岸野雄一がいく!イベント巡礼
第2回目「和ラダイスガレージ・特別篇」に行ってみる!



この連載はこれから岸野が行くイベントについて、勝手に予想したり期待したりプレッシャーを与えたりするものです。

今週は年末という事で様々なイベントがあるようです。さらに忘年会なども多いですから、体がいくつあっても足りません。毎年、もし自分がおそ松くんのような六つ子だったら、と思う季節です。ちなみに赤塚不二夫は、新宿ゴールデン街の飲み屋での文壇人の会話から、当時の文学界で勃興していたアンチロマンにおける人称の不在というテーマを漏れ聞き、それを自分が漫画で表現するとどうなるか、という実験で「おそ松くん」を描いたそうです。

まあそんな与太話しはどうでもいいとして、今週は28日のスーパーデラックスに「和ラダイスガレージ・特別篇」に行ってきます。


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2012年12月28日(金)開場/開演19時(24時終演)
@ superdeluxe
前売2800円 当日3300円 ※共に別途ドリンク代700円

LIVE
 伏見直樹&ソレイユ
 渚ようこ
 ギャランティーク和恵
DJ
 幻の名盤解放同盟(根本敬/湯浅学/船橋英雄)
 永田一直
 yudayajazz
 中村保夫
VJ
 20TN!

http://waradisegarage.blogspot.jp/2012/11/blog-post.html


このイベントは共にギラギラナイトというDJイベントを行ってきた盟友・永田一直が、DJカルチャーのニューブリード(新品種)を目指し、激安の昭和国産音源のみでパラダイスガラージに肉迫せんと試みるダンスミュージックパーティーである。

ひとことでいうと、21世紀に入ってから市民権を得始めた、いわゆる和モノDJの、ユルさというか、やっちゃった感、照れなどを払拭し、正々堂々と和食でミシュランに挑むような姿勢ということだろう。ちょっと長いが、永田のマニフェストともいうべき基本理念を引用しておこう。

和ラダイスガラージ 基本理念

我々はDJプレイにおいて、過去のレコードを使用するが、新しい感覚での聴き方、プレイを呈示する。その為にはダンスミュージックとして成立させられる、強靭なテクニックと独自のディグ、そして愛が求められる。

ここでもお客様からお金を頂く以上、ターンテーブルを使って高度な技術を披露せねばならないという彼の哲学が垣間見える。昨今、誰でもレコードを集めれば、なんちゃってDJに成れる時代ではあるが、永田一流のショーマンシップは非常に求道的である。
私の場合は、もうちょっと違う考えを持っていて、裾野が広がれば頂点も高くなるのだから、そのための淘汰のシステムを整備すべき、という考えではある。ただし、昨今のユルいイベントの身内誉めのような状況を見ていると、彼の求道精神は非常に尊いものだ感じる。

ギラギラナイトは現在、10年間の活動休止中である。なんでもインスタントに時間短縮が求められる昨今、いっそ10年間辛抱して、堪え性を身につけようという事でそうなった。7年半の時が経ったので、復活まであと2年半である。その頃までには、もう少し世の中も良くなっていて欲しいと願うばかりである。

15年ほど前のリキッドルームのサブステージでギラギラナイトをやっていた時、なぜかジュリアン・レノンが会場を訪れ、その時に「俺にとってのイマジンとは何か?」を10秒間熟考し、出した答えが小沢昭一の「ハーモニカ・ブルース」であった。この曲を掛けていた間、妙な静寂が会場を包み、ジュリアンも黙って聞いていた。その時の光景は目に焼き付いている。

このイベントの目玉は、幻の名盤解放同盟の3人、湯浅学、根本敬、船橋英雄の各氏が勢揃いするという豪華さもあるが、ライブの方も夢の共演が繰り広げられる。

出演者の一人である元祖・新宿ジゴロの伏見直樹は、最近、47都道府県の名所を行脚し、それらをお参りするのではなく、対決してきたというから恐れ入る。これから厳しい時代になると、宗教などのご利益にすがる人々が増えてくるだろうが、神頼みにするのではなく、自分自身の力で生き抜くのだ、というメッセージを込めての行脚だったらしい。残された一県、沖縄ではハブと対決してくるらしい。無事の生還を祈りたい。

また、マイ・フェバリット・シンガーの一人であるギャランティーク和恵のステージも楽しみだ。昭和歌謡などという陳腐な言葉があるが、いま、この時代に歌謡曲というものが作られる可能性があるとするなら、ギャランティーク和恵のようなものであるといえる。職業作家と、市井の人々との信託関係が切れてしまった今、それでも職業的な意識を持って、市井との信頼関係を回復せんと挑む作品作りの姿勢は、高く評価したい。ヒゲの未亡人のパートナーであるゲイリー芦屋が作編曲を手掛けた7インチ・シングルも発売されるとのことで、これはライバル意識をメラメラと燃え上がらせるためにも駆けつけなければなるまい。

皆さんも年末のひと時を、ノスタルジックではない、現在進行形の歌謡曲の世界に浸ってみてはいかがでしょうか? それではまた来週!! 

岸野雄一