよね。

だから今の人の方が割とスタイルをすぐに確立させようとしているというか、早いなという感じはしますね。昔の方が色んな意味で制約が多かったですけど、逆に今は何でもありで、大学に守られて楽しくやりすぎちゃっている分、出てからどうするのという感じもしますよね。

━━━例えば大学の同級生とかがデビューしたりしたらやっぱり焦りますでしょうね。美学校だったら年齢層もばらばらで、自分のペースでじっくり学んでいる人が多いから、そういうことは少ないと思いますけど。

ちゃんと掘り下げて考えられる環境はいいですよね。

制作に関しては、私の場合は、日本画を卒業した人の90%以上は公募展に出す時代だったんですけど、学生の時に試しに出して全然ダメだなこれって思った時があったんですね。それで大学院を出てからは個展から現代美術の方向でやっていこうと決めてしまいました。そういう人って当時すごく少なかったんですよ。作品一点だけじゃなくてトータルで見せるというやり方で、自分の考えている特色をどういうふうに出していけるかというのを模索しながら始めた感じですね。

━━━90年代は既に今のような作風だったんでしょうか?

顔料的な、要するに物質的なものを過剰に使うような作品をもう作っていました。流したりする方法もその流れですね。要するに描く距離といいますか、直接筆圧が伝わる方法に自信を持ちすぎてしまって、描ける感じが逆に不安になってしまったんです。自分が描けるいうのが信用できなくなってしまったんですね。

だからあえて絵の具をぶちまけるような、ポロックじゃないけど、画面に距離を取るというところから始めたんです。それが進化してきて、そのうち流すようになって、身体的なものと自然の物質と水を融合させながら作品を作っていくスタイルになっていきました。

━━━それも入口には素材というものがありますね。水という言葉が出ましたが、例えば間島さんにとって水とはどういうものなんでしょうか?

水は身体にとって重要なものであり、人類、地球にとってもなくてはならない存在です。今回の震災で水は恐怖の津波となって猛威を振るい、現在は、原発の崩壊を食い止めるのも、水に頼るしかない状況です。これから水と共に生きることを改めて考え直すことが、人類にとっても不可欠な条件と言えるのではないでしょうか。

制作においても、作画の距離を意識することで出会った水を、今後も制作の核にしながら、自然に対する畏怖のみならず、身体性との関係も含めて、メッセージを強化していきたいと思っています。

━━━どうもありがとうございました。

Majima Hidenori

▷授業日:毎週土曜日18:30〜21:30(毎月第三週は日曜日13:00〜17:00)
本講座では自立した作家として歩み出せるように、制作実践のための可能性を探究し続けます。内容は基礎素材論に始まり、絵画制作に必要な準備の方法を習得するために、古典から現代までの作品研究等をゼミ形式で随時開催します。