境界芸術への旅――アートとデザインと民俗学と人類学 佐藤直樹+中村寛+福住廉


定員:8名
期間:2022年5月〜2023年3月
日時:隔週木曜日 19:00〜22:00
学費:170,000 円 教程維持費:10,000円(年額)
開催教室:本校

※定員に達したため22年度の募集は締め切りました。


画家・デザイナー・アートディレクターの佐藤直樹、文化人類学者の中村寛、美術批評家の福住廉の3名による新講座です。アート、デザイン、民俗学、人類学を起点に美術と学術が交差する境界領域に焦点をあて、そこから立ち上がる未来の問題系を探っていきます。

アートとデザイン。まず、この二つの概念の関係についてあらためて整理し直してみたいと考えました。その際に民俗学や人類学の視点を外すことができないと思い至ったのは、岡本太郎さんをはじめとした幾人かの美術家の仕事を理解する流れからでした。もちろん、評価が定まった過去の偉人としてではなく、それぞれの活動の現在性を問う過程においてです。この講座では、アートとデザインの間のみならず、民俗学と人類学の間にも鉱脈を見出し、カテゴリー的に分断されてきたがゆえの意識の硬直を解いていきます。と同時に、現代の「ものづくり」「ことづくり」とはどういったものなのか、個々にはどのような行動が必要かつ可能なのか、といった点も探ります。これらのプロセスを経ることは、来るべき芸術運動のためにどうしても避けて通れない流れだろうという確信を抱いています。それは生存に不可欠な要素でもあるはずです。(佐藤直樹)

美術(アート・デザイン)とともに学術(人類学・民俗学)できないか――漠然とそんなことを思ってきました。たとえば、描き手とともに描きながらなにごとかを考えられないか、あるいは、デザイナーとともに考えデザインすることが人類学を形成できないか、と。学術と美術とが接近するとき、なにが起こるのでしょうか。そもそも学術と美術とは、「別のもの」だったのでしょうか。細分化され続けてきた学問・美術の諸領域を無視するのは大変です。けれど、だからこそ、この授業では見えにくくなってしまいがちな基本に、何度でもたちかえりたいと思います。産まれてから死ぬまでの過程に「あるく、みる、きく」や「書く、描く、つくる」があり、それらすべてに通底する「交わる、感じる、考える」がある――ヒトの営みをそのように捉えるとき、学にかかわる術も、美にかかわる術も、その類型からぶれてはみだし、混淆し合う姿が垣間見えるはずです。それを「境界領域 liminality」(ヴィクター・ターナー)に立ち現れる《境界芸術》と呼んでみたいと思います。(中村寛)

この20年のあいだに生じた現代美術と民俗学の接近を「民俗学的転回」と名づけました。直接的には、芸術祭の隆盛やリサーチという方法論の一般化、そしてヴァナキュラー(土着文化)への関心の高まりなどを指していますが、重要なのはそれが新たなモードではまったくなく、数々のモードを生み出してきたモダニズムという構造にたいする根本的な疑義の現われであるという点です。鶴見俊輔の「限界芸術論」や今和次郎の「考現学」、赤瀬川原平らの「路上観察学会」のように、それは地下水脈として歴史の中に潜在してきましたが、もはや無視できないほど大きなうねりとなって現象しているのが、ここ数年の現代美術の特徴であると診断できます。この講義では、そのアートと民俗学が時間的かつ空間的に重複する境界領域を、デザインと人類学というもうひとつの横断線を手がかりにしながらまさぐりだし、それらを想像力によってとらえながら、講師自身や受講生諸君のそれぞれの実践に結びつけたいと思います。それは過去の芸術を整理し直すように見えて、じつのところ未来の芸術にとっての新たな原点となるにちがいありません。(福住廉)

関係する語彙・人物など


アートヒストリー/フィリップ・アリエス/人類学の射程/ジェームズ・フレイザー/マルセル・モース/レヴィ=ストロース/岡本太郎/デザインリテラシー/木村恒久/粟津潔/民俗学と近代/柳田國男/折口信夫/南方熊楠/宮本常一/限界芸術論/鶴見俊輔/考現学/路上観察学/超芸術/今和次郎/宮武外骨/赤瀬川原平/キッチュ論/石子順造/ヴァナキュラー/山本作兵衛/暴力/非社会/ヴィクター・ターナー/ティム・インゴルド/デザイン人類学……

講師プロフィール


佐藤直樹佐藤直樹

1961年東京都生まれ。北海道教育大学卒業後、信州大学で教育社会学・言語社会学を学ぶ。美学校菊畑茂久馬絵画教場修了。肉体労働から編集までの様々な職業を経験した後、1994年、『WIRED』日本版創刊にあたりアートディレクターに就任。1998年、アジール・デザイン(現アジール)設立。2003~10年、アート・デザイン・建築の複合イベント「セントラルイースト東京(CET)」プロデュース。2010年、アートセンター「アーツ千代田 3331」立ち上げに参画。2012年、アートプロジェクト「トランスアーツ東京(TAT)」参加を機に絵画制作へと重心を移す。サンフランシスコ近代美術館パーマネントコレクションほか国内外で受賞多数。著書に『無くならない─アートとデザインの間』(晶文社)、画集に『秘境の東京、そこで生えている』(東京キララ社)、展覧会図録に『佐藤直樹 紙面・壁画・循環――同じ場所から生まれる本と美術の話』(美術出版社)など。札幌国際芸術祭2017バンドメンバー。3331デザインディレクター。多摩美術大学教授/芸術人類学研究所員。http://satonaoki.jp/

 

中村寛

専門は文化人類学。「周縁」における暴力、社会的痛苦、反暴力の文化表現、脱暴力のソーシャル・デザインといったテーマに取り組み、《人間学工房》を通じて文化運動をおこなう。宇都宮で生まれ、ピッツバーグ、東京、横浜、シカゴなどで育つ。言葉から逃げたくて音楽をやっていたが挫折し「言葉の世界」へ。「9.11同時多発テロ」の約一年後からニューヨーク・ハーレムの黒人ムスリム・コミュニティにて約2年のフィールドワークをおこなう。2008年から多摩美術大学を中心にいくつもの大学で講義・ゼミをもつ。大学で出会うつくり手たちが、「美術」を捉え直す機会を与えてくれた。2020、21年度はグッドデザイン賞に「外部クリティーク」としてかかわる。著書に『アメリカの〈周縁〉をあるく――旅する人類学』(平凡社、2021)、『残響のハーレム――ストリートに生きるムスリムたちの声』(共和国、2015)。編著に『芸術の授業――Behind Creativity』(弘文堂、2016年)。訳書に『アップタウン・キッズ――ニューヨーク・ハーレムの公営団地とストリート文化』(テリー・ウィリアムズ&ウィリアム・コーンブルム著、大月書店、2010)。人間学工房代表・多摩美術大学教授。https://www.ningengakukobo.com/

 

福住廉

美術評論家。著書に『今日の限界芸術』(BankART 1929、2008年)、共著に『路上と観察をめぐる表現史──考現学の現在』(フィルムアート社、2013年)、鴻池朋子『どうぶつのことば──根源的暴力をこえて』(羽鳥書店、2016年)、青野文昭『AONO FUMIAKI NAOSU』(T&M PROJECTS、2020年)ほか。共訳にジェイムズ・クリフォード『ルーツ──20世紀後期の旅と翻訳』(月曜社、2002年)。共同通信で毎月展評を連載しているほか、「今日の限界芸術百選」(まつだい「農舞台」ギャラリー、2015年)など展覧会の企画も手がける。